悪鬼!?カースブレイカー
放課後、美術部に見学に来た椿。
「こっちだよー」
佐伯ヶ原に招かれ
美術部のアトリエに入っていく。
「お邪魔します……佐伯ヶ原くん1人のお部屋があるの?」
「うん、俺のアトリエとして使わせてもらってるよ」
「わぁ大きな絵!」
椿の背以上ある巨大なカンバス。
そこには天使のような人物像が描かかれている。
美しい天使……天使だから性別はないのだろうか
男か、女か。
どちらの美しさも兼ね備えているような……。
「これ……麗音愛?」
「気付いてくれたの椿さんが初めてだよ!」
「わかるよ」
でも、まだ眉や口元は描かれておらず表情は読みとれない。
「あ、あはは。気持ち、悪いよね」
「え? どうして?」
「どうしてって……男同士だし」
「それってダメなの?」
「ふふっ。椿さんも、天から降りてきた無垢な天使みたいだ」
「ただ、無知なだけなの」
「渡辺さんは今日悲しそうだねずっと」
「佐伯ヶ原君は、なんでも見える人なの?!」
「そんな、そんなわけはないけど……。でも……そうだね。
絵を描くためにジーっと見る時間が長いかな。
そうすると人に見えない物が見えてくるようになる。
椿さんも」
「え?」
「とっても可愛くて華やかで魅力的で、みんなが好きになっちゃう。元気いっぱいでさ。
でもジーっと見ると……」
「ん?」
「ちょっと哀しそうな女の子に見えたよ」
「佐伯ヶ原君」
「咲楽紫千君は入学した時に見かけて、すごく綺麗で俺は心臓が止まる程に驚いたんだ。
ずっと隠れて見ていたんだけど、とっても優しい人なんだなって心まで美しい」
本当に佐伯ヶ原には麗音愛の呪いが一切効かず見えているらしい。
そういう能力を持つ人間がいると椿は文献で読んだことがあった。
結界や呪いや幻術が効かない人間……カースブレイカー。
生まれもった能力なのだろうか……。
「うん。麗音愛は優しい……」
「彼は図書部の部長さんが好きなのかな。あはは」
「うん……」
「でも図書部だけじゃなく色々手伝ったりしてるの見ていて……誰も気付かないのさ。
あの寂しそうな孤独の顔、美しさ……」
麗音愛が孤独なんて思うと椿の胸は痛む。
「でも事故でお休みしてから、椿さんが来て。そしたら、咲楽紫千君の顔が変わったんだよ」
「え?」
「寂しそうな顔じゃなくなって、楽しそうな顔になった」
佐伯ヶ原は下を向く。
「君と一緒にいるようになって……。変わってしまった……」
「楽しそうなのはダメなの?」
「この絵が完成させれなくなったよ」
佐伯の顔が一瞬で豹変する。
「俺は彼の憂いに満ちた、孤独で不完全な笑顔が好きだったんだけど」
「佐伯ヶ原君……どうしたの?」
「なんでお前が、それを破壊したの?」
「えっ……」
妖しく光る短刀を懐から出す佐伯ヶ原。
ごちゃごちゃとした美術室。
後ろに下がろうとして資料がバサバサと落ちる。
豹変した顔の佐伯が椿を睨みつける。
「佐伯ヶ原君……あなたは何者なの……!?」
「うるせーぞ!! 紅夜の売女がぁ!!!
俺の芸術品を壊しやがってーーーーーーーー!!!!」
穏やかだった佐伯ヶ原からのいきなりの暴言。
その瞬間、椿も自分の剣を具現させ、佐伯ヶ原に向ける。
「! なんで紅夜の事を!?」
「俺の、俺の咲楽紫千玲央を壊しやがって!!」
「何言ってるの!? 麗音愛は麗音愛のもので、誰の物でもない!!」
「俺は、お前の素顔が見えるぞ!!」
「!」
「綺麗な顔してようが災厄の紅夜の血をひいた薄汚い、売女だ!!
男どもを誘惑して汚い女!!」
「なっ」
「涙を流してるような悲しげなふりしたって可愛げある女のふりしたって、罰姫なんだよ!!
お前は汚い女だ!!」
「さっきから~~~~!!
女だ女だ、うるさいよっっ!!!」
「咲楽紫千玲央は、男でありながら、あんなにも美しく孤独で憂いがあったから絵になったんだ!!」
「それもうるさい!! 麗音愛は麗音愛だよ!男だとか女だとか関係ない!!
