嫌な予感曇り空
美子が改めて剣一に告白すると言っていた土曜日
空はどんよりと曇っていた。
麗音愛と椿は、鍛錬で10キロ走り
自宅マンションの屋上で
剣五郎の指導のもと剣術を学び
椿は清めの術、麗音愛は精神統一の瞑想をする。
「玲央、乱れが激しいぞ。腹でも減ったか」
「椿じゃないんだから」
「むっ! 聖水かけるよ」
「それは勘弁!!」
椿は、紅夜の闘いの際に極限の状態のなか
桃純家の武器「緋那鳥」と継承同化した。
それが原因なのかはっきりはわからないが
以前より炎の威力も増し、清めの術を自分なりにアレンジして
炎で浄化できるようにもなった。
紅い炎と蒼い炎を交互にだして麗音愛に見せてあげる。
「キレイだな」
ふっと椿は、この前の初仕事で
麗音愛と美子が手を繋いでいた事を思い出す。
ボワッと炎が大きくなる。
「あっち!」
「あ、ごめん!!」
ポツ……ポツと雨が降ってきた。
「2人とも気が散っているぞ……だが雨も降ってきたし
今日はこれで終わりにするか……」
「「ありがとうございました!!」」
鍛錬が終わると、コロッと表情を変える剣五郎。
「椿ちゃん今日はお昼に天丼でも出前でとろうかの~~?」
「いえ! そんな! 朝ごはんの残りがあるので……」
「へぇ、なんか作ったの?」
「……ご飯炊いた」
「うん、で?」
「それだけ。それと、ふりかけ」
えへへと頭をかく椿。
なかなか料理の練習までは手が回らない。
「5合炊いたから、まだいっぱい! あります」
「そんなんじゃ栄養とれんぞ~椿ちゃん! じいちゃんとエビの乗っかった天丼食べよう」
「椿、じいちゃんもこう言ってるし。家に来たら?」
「でも」
遠慮してるのがわかっている麗音愛と剣五郎は、そのまま目の前で4人前の出前の電話をしてしまい
お互いシャワーと着替えをし昼食をとった。
「雨、ひどいね」
「あぁ」
麗音愛は美子の事を思う。
こんな酷い天気になってしまって、2人は今頃どんなドライブをしているんだろう。
美味しい物でも食べて笑っていればいいのだが……
と、天丼を幸せそうに食べる椿を見て思う。
「麗音愛、どうしたの?」
「いや、なんでも。美味しいね。ほらもう一杯食べなよ」
失恋した女の子を慰める
そんな経験はもちろんないし、何をしたらいいのかもわからない。
まぁきっと
からかわれただけだろうと思う事に……したいのだが、やっぱり気になってしまう。
鍛錬の後は、もちろん自由な時間なわけだが
結局
麗音愛と椿は勉強したり遊んだり一緒にいることが多い。
でも今日は……。
「椿、俺ちょっと出掛けてくる」
「どこ行くの?」
「えっと……」
「あ、ごめんね。聞いちゃって行ってらっしゃい」
「いや、別に」
「玲央なんてほっといて、じいちゃんとDVD見ようか」
「はいっ!!」
ちょっぴり寂しい気持ちになった椿ではあるが
いつも一緒にいるわけにはいかない事もわかってる。
でも
美子と出掛けたり? と思うとやはり胸が痛んでしまう。
椿はこの現象を誰にも言えないが、ズキズキ発作と名付けた。
出かけようとした麗音愛が振り返る。
「椿、今日、夕飯一緒に作ろうか」
「え! うん! いってらっしゃい!!」
「買い出しもしてくるよ、行ってきます」
「はーい!! わーい!! 行ってらっしゃい!!」
麗音愛は1人でモールに来ていた。
もふもふくんのぬいぐるみを買いに来たのだった。
椿と一緒だと、また遠慮して手のひらサイズかキーホルダーしか選ばないだろう。
女の子の好きなファンシーショップに入るのは
少々恥ずかしいが
頑張って買うぞ!! と気合いをいれながら雨の中歩く。
きっと喜ぶだろう、また笑顔が見られる楽しみが、生きてる実感。
でもまた美子の事が気にかかる。
兄にいつ出掛けるのかも聞いていないし、ドライブデート?
