ふわむかパジャマ
佐伯ヶ原を殴りつけてから数日後
登校時、麗音愛と椿が2人で校門辺りに着くと
「椿!!」
と大声で呼ばれ振り向くと
佐伯ヶ原が鼻に絆創膏を付けて立っていた。
「う、うわーーー!!!! 佐伯ヶ原君!? な、なんで」
「椿に近づくな!」
また椿を背に守るが登校中の生徒達がわんさかいるなか、どうする……と緊張が走るが
「俺が間違っていたよ
俺は……ずっと君達をここ数日観察していたんだ……」
「えっ!? こわっ!! てかなんで学校にいるの!?」
「お前に暴言吐いたぐらいなんの罪にもならないよ。
咲楽紫千君からの俺への暴行は不問にしてもらったんだから感謝してほしいくらいだ」
「感謝だと?? また、椿を傷つけるならいくらでも殴るぞ」
睨みつける麗音愛の瞳を見て、頬を染める佐伯ヶ原。
「君の……そういうヴァイオレンスな部分やあの凄まじい
ダークな面や世界も見て、俺は絵の完成図がやっと決まった……。
君の美しさは憂いなんかじゃなかったんだ!!!あのダークヴァイオレンスな面から
椿へ向ける
聖母の微笑み……深みだ!美の極みだー!!」
「ゾワッとする……」
「仕方ないから椿もあの絵に描き入れてやろうと思う。感謝しろ!!」
ビシッと指をさされる。
「なんで上から目線の……呼び捨てに指さしっっ」
「俺は団の先輩だぞ」
2人にだけ聞こえるような声で、囁く佐伯ヶ原。
「はっ!? やっぱりあなたも!? あの短剣やっぱり」
「同化はしてないが白夜団、明橙夜明集の継承者の一人
佐伯ヶ原亜門
俺はこれからも、もっと咲楽紫千君、君の近くで君の美しさを絵描いていくよ!!」
「え、いらないよ……」
引く麗音愛。
つい、椿の方が麗音愛を守ろうと前に出てしまう。
「椿!! お前の一枚絵も描いてやる
お前の外面の良さだけは俺も評価している。
中身の小猿さはどうにも好かないけれど」
「こ、こざ……」
「じゃあ今の美しい睨みを早くカンバスに絵描きたい!
じゃあ玲央様!!」
「なんなんだ……」
呆然とする2人を置いて、佐伯ヶ原は玄関へ入っていった。
その日の夜
勉強を教えてほしいと言われ
了解して、椿の家の玄関をいつものように開けると
ふわふわな部屋着を着た椿が現れる。
ピンクや水色、ユニコーンカラーのふわふわパーカーに
下は短いショートパンツ。
「ど、どうしたの……」
「佐伯ヶ原君がくれたの。
すっごく上から目線で、家でも美意識がなんちゃらかんちゃら……初心者にはまず
この程度だってさ。
だけどお詫びにって……意味みたい。一応悪かったって言われたよ」
「許してあげたの? あいつの事」
「うん同じ白夜団だし
……麗音愛の事はすごく綺麗って、すごく褒めてるし……」
「俺……全然!! 嬉しくないけど……」
「私は嬉しかったの」
「何故?」
「だって、麗音愛が綺麗でかっこいい事わかってくれるの嬉しいよ」
「な、なに言ってんだよ」
ふわふわの萌え袖でふふっと笑う椿。
笑顔は変わらないのに、なんだかいつもと違って見える。
「あーこの問題わかって良かった! ありがとう!! でも疲れた……」
背中のソファに背を預ける麗音愛に
ふわっと、いつものように肩にもたれてくる椿。
安心する温もり。
でも、なんだかいつもより心の奥に熱が籠もる。
「お疲れ様」
「うん」
「服、似合ってるよ」
「え、あ、ありがとう」
「ただあいつからのプレゼントだと思うと、なんか……」
なんだかムカつく。とは麗音愛は言わなかった。
「えぇっ! ……着替えた方がいいかな」
「いや、そのままでいいんだけどさ……ただなんかこの前の働いた分の給料が出るみたいだから」
「うん?」
「そういうの買いに行こ、俺買うから」
「えっ!?」
驚きで離れる椿。
麗音愛も自分で言って、唐突過ぎたかなと少し慌てる。
「な、なんで!? 麗音愛の頑張ったお金なのに」
「い、いや……友達でお世話になってるし」
「そういうもの?」
「う、うん、そう、多分そういうもの」
へぇ……と自分のふわふわパジャマの袖を見つめ、麗音愛を見る。
「じゃあ私は麗音愛のパジャマ買う! 私のほうがお世話になってるもん!
麗音愛も絶対似合うよ」
「えっ俺が? そのふわふわ着るの……?」
「うん!」
2人でふわふわパジャマ……。
「いや、やっぱおかしいだろ」
「いいよ~絶対似合う……! ……ねぇ麗音愛」
「ん?」
「……寂しかったりする?」
携帯電話でふわふわパジャマの売っている場所を調べる麗音愛に
椿が聞いた。
「俺が?寂しい?全然」
サラッと言ってしまったが、それは椿がいてくれるからだった。
「楽しい?」
「うん」
最近、楽しいのも椿がいるからで……。
でもそんな事は言えない。なんか、言えないよ。
「良かった」
「椿は?」
「楽しい、とっても」
「良かった」
椿の笑顔を見ると、またジリっと胸の奥が熱くなった。
死んでるのか生きてるのか
わからない、そんな境界を行き来している心が温まる。
心の平和の存在。
こんな感情はなんなのか、それに名前を付ける必要は今はないような気がした。