孤独になんて私がもうさせない!!」
「お前、知ったような事言って、この前知り合っただけだろう!!! 元いた場所に帰れよ!!」
「!!」
グサリと、椿の心に刺さる。
「俺はずっと彼を見てきた」
「ずっとじゃないでしょ! 入学って言ってたし!」
「あぁ藤堂美子には負けるよ!!」
「!」
「でもお前のような薄汚い呪われた女に!! お前みたいな罰姫に……!!」
と佐伯ヶ原が言い終わる前に、佐伯ヶ原は吹っ飛んでいった。
「椿!!」
「れ、麗音愛っ!?」
麗音愛が佐伯ヶ原を殴りつけたのだ。
「薄汚いとか罰姫って椿に言ってるの聞いて、殴ってしまった。無事か!?」
突然現れた麗音愛だったがそう言うと、椿を背後に守る。
「ど、どうして……」
「なんとなく……やっぱ心配で、来て良かった」
「わ……私」
ぎゅっと麗音愛の背中に抱きつく。
「! ……椿」
「麗音愛!! 私、麗音愛の事、男だって思ってない!!!」
「ん?」
「だから、大嫌いって違うの!!」
「……うん、わかってる。親友だろ、俺たち」
「親友?」
「一番の友達って事!」
「親友……うん!!」
殴られ、吹っ飛んだ佐伯ヶ原が鼻血を出しながら、短刀を麗音愛の後ろにいる椿の方に向けている。
「椿に手を出すというなら容赦しないぞ」
「こ、この女は、君にとって毒です!貴方の美しさが損なわれるっ!!俺はっ」
「勝手に椿といる俺を否定するな!!」
「でも貴方の美しさがっ」
「余計なお世話だ……俺はそんなもんどうだっていいんだよ!!!」
麗音愛が呪怨を発動させ、叫び手を伸ばす怨霊達のおぞましさを見せつけた。
「ぎゃあ!」
カースブレイカーの佐伯ヶ原は失神し、その場でひっくり返る。
「私も一発殴りたい」
ぼかっと一発佐伯ヶ原にお見舞いする。
「色々言われて……大丈夫?」
「今更、あんな事言われたくらい全然平気」
そう言いながら、きゅっと麗音愛の学ランの裾を掴む椿。
この前知り合っただけ、という言葉が胸に刺さった。
本当にまだ出会ったばかりの存在。
それでも……。
裾を掴む手を、麗音愛がぎゅっと握った。
「一緒に帰ろう、椿」
「うん」
真っ暗な帰り道。
「また手紙、沢山入ってたね」
「うん、内容はわかんないけど」
佐伯ヶ原は御見張りさんに連行してもらった。
帰ろうかと下駄箱をあけると、沢山の手紙が入っていた。
どうやら先日の告白騒動が広まり、昔ながらのお手紙告白が学校で流行ってしまったようだ。
「きちんと読むよ、でも交際を求められたら断ると思う」
「うん」
「あの……」
「ん?」
気持ちを伝えるって勇気がいるんだなって椿は思った。
でも息を吸い込んで、歩きながらでも麗音愛の顔を見る。
麗音愛は歩みを止めてくれた。
「男だとか女だとか、そういうのよくないって思った!!
昨日、男が大嫌いって言っちゃってごめんなさい! ギラギラして触ってくる奴等が嫌いなだけ」
「うん……俺も追いかけて、怖い思いさせてごめん」
「違うの!! 怖くない!!
麗音愛は全然違うもん! 麗音愛が怖いなんて思ってない! ……言葉が出なくて……」
「椿……」
「本当は……もし呼び出されたら一緒に来てほしかったの。無粋とか気にしなくていいから、一緒に着いてきてほしい……」
椿自身にもわかる気持ちは、まだそこまでだった。
「なのに、あんな……走って逃げてごめんなさい」
「……うんわかったよ。今度から着いていくね」
「ありがとう」
「気持ち聞けて安心した」
気になって気になって、眠れずにいた。
やっと安心できたと思って麗音愛は笑った。
「親友だもんね」
「そう。そうだよ」
拳を2人でコツンと合わせる。
「俺らは俺らだ」
「うん!!」
「でも俺のミートソース食わない人は、親友じゃないかもな……」
あの後、冷凍庫に仕舞った椿分の3人前のミートソース。
「えええ!? 麗音愛のミートソース!?食べたい!!」
「最高に美味いのに残念だったなー」
「ええぇ食べたいよ」
麗音愛の影を踏むように慌てて追いかけてくる椿を、かわすようにして笑う。
「あと3人前くらいは残ってるかも?」
「お願いお願い!!食べさせてくださいーーー!!」
今日は2人で笑いながら、帰る。
寂しさも孤独もない、心からの笑顔。




