ギャルの梨里とギャル男の龍之介
「椿ちゃん!よっちゃん無事か!?」
ぐちゅぐちゅと牙を出し這いずる幼虫のような妖魔や
ゾンビ犬のような妖魔まで、多種多様に群れ暴れているなか
美子の手を引いて、椿は剣一の元へやってきた。
「剣一さんは!?」
無事かと言う剣一の方が1人で大量の妖魔と闘い、怪我を負っている様子だ。
「俺は大丈夫だ、血も出てない」
美子を自分と剣一の間に置き、炎を最大限出現させる。
「できるだけ片付けて、麗音愛のとこ戻ります!!」
「数が多いから! 足をとられるぞ!!!」
そう言い終える前に、椿は小物の妖魔に足を絡みつかれ倒れそうになる。
「あっ!!」
倒れる前に、抱きとめられた。
麗音愛かと思ったが、全く違う。
「よぉ、お待たせ」
軽い口調の男、ツーブロックヘアで耳にはピアスがジャラと付いている。
「ひぇ!」
抱きとめた手には片手斧が握られて、椿の横でギラリと光った。
「お前が椿? 共同作業やるべ!!」
「龍か!!」
剣一が喜びの声を上げる。
「剣兄ズタボロっしょ」
「んなこたねぇぞ! よしやるぞ!! よっちゃん!!」
「はい!!」
「これで大仕事、最後だと思ってさ頑張って!」
「! は、はい」
剣一の耳にも同化剥がしの話が進んでいる事は入っていて
その言葉の意味が美子にもわかった。
ぐっと槍鏡翠湖を持って触れれば浄化する浄化結界を強化し張って
先の槍で妖魔を討つ。
その姿を見た剣一は、よし!と気合いを入れて
輝羅紫乃に力を込めた。
急に現れた男に戸惑いながらも、椿も奮闘する。
「俺が、針留めするから椿はそこを狙え!」
「はりどめ?」
龍と呼ばれた男は、その場で四角の結界を10数個張ると瞬時に針のように形を変化させ
妖魔に突き刺していく。
「すごい!」
動きを封じられた大物を椿が斬っていく。
「すげーべ?」
そうして2人で次々と倒していくが
龍は椿が気になるようでチラチラと様子を見ていた。
「顔は文句なし!おっぱいも尻もこれから育つかな」
そんな風に見られているとは気付かず、斬り伏せフワリと着地する。
全てを倒すのには、かなりの時間がかかった。
だが全員の健闘のおかげで、少し壊れた部分はあったが
地下鉄内部が運営不可能になるまで破壊されるという事態には至らなかった。
最後の妖魔を始末した途端に
麗音愛は椿が行った駅へと飛んで行こうとしたが
「ちょっと、隣駅までアタシ行けないよ! 連れてって!」
と梨里に言われ
「少し不安定だけど、我慢して」と呪怨で絡みつかせ一緒に飛んだ。
「ちょっとキモいんだけど!! ハグして連れてってよぉ!!」
ギャーギャー叫ぶ梨里は気にせず、2分で隣の駅に着き端ですぐに降ろし
麗音愛は走り出した。
「椿ーーー!」
「麗音愛!!」
椿も丁度、麗音愛の元へ向かうところだった。
全速力で走ってきて、2人駆け寄る。
「怪我ない!?」
「大丈夫、椿は!?」
「大丈夫」
そう言いながらも麗音愛は服がボロボロで血が出た痕は沢山ある。
椿もそれなりにボロボロだが治ってきているようだ。
「良かった、ごめん。結局離れてしまった」
「いいの……」
うるっと椿の瞳が潤む。
「ごめんね」
「なんで」
「私のせいで……」
麗音愛の頭の中に闘真の言葉が響く。
「椿のせいじゃない」
「でも……」
「違う」
「でも……」
「椿は関係ない、あいつは人を殺すのが仕事だって言ったんだ」
