テスト結果はっぴょーう
「麗音愛、何位だった?」
「俺1位はとれなかったけど……7位だった」
テスト発表の紙を椿に見せる。
「すごいね!!」
「だ、だから」
「ん?」
「いつも2人で勉強してるし……わからなかったら
あの人に聞かなくても……」
あれ? 自分は何を言おうとしてるんだろう?
「別に大丈夫、雪春さんに教えてもらうから」
にっこり椿は微笑む。
その言葉に麗音愛は心臓が痛むのを感じる。
「……俺じゃやっぱ頼りない?」
「麗音愛の未来の邪魔したくないの」
「邪魔って……椿も一緒に大学行こうよ」
「……そんな無理だよ」
「どうして?」
「そんな時まで生きていられるかわからない」
ズキンと心臓が痛む。
「……なに言って」
ザーッとノイズのような、花吹雪が舞うかのように椿の顔がかすれてく。
「こんな日常続かないよ」
「! 俺が絶対」
手を伸ばしても届かない。
「もし生きてても、ここにはいないよ」
「椿?」
「だって、麗音愛もう疲れたでしょ?」
ピピピピピッピピピピピッ!
ハッ!! と目覚める。
「夢……」
アラームを止めて、はぁ……とため息つく。
寝起きのまま、トイレに行こうとすると
制服姿の椿が台所にいた。
今日は椿が朝食当番だったようだ。
カット野菜を盛り付けている。
「あ、麗音愛おはよう」
「おはよう」
寝ぼけ眼でトイレに行く。
エプロンをしてた。もふもふくんの柄だ。
この前の調理実習で買ったものだろう。
「おはよう椿」
さっきは寝ぼけていたのでもう一度言う。
「おはよ! 今日はパンだよ」
「ありがとう、朝から」
「当番だもん、麗音愛も同じようにしてくれるでしょ。パン焼く? そのまま?」
「自分でするよ、先に着替えてくる」
「そう……?」
エプロンって、ただの飛び跳ね防止の布なだけなのに……なんだか
いつもより
可愛いく見える。
さっきの夢でも調子が狂ったのに、なんだか立ちくらみ。
闘真なんかの言葉に惑わされているなんて情けない。
椿はいつものように笑ってるのに。
「「いってきまーす」」
もうセミが鳴いている。日差しも日々強くなる。
椿は中間テスト後に編入してきたので、初めてのテスト。
今まで屋敷で1人受けてきたテストを
教室で皆と受ける事に緊張したが、全力で頑張った。
麗音愛ももちろん、地下鉄作戦からは任務もなかったので勉強に没頭した。
返ってきたテストはそれなりに満足できる点数ではあったが
点数は、お互いまだ秘密だ。
「今日は順位発表だね、ドキドキしちゃうなぁ~~」
「順位より、頑張ったんだしさ」
そう言いながらも、麗音愛もソワソワしている。
「麗音愛はきっといいよ、頭いいもん」
「……そんな事ない」
「じゃあ、放課後ねっ!!」
「あぁ」
麗音愛の学校では
50位までの順位のみプリントで配られる。
朝に配られて、それぞれ教室で確認する。
「7位……」
正夢か……。
「すっげー玲央」
プリントを眺める玲央に西野が話しかける。
「椿は23位……」
「椿ちゃんって頭も良いんだなぁ~いいなぁ」
「椿ちゃんのために頑張って、結果出てよかったな」
2人の会話に石田も加わりそんな事を言うので麗音愛は驚いた。
「俺そんな事、ひっとことも言ってないよ?」
「あ、わり。なんかそんな感じに見えたから」
「椿のために俺が勉強頑張るって、おかしいだろ」
そう、おかしい。
椿のためじゃない。自分の未来のため……なはず。
「じゃ、なんであんな必死だったの? 親となんか約束?」
「そんなんじゃないよ」
「れぇええおおおおおおお!! お前、抜け駆けすんなよぉおおおおおお
俺の心を傷つけるなよぉおおお!!!」
「カッツーも50位以内に入ってんじゃん」
「当たり前だ! 俺は女にモテるために勉強頑張ってんだよぉおお!!
