不気味な風が吹く
「麗音愛! そっち!」
「任せろ!」
田舎町での妖魔の発生。そして任務。
最近、小規模ではあるが事件が増え続けている。
白夜団内の特務部員達も疲労の色が見え始めた――。
それを知った麗音愛はできる限り、自分が駆けつけ対応している。
そして椿もまた一緒に行くと言い張るので一緒に戦う。
最近では目撃者の数も増え、以前のように他言無用の契約をさせるのは不可能になっていくので……との声もあり団内では議論が続いている。
妖魔に襲われかけた若い男。
町外れで山に近い場所で暮らしていたらしい。
椿が駆け寄り、震える男に毛布をかけた。
「大丈夫ですか? 怪我はないですね?」
「……ぐう……ううっ」
「え……? どうしました!?」
外傷はないが、突如苦しみ始め病院に運ばれた。
当初は恐怖によってパニック症状が起きたか、ショックで心臓への負担がかかったか……などと思われていたが持病もない。
そしてそれは――人間にとっての恐怖の始まりだった。
◇◇◇
数日後の白夜団会議。
当主の椿はもちろん、麗音愛と剣一も出席する事になった。
「それでは私、恩心月太狼と滑渡拓巳さんで今回の件の報告をしたいと思います」
月太狼も滑渡拓巳も、背が高く線の細い綺麗な青年といった雰囲気。
長めの茶色の髪は地毛だという月太狼。牙のような八重歯も特徴的だ。
拓巳は黒髪のメガネで大人しめに見えるが両耳にピアスを沢山しており、団服の首元からはタトゥーの模様が見える。
派手な外見をしているが、二人とも温厚な青年なのだ。
前に出る二人を見て麗音愛がコソッと椿に話しかける。
「どうして、あの二人が?」
「恩心家は降霊術や式神のエキスパート、滑渡家は呪いや祟りのエキスパート……と言われているけれど」
「式神!? すごく強そうだ!」
「それがそうでもなく……玲央君の一振りの方が断然強いよ」
聞こえていたのか、月太狼が微笑む。
近い年齢の若者だけの会議なので、そこまで堅苦しい空気ではない。
「す、すみません私語を」
「いえいえ、その昔のご先祖様は妖魔を飲み込むような式神を何体も操っていたと言われているのですが同化したばかりの今の私では……なかなか。
ちなみに、今回の件の報告を私が任されたのは降霊術での事です」
「降霊術……?」
「玲央~お前、少しは勉強しておけよ」
「任務と受験勉強で暇がないんだよっ」
「そうですよね! 玲央先輩は仕方ないですよぉ」
呆れた剣一に麗音愛が言い訳するが、すぐに琴音が擁護した。
「降霊術って亡くなった人を生きてる人に憑依させて話を聞いたりする術の事だよ」
無数の怨念に絡みつかれ、毎秒呪いの言葉を吐かれ命を狙われている麗音愛にとっては、なんだか平和な話のように思えた。
「今回、あの町で救助された男性の様子がおかしいという事で、二人で容態を見てきました」
渡された書類の写真を見てみると、血の気が引いた。
「これは……身体が、変化してる?」
「……うそ……」
椿も真っ青になって、写真を見ている。
自分が声をかけた時、確かに苦しんでいたが見た目に異変はなかった。
それが今、まるで狼男の変身途中のように口元からは伸びかけた牙が見え、耳が尖り、体毛が獣のように伸びている。
「呪い、祟りではないかという事で私も調べました。確かに彼は何か、強い呪詛のようなものを受けている様子はありました」
滑渡拓巳も月太狼と一緒に説明を始めた。
「何か動物霊のようなものを無理やり降霊させているのでは……という面でも調べましたが、そうではなさそうです。やはり、呪詛の類では……と、でも術式も術師の特定もできない」
「呪詛でしたら、私が青い炎で浄化を!」
「それが、浄化では彼は苦しみだし彼自身を傷つけてしまう可能性があって断念しました」
「普通の人間が浄化で苦しむ……? 降霊もしていないで……生身で?」
剣一が眉をひそめる。
「それじゃあまるで……人間が妖魔化している……とでもいうんですか?」
麗音愛の言葉に、団員皆がゾワリと恐怖を覚える。
「残念ながら、そのとおりです。白夜団としてこれは『人間妖魔化現象』だと言わざるをえないでしょう」
不気味な重苦しい生ぬるい風が団員達の間を吹き抜けた気がした。
「でも、彼にだけ起きた特殊な事かもしれないですよね!」
ずっと黙っていた海里が呪いを蹴散らすような明るい声で言う。
「そうですね。彼の生活面での調査も始まっています。もしかすると狂信的なオカルト信者で何か特殊な術をかけた結果かもしれない……」
「彼を治す術もどうにか探さないといけないですね……私も探さなきゃ……」
椿が青ざめた顔で下を向く。
麗音愛が背中に手を当てた。
「椿、一人で背負わないで」
「当然、誰のせいでもない! この問題は白夜団全体で挑む問題として皆で対応していきましょう! これが紅夜会の攻撃だとしても負けてはいられない!」
月太狼の強い声の宣言に、皆が頷いた。
「一人で背負わせればいいのに……これ伝染なんかしないでしょうね」
琴音が面白くなさげに言った言葉――それが現実味を帯びるかのように妖魔化した男性と同棲していた女性も同じように妖魔化の症状を発症したのだった。
いつもありがとうございます!
あらすじの注意書きにも加えようかと思うのですが
今後、妖魔化という描写などグロテスクな表現……(毎度のことではありますが)
伝染というような表現などが出てきます。
カラレスの物語はコロナ感染拡大前に(11月で3年前です)大まかなプロットを書いて
最終話まで構想があるお話です。
なので安易に今、伝染など恐怖を煽る目的で考えたお話ではありません。
ですが辛い気持ちになる方もいらっしゃるかもしれませんので、あとがきに書かせて頂きました。
ハッピーエンドではありますが
エンディングに向けて残酷な描写や人々がパニックになる描写も増えていくことをお知らせしておきます。
もちろん、嫌な気持ちにさせるだけではなく、その先の光を目指して書きます!
今まで読者様に支えて頂きましたので、私も読者様には傷ついて頂きたくはないので今回のあとがきになりました。
長々と申し訳ありません。
皆様のPV、ブクマ、いいね、感想、評価、レビューいつも励みになっております。
今後もよろしくお願い致します!