「……やる事全部私のためみたいな事言ってた……」
「言わせとけ、勝手に言ってるだけさ」
「……」
椿が下を向く。
「それに俺が前に思いっきり喧嘩売ったから、そのせい」
「でもそれも私のせい」
椿は、ここにいたら、自分のせいだと泣いて
いつか、椿はここが嫌だと思うんだろうか。
「違う」
「でも……」
「お願いだから、もうそんな……」
椿に手を伸ばそうとした、その時、
「玲央おつかれ様ぁ」
とぎゅっと麗音愛の腕に絡むギャル女。
「えっ?」
「やばーこれが姫様なんだ?可愛いじゃん、ちっこいんだね~~~」
「え」
むぎゅむぎゅっと大きな胸が麗音愛の腕に当たり
椿の目の前で揺れる。
「悪いけど離して……えっと」
「梨里だよ、リリィって呼んで!」
「おーいい!! 椿ーー!! 走るのはえーわお前」
「? 誰だ?」
「さっきの人」
「椿おつ!」
龍が駆け寄って、ぎゅっと、椿を抱き締める。
「きゃ! やだ!!!」
「やめろ!」
梨里の腕を払って、椿を抱き締めた男の腕を掴んで離す。
「なんだ、お前失礼なやつだな」
「バカ龍、玲央だよ」
「剣兄の弟か、俺は釘差龍之介」
「……咲楽紫千玲央……だ」
初対面から、どうにもやりにくい。
兄と同じ軽薄さを感じる男だ。玲央は無表情のまま龍之介を見る。
「椿、可愛くて強くて最高だな」
「玲央もイケてたよぉ」
「おい、お前らーーー」
剣一が遅れて、ヨロヨロの美子を支えながらやってきた。
「剣兄~~!!」
「おう、梨里」
梨里が剣一に飛びついて、頬にキスをする。
美子が横でぎゃ! という顔をして、椿も、その行為に驚く。
「リリィって呼んでよぉ」
ぷにぷにと剣一の頬をつつく梨里。
「はは、相変わらずだな、爪刺さるって」
「兄さん、この人達は……?」
「東支部の、強い2人。助っ人で頼んでたんだ」
「遅くなってまじごめんね」
謝る態度とは思えない仁王立ちで立つ姿はボイーンと
また大きな胸がユサユサと揺れる。
「あ、美子じゃーん来てたの? ひっさー」
「お久しぶり」
正反対のギャルと清楚系の2人も面識はあるようだが
見ていると仲良くはしていないようだ。
「椿さん! 剣一君!!」
ホームに雪春が駆けてきた。
背後からは処理班が大勢やってくる。
「雪春さん、来てたんだ……」
「今、救急車を手配している!! 椿さん、玲央君2人ともボロボロじゃないか」
「わ、私は大丈夫です」
「俺も大丈夫です」
「でも……2人とも血の痕もあるし……それに椿さん、大丈夫かい?涙が……」
「あ、平気です」
ハンカチを取り出し、椿に渡す。
「ここの近くの病院に明日まで入院しよう、メンタルセラピストもいるから
もちろん、剣一君も藤堂さんもね。学校にはこちらから連絡する」
はいと頷く剣一。
「じゃあアタシらはこれで帰っていっすか? 約束あるから~」
「あぁ、東支部の2人だね。怪我がないのなら、あとで報告だけは忘れずに」
「はーい」
玲央の頬にもキスをしようと近づいたが、スッと麗音愛はかわす。
「えぇアタシのキス拒否とか、まじやばぁい~玲央♡」
「椿したらな」
「玲央~超気に入っちゃったぁ~またね」
龍之介と梨里はまるで学校が終わったかのように普通に帰っていった。
今キスしようとしたと、椿はあわわと赤面している。
「? 椿、行こう」
「う、うん……」
麗音愛は特に気にもしないような顔で、歩き出す。
