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呪殺魔法陣・黒怨呪


 麗音愛の戦闘が続く頃、椿達もまだ戦っていた。

 剣一の天啓式てんけいしき聖雷法せいらいほうを食らいボロボロになっても、椿への殺意が消えない紗妃。


 彼女が子供時代に受けた虐待を思うと椿の心も痛む。

 だが、その殺意に負けるわけにはいかない。

 

「止血にこれを」


 紗妃が転移結界で妖魔を呼ぶ少しの合間に、剣一が椿の怪我に貼るよう止血用テープを渡した。


「ありがとうございます」


「怪我、本当に治らない?」


「はい……」


 全く治らない怪我の痛みが椿を蝕んでいく。


「わかった。早くこの場を切り抜けて病院行こう」


「剣一さんも、どうか気をつけてください」


「うん、ありがとう。できるだけ連携して離れないように」


「はい!」


 椿にとって今剣一と一緒に戦える事は心強い。

 麗音愛も戦っている! 早く行くんだ! と椿は息を深く吐いた。

 緋那鳥を構え、山中の道路。

 三人を囲むように椿の炎が次々に灯っていく。


「罰姫を殺せぇ!」


 炎に映し出された、無数の人型の妖魔。

 紗妃の怒声と共に一斉に向かってくる。

 綺羅紫乃を輝かせながら先程の戦いの疲れも見せず、立ち向かう剣一。

 椿も青い炎と緋那鳥のコンビネーションで斬り伏せる。


 その間を縫って、斬りかかってくる紗妃。


「ひゃははは!」


 痛みも感じないのだろう。

 狂ったように笑いながら、楽しそうに椿が血を流すのを喜ぶ紗妃。


 剣一の援護で距離をとる。

 

「うるさいうるさい! このクソ男! 邪魔をするなぁ!」


 紗妃が『斬姫刀ざんきとう血ノちのゆめ』の切っ先でアスファルトに何か刻む。

 足元に書かれた魔方陣が、時計の秒針音のような音とともに不気味に広がっていく。


「この汚い炎も、お前の鬱陶しい光も全部消えろ!」


「この魔方陣……! 呪殺魔法陣(じゅさつまほうじん)黒怨呪(くろえんじゅ)か!」


 この場所に予め用意してあったんだろう、道路脇の森そして道路上に六芒星に並べられた術具が赤黒く光る。


「あっ! 私の炎が……」


 一気に広がる巨大な魔方陣。

 完全な呪いの術。

 発動と共に椿の炎は握りつぶされるように消えていく。

 夜の闇が更に濃くなり、黒い霧があたりを包む。

 地面のアスファルトがまるで深い穴のように真っ黒に見える。

 隣にいた剣一も暗闇のなか見えなくなった。


「剣一さんっ!」


「つば……ちゃ……少しだけ……耐える……んだ!」


 遠いのか近いのか、かすれたノイズのような声が聞こえた。

 独りぼっちの闇の中。


「息が苦しい……」


 妖魔達は宴が始まったかのように狂気の叫びを上げ、攻撃のスピードが早まった。

 逆に、椿は身体が重くなり炎の威力も弱まってしまう。

 普通の人間ならば毒気にやられて倒れていることだろう。


「あはははぁ! 最高だ!」


 なんとか目を凝らし攻撃を避けるが、斬り付けてくる紗妃の攻撃力も増した気がする。

 焼け焦げたボロボロの身体など、なんの影響もないように笑い声だけが響く。


「きっ気持ちで負けない!」


 そう言って気丈に椿も立ち向かうが、この呪われた空気に包まれると心臓がザワつく。

 炎の力も動きも弱くなっているのに、心の奥の奥の奥で何か疼く……?


 妖魔の喜びの叫び。

 それと同じように、まさか自分のなかの紅夜の血が喜んでいるとでも!?


「いやだっ……」


 嫌悪感で泣きそうになる。


「死ね! お前がこの世で一番汚い存在なんだ! お前が死ぬべきなんだ! お前に価値なんかないんだ!」


 繰り返される斬撃。

 紗妃の言う言葉は二人が屋敷で言われていた言葉。

 一撃、二撃、その度に吐かれる言葉は椿を幼子の思い出の闇へ誘っていく。


「違う! 違う!」


「違うわけないだろぉ! お前なんかいなけりゃ良かったんだ!」


 先に心に刺さった言葉で反応が遅れ、斬撃を左腕で受け止めてしまう。


「ぐっ!」


 また血が真っ黒な地面に飛び散る。


「お前なんかいらないよ!」


「そんな事、君が勝手に決めるなよ」


「なに……!?」


 深い深い闇に、また光が灯る。

 呪殺魔法陣の霧が一気に蹴散らされるように地面が光輝く――。


 剣一の掌から、青炎せいえん安定結界計画のために作られた椿の炎の青い結晶がこぼれ落ちた。

 キラキラと輝いて、強い浄化の力を感じる。


「椿ちゃんは、みんなが必要としているよ」


「剣一さん……」


「みんなに愛されている……!」


「貴様ぁ!」


 青い結晶を六方向に飛ばし、呪殺魔法陣の更に上から応用術で聖結界を張る剣一。

 妖魔達が今度は輝く光に照らされ悲鳴をあげる。

 紗妃の身体も圧迫されたように身体が曲がり、『斬姫刀ざんきとう血ノちのゆめ』も苦しむかのように細かく揺れた。

 

 涙を拭いて、剣一の元へ駆け寄る椿。


「かなりの負担がかかってしまうけど、とりあえずこの場所にはもう俺達しか入れない結界を張る。決着をつけよう」


 この術を使い続ければ、剣一の動きも攻撃力も半分以下になってしまう。

 それでも決断した理由は剣一には一つ疑念があったからだ。


「やはり気付かれてしまいましたね」


 剣一が結界を完成させる前に、上空から聞こえた声。

 ゆっくりと紗妃の横に輝く地に降り立った男。

 

 「絡繰門……雪春……」


 一つ縛りの長い髪が揺れ、紅い軍服が翻る。

 裏切り者は、この場に似合わぬ笑みを浮かべた。




 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 気持ちが負けてない椿ちゃんいいね!(・∀・)イイネ!!
[良い点] 紗妃ちゃん好きだわぁ…仲良し女子が好きな私としては是非ギャンギャン吠えながら椿ちゃんと仲良くなって欲しい(´;ω;`) 難しいだろうけど…。 女の子はみんな救われてほしいね。 雪春は…痛い…
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