カッツー君教えて♡お願い♡って言ってもらいたいじゃん!」
「……え」
「でも、お前が俺より頭良かったら、玲央の方にいっちまうだろ!!
ムカつくだろ!
俺の女横取りすんなよぉおおおお……奪うなよぉお!!
……慰謝料を請求する……」
「あはは、そんな女どこにもいないだろ?
なぁ玲央……玲央?」
「どした?」
「いや……違う……そんなんじゃない……」
いつものくだらないカッツー劇場なのに
何故か動揺のような、心臓が変な音を立てる。
「玲央お前今、エロ画像思い浮かべただろ!! 言えよ! どんな画像だ?!!」
「浮かべてねぇよ!!」
なんだか疲れた放課後、
テスト勉強お疲れ様会ということで2人でカフェムーンバックスにやってきた。
コーヒーとフラペチーノで乾杯。
「麗音愛、7位おめでとう~~!!」
「……うん」
「嬉しくないの?」
椿は飲んでたフラペチーノを一口でやめて麗音愛を見る。
「1位じゃなかったし」
浮かない顔の麗音愛。
「みんな、すごいーって言ってたよ!」
「……ありがと。椿も初めてで緊張したのに23位なんてすごいよ。おめでとう」
「えへへ、麗音愛がいつも教えてくれるからだよ。ありがとう」
ぐりぐりぐりと掻き混ぜられるフラペチーノ。
味はオレンジショコラ。ホイップとオレンジとチョコが混ざり合っていく。
「俺が教えても……わかりにくいだろうし、頼りにならないんじゃないかなって」
「え!? そんな事ないよ、いつもとってもわかりやすい!
でも邪魔じゃないかなって思うから……いつも聞いたら悪いかなって……
わかりにくいなんて、ないよ」
椿は驚いて、慌てて、哀しい顔をする。
今朝の夢の中のセリフみたいな事を言うのでギクリとした。
「麗音愛、そんな風に思ってた? 私は……ホント迷惑かなって……邪魔かなって……」
「迷惑じゃない」
「え」
「邪魔なんかじゃないから」
じっと見られ、ドキッとする椿。
「う、うん」
「だから俺が教えるから……」
目を合わせては言えない。
でも、よくわからない感情に振り回されるなら言ってやる。
「わざわざ、他の奴に頼む事ないだろ」
頬杖をついて横を向いて言い切った。
「え……
う……うん!」
椿もうんうん頷く。
「じゃあこれからも教えてね! お願いします先生!!」
「せ、先生って……」
「麗音愛先生! 教えてください!」
チラッと横目で見ると、にっこり微笑む椿。
どんどん顔が熱くなってくる。
赤面してると思うとますます熱くなる。
「麗音愛? ……なんかやっぱり変。
1位じゃなくても十分すごいよ!!」
「うん……ありがとう」
「納得いかなかったの?」
「いや、そういうわけじゃないんだ」
アイスコーヒーにすれば良かった、と思いながら熱い顔で熱いコーヒーを飲む。
いつもと違う麗音愛に
ちょっと戸惑いながらも、素直に
教えてくれるという言葉に嬉しくなる椿。
「乾杯もう一回しよ? 麗音愛おめでとう」
「うん、椿もおめでとう、乾杯」
あははとお互い笑いあった。
心が満たされてきて、嬉しさの実感が湧いてきた。
「よっしゃ!! 7位!!」
「あは! よっしゃ!! だね!」
「麗音愛、何か悩んでたの?」
「なんかよくわかんないけど、もうどーでもよくなった」
「良かった!! 帰ったらゲームしよう!」
「おう!」
拳をコツンと合わせた。
その時、その時の感情に意味なんてもたせる必要なんて特にない。
そう麗音愛は思う。
今が楽しければいい、それが今一番最高に意味を持つ。
そう思ってるのに、
そのフレーズが気に入ったのか
「麗音愛先生、ここ教えてくださいっ」
なんて呼んでくる椿の笑顔を見ると、勉強めちゃくちゃ頑張って良かったと思ってしまう。