外部に事件がバレないように、静かに
4人は団員の運転するワゴンに乗り込む。
剣一が少し怪我をしていたが救急車に乗る程ではないと
他の団員の方に譲った。
「美子、大丈夫?」
「うん私は大丈夫……ちょっと擦りむいたかな程度」
「兄さん、怪我は」
「あ~大丈夫だ……テテ」
ふっ飛ばされて、打撲したらしい
あちこちが痣になって血も出ている。
「ごめんなさい……」
椿がシュンとなって、また涙が瞳に溜まっている。
「な、なんで椿ちゃんが謝るんだよ」
「そうだ、椿。もう自分のせいだなんて謝るのも、思うのもやめよう」
「でも……」
「じゃあ、椿を連れてきた俺のせい。全部俺が悪い。そうしよ?」
「それは違う」
「違わない」
「そうだ! そうだ玲央が全部悪い!!」
暗い2人に、剣一が急にそう言うと麗音愛を指差す。
「そうだ、俺が全部悪い!!」
麗音愛もそれに乗る。
「そうそう、玲央が悪いって事にしよう」
「えっ美子まで」
「あはははは!! 玲央が悪い!」
「玲央のせい~~」
剣一が笑い飛ばして、麗音愛も笑って、美子も笑った。
「ね?」
「麗音愛……」
驚いて目を丸くしてた椿が微笑んだから溜まった涙が溢れた。
そんな椿を見ると
切なさで胸がいっぱいになる。
麗音愛の代わりに美子がそっと椿の手を握った。
「そんな風に自分責めてたら、もたないよ椿ちゃん」
「美子ちゃん」
病院に着くと、剣一と美子は処置室に通され
麗音愛と椿は問診で終わり
今日泊まる部屋に通される。
大部屋で今日は4人で泊まるということになってしまった。
「椿、メンタルカウンセリング受けなくて大丈夫?」
「うん……だって、話しても誰も意味わかんないでしょ」
「吐き出して自分が楽になるものでもあるから」
「うん……でも、いいや」
「俺に話せることだったら、いつでも話して」
「ありがとう」
「どうせ、寝れないだろ?ゲームしようか」
「眠くないの?」
「俺も闘って、なんかまだゾクゾクするっていうか寝れそうにないよ」
「じゃあ、する!」
2人で携帯電話を取り出し、ベッドの上で通信ゲームを始める。
病院のベッドは腰掛けにくく結局2人でうつ伏せに横になってゲームした。
携帯電話でもレースゲームで対戦を続ける。
治療を終えて入ってきた美子が、その光景を見て驚くが
『私は眠剤もらったから寝ます……』とそそくさとカーテンを引いてベッドに入った。
「眠れないのはわかるけどな~」
とレントゲンを取り終えても
剣一は怪我と戦闘で気が昂ぶって、あ~エロい事がしたいと思ったが
この状況なので剣一も、もらった眠剤を飲む。
「お前らも眠剤もらったら?」
「ゲームしてるから別にいい」
そのまま寝ている2人の邪魔にならないように話もせず
ゲームを続けていたが
うつ伏せのままウトウトと椿は眠った。
さすがに前回の反省を踏まえ、そっとベッドから麗音愛は降りて
自分のベッドに入る。
椿はすうすうと寝入って安心した。
どちらにしても、もう朝だ。
そう思って朝陽がカーテンに映るなか、麗音愛は考えていた。
自分はこれから、どうしたら椿を守っていけるんだろうか。
今回のような閉鎖的な場所での戦い方も覚える必要があるし
もっともっと力の使い方を覚えて強くならなければ……
ただ、刀を振って呪怨を操って敵を倒せばそれで終わりなわけじゃない。
紅夜会の狙いはなんなんだろうか?
あいつらは人間じゃないんだろうか?