が何時に終わるのかもよくわからない。
兄が心変わりして、ハッピーエンドになることはないだろう。
ずっと、モテまくりで女たらしで都合が良いから
フリーでいるのかと思っていた。
なんとなく、兄に対しても罪悪感を覚えてしまうが……そこは深くは考えない。
恋とか、愛とか
そういった熱い情熱みたいなものが……遠い存在になっているようで
晒首千ノ刀のせいなのか
それとも元々こうだったのか、それすらもう、わからない。
だから考えたくもない。
自分が異質に思えて。
そんな事より、プレゼントと今日の夕飯のメニューを考えていた方が楽しいし
祖父の時代劇DVD鑑賞に付き合うのは御免だが
急いで買って帰ろう。
傘を差して霧雨の中歩く。
ひどくなる前には帰るし短距離だし、と両親から貰ったスニーカーを履いて出掛けた。
「お! 玲央ー!?」
いつものメンバー、カッツー・石田・西野がモールに入ったばかりの麗音愛に声をかける。
「石田? あれ! みんなしてどうした?」
「えぇ? カラオケ行くって話してて……カッツー誘ったんだよな?」
「あぁん? 西野が誘ってると思ってたぞ俺は~~」
「俺は石田が誘って、用事あるのかと思ってた」
こういう事も結構ある麗音愛だった。
もちろん呪いのせいだ。
もっと小さい頃は悩んだり、落ち込んだが今はもう気にならなくなった。
みんなが、わざとではない事がわかったから。
「椿ちゃんはぁ?」
「今は一緒にいないよ」
「じゃあカラオケ行こうぜ!」
「え……」
「お前最近付き合い悪いぞ~~~」
「玲央、行きたいって言ってたじゃんか、用事あるなら無理にとは言わないけど」
確かに最近、このメンバーだけで遊ぶ事がなかった。
本当にこの一ヶ月で何もかも変わってしまった。
「スネちゃったのかい~~??? 許せよ!! 玲央! 行こうぜ! レオ様!
俺と歌おうぜ! ミーチューブ1位のあの曲をさぁ。俺踊り覚えたから! ひゅーー!!」
「カッツーの、そのノリ見習いたいよ」
麗音愛は吹き出して、一緒に行くことに決めた。
昼過ぎに2、3時間カラオケをしたとしても
ぬいぐるみを買って、夕飯の買い出しをして十分間に合う。
いつ死ぬか、事切れてしまうかわからないのだから。
友達が何より大事。
それが青春。
カラオケに入って、そういえば椿はカラオケって知っているかなと考え
イトコンの言葉が脳裏を横切る。
椿は、掃除をしていたり、食事の支度をしてる時
何か無意識に口ずさむ歌がある。
子守唄と数え歌。
自分が見ていると気付いて、恥ずかしそうにやめてしまう。
もっと歌ってなんて言えるはずもないが、聴いていると心地よい。
今度、何か今の曲でも一緒に覚えようか……。
またイトコンの言葉が脳裏を横切る
だが
イトコンでもいいやと開き直った部分もあった。
「おい! 玲央!! 入れたか?」
「あ、よし! 歌うぞーーー」
男子4人で盛り上がり、カッツーが延長! 延長! と電話に出ては伝えるので
結局17時もかなり過ぎた解散になった。
「玲央、飯は?」
「悪い、俺……」
「イトコン!! 牛丼になっちまえよー!」
「ならねーよ!! 飯当番なんだよっ悪い!!」
興奮冷めやらぬカッツーを2人が宥め、ファミレスに行く3人と別れた。
別れ際の話も盛り上がってしまい
思った以上に時間が過ぎてしまった。
携帯電話をチェックするが、誰からも何もきていない。
椿はメールは苦手だし、電話をする程でもないか……と電話を仕舞おうとすると
電話が鳴った。
そこには『藤堂美子』と名前が出ている。
美子からだった。