戦って、闘って、その度に椿が泣くのなら
やはり最終的に紅夜を滅ぼす事が最終的な解決。
わかってはいたこと。
これから一層、殺し合いに身を投じなければ。
だけど、この何百年も続いている闘いにピリオドなんて打てるのか……。
闘真の言葉が蘇る。
『お前も疲れて、いつか追い出す』
「……誰がそんな事するか……」
白夜団も絶対的な味方ではない。
次に以前のように椿を怯えさせるような事があったら殺してしまいそうだ。
思い出してますます眠れなくなってしまう。
はぁっとやるせない息を漏らした。
「おはよ」
「おはよう」
「昨日の任務、損壊はあったが妖魔の気配はなくなったし、まぁ成功ってとこだってさ。
死人もなく逃げる時の転倒での怪我くらいだって。よくやったよ、俺らは」
「良かった」
全員寝不足だが
麗音愛は一睡もしてなかったので一番の寝不足。
新幹線で、
また窓側の席に座った椿は景色を眺めたかったが
またうとうととしてしまう。
「ん……」
コツンと麗音愛の頭がゆっくりとあたる。
麗音愛の方が先に眠りかけていた。
椿は麗音愛が寝やすいように頭を寄せる。
今日は麗音愛の方がもたれてきて
髪がさわさわと椿の額と頬にふれる。
椿が少し顔を麗音愛の方に向けると、すぐそこに顔が。
昨日の梨里の頬へのキス未遂を思い出す。
あわわ、と思って
また頭と肩で支えながら前を向く。
すーすーっと寝息を聞いていると、それだけで安心した。
麗音愛の隣の美子もアイマスクをして眠っているようだ。
そっと麗音愛の左の手のひらに触れてみようとしたが
手の長さが違い過ぎて届かなかった。
何しようとしてるんだろうと、深呼吸して目を閉じる。
これから
どうなってしまうんだろう……。
紅夜会の破壊行動がもっと激化していったら……。
死んでも止めないと……。
自分への捧げもの? 冗談じゃない……。
こうやって、此処にいられるのも一体いつまで……。
不安ばかり浮かんで消えて浮かんでいく。
目を閉じて、麗音愛の温もりを感じる。
「あったかい……」
こうしていると自分の心臓の音も、許せる気がする。
こうやって、いつも眠っている時だけの夢……。
初仕事の時と、この前と、今。幸せ
眠るの大好き……。
停車駅のナレーションが入った時
麗音愛は少し目を覚ます。
「椿……」
「は、はい」
寝ぼけながらの思考が中断された。
「ん…………まだか……」
はぁ~と息を吐くようにして、姿勢を変えた。
「麗音愛……」
「うん……」
結局、また椿により掛かる麗音愛。
そっと左腕の服を引っ張ると
ぎゅっと手を握ってくれた。
「えへへ……」
やっぱり親友ってとても心地よい。
そのまま、安心で眠ってしまった。
「玲央、玲央」
美子が肩を叩いて麗音愛を起こす。
「あ……もう着いた?」
「うん、あともう少しだよ」
麗音愛と椿が手を繋いでいる事に気付き
また驚くが表情には出さなかった。
「椿」
「ん……」
「もうすぐ着くよ」
「麗音愛……」
ん、っと頷くと
何事もなかったように
お互いにすっと手を離した。
「もう着くんだね」
「そう、降りる準備しよう、あ~寝ちゃった。重かったよねごめん」
「全然大丈夫」
眠そうだけど、にっこり笑う椿。
カウンセリングなんかよりずっとこっちがヒーリング。
新幹線のホーム内を
ラーメンでも食べて帰ろうかと話す2人の後ろを剣一と美子が歩く。
「剣一君」
「んあ?」
「あの2人の関係ってなに?」
「俺にもわかんない、親友とか言ってるけど?」
「へー……」
「よっちゃん、玲央のこととられて嫉妬?」
「剣一君ってすっごく意地悪……」
「そうだよ~俺は意地悪だし軽薄だし最低最悪な男だよ~」
だから玲央にしとけば良かったのに、と剣一は思ったが
もちろん口には出さず。
「どうせこの後、セフレのとこ行くんでしょ」
「清楚系がそんなセリフ言ったら駄目でしょ!」
そんな話をしているとは露知らずの2人。
「テスト頑張ろうね麗音愛」
「あぁ! そんで夏いっぱい遊ぼう!」
「うん!! 楽しみだなーーー!!」
色んな不安は山程ある、それでも
17歳の夏は今だけ
微笑む2人に、夏がやってくる!!




