へそチラ写真事件!その3解決!
突然に始まったカラオケ対決。
生徒会長の北村が収録部屋で熱唱している。
「うまいな……」
自分に有利な十八番の曲を選んだのだろう。
顔は感情を込めすぎていて、引くレベル。
チラチラ見られる椿は麗音愛の背中に隠れたが、勝負は声だけでの採点だ。
これはかなり北村が優勢。
「麗音愛……」
「大丈夫、負けないよ」
そうは言っても、任務続きでカラオケに行ったのもいつの事やら……。
ぶっつけ本番だ。
それでも、気合は負けない!
北村の歌が終わり、放送局員の拍手とアナウンスが入る。
このラブソングは、椿と親友同士だった時にも流行っていた曲だった。
この曲を聴いて椿を想った事もあったのに、交際が始まってからカラオケに行く暇もなかった。
「あのさ、椿」
「うん」
「全生徒の前で歌うって思ったら、すごく緊張するから椿と一緒にカラオケ行ってる気持ちで歌うよ」
「……麗音愛……うん、嬉しい」
剣一のように天性の人前に出る度胸はない。
収録部屋に二人で入り、曲が始まる……。
麗音愛の心臓も飛び出しそうなほどに緊張したが一つ一つの言葉を大事に歌い始める。
校内に麗音愛の歌が響く。
「へー? 結構いいじゃん」
「椿ちゃんの彼氏~?」
「イケボだね、上手」
放送室からは追い出され廊下で反応を聞いていた西野や美子、梨里と龍之介も驚く。
「すごい玲央! これは絶対に玲央が勝つよ」
「……確かに玲央の歌はみんなの心を揺さぶってるわ」
「まじかよ、あいつ」
「でも、姫の彼氏ってだけでアンチは絶対いるからね……」
「あ……」
梨里の言うとおり、どんなに歌が上手でも『椿の彼氏』『写真を削除するために』という情報を知っていれば最初から生徒会長の味方をすると決めている男子生徒も数多くいるだろう。
麗音愛がどんなに心を込めて歌っても、椿のファンの男子生徒にはただ鬱陶しいだけなのだ。
歌うのは普通の男女の恋のラブソング。
切ない想いだとしても、二人には遠い平穏の日常。
いつか、こんな未来を手に入れたいと想う気持ちを込めて、椿のために歌う。
綺麗な愛の歌は二人の心に染み込んでいく。
そして……麗音愛の歌声が静かに終わっていく……。
椿が麗音愛に微笑む。
『……麗音愛、大好き……』
放送局員がマイクの音をフェードアウトしようとする前に、涙ぐむ椿の声が全校に流れた。
それは麗音愛の歌を聴いて最後に素直に出た、椿の気持ちだった。
恋人を想い、涙がこぼれ落ちる様子を想像できる声で終わった歌――。
思春期の男女ともに、胸を打たれた瞬間だった。
一瞬の静寂の後に、響く興奮の絶叫。
「やばーーー!」
「めっちゃ泣きそうになった!」
「何今の声、心霊?」
「一緒にいたの? ラブラブすぎ!」
「めっちゃラブいのに挟まろうとしてる生徒会長ウケる」
「え! 咲楽紫千って剣一様の弟なの!?」
「あの女のあざとさは、ほんっっと~にとどまるところを知らないのね。あざとっ!」
「つばちん、やっぱりラブラブなんだぁ」
「ねーみんなで、れおつば推しでいかん?」
バタバタとクラスの投票が集まっていき、驚く事に麗音愛の圧勝に終わった。
特に派手に飾ることもなくずっと一途を貫いている椿は、女子のアンチは少なく応援の声が多かったのだ。
「……良かった」
安堵で崩れ落ちる麗音愛を椿が支える。
生徒会長の北村も床に這いつくばっているが、誰も相手にしていない。
「咲楽紫千君! もう時間無いからこのまま写真のお願いをして!」
あと数分で放送時間が終わると焦る放送部員。
「あっ……はい、ええと」
「玲央ぴ、あたしに任せな!」
学級委員長達が報告するドタバタの中、梨里達も放送室に入ってきていたのだった。
そしてインフルエンサーでもある梨里の呼びかけに皆が耳を傾け、生徒達の間で自然に椿の写真は消されていった……。
教室に戻れば歌合戦で大盛り上がりになっていた。
「玲央! やったな! カッツーなんかまたゾンビみたいになってるよ」
「西野の助言のおかげだ! ありがとな!」
ハイタッチする麗音愛と西野。後ろで泣くカッツー。
「みんな本当にありがとうございました。こんな騒動になっちゃって……」
「いや、俺が言い出したことだよ。みんな本当にありがとう」
麗音愛と椿が頭を下げる。
「姫をおかずにされたら困るもんね~」
「おかず?」
「鹿義! あー! 御礼は何がいいカナ!?」
「カニ鍋セット! 頼んでおいてね~ん玲央ぴ」
「肉もな!」
「龍之介は特になんもしてないだろ……まぁ了解」
チャイムが鳴って、バタバタと皆が席に着く。
「あ~……でも俺も椿のチアガール見たかったな……」
「えっ」
「あ、な、なんでもないよ」
思った事を声に出してしまう事を反省する麗音愛。
しかし、そんな麗音愛を見て椿はふと思う……。
塾の後に任務が入り、今日もヘトヘトになって帰宅する麗音愛。
椿から今日の御礼がしたいから、何時になっても来てほしいと言われて帰宅時間をメールしていた。
『待ってる』の返事。
もう夜中の十二時前だが、小さなマフィンと缶コーヒーとココアを持ってベランダに降り立つ。
窓のノックすると、椿が出迎えてくれた。
パーカーを着ているが、髪はポニーテールだ。
「お疲れ様、麗音愛」
「うん、髪どうしたの? 可愛い」
よく見ると、パーカーの下はプリーツスカート。
普段着ではない。これは……。
「あのっ……麗音愛はいっつもすごく頑張ってるから応援したくて」
「えっ……まさか」
「やっやっぱりやめようか」
「え! やだよ見たい! いや、お、応援してほしい!」
「うん……じゃあ教えてもらった踊りやるね」
はらりとパーカーを脱ぐと、写真で見たままのチアガール姿。
ノースリーブで胸元がV字に開いたお腹が見えそうなユニフォーム。
短く揺れるプリーツスカートに、ニーハイソックス。
この姿をエッチだなんて思うのはチアガールに失礼である!
そう思い、麗音愛は呪怨に殺されないよう必死に冷静を装い椿に微笑んだ。
「椿、かっこいいね」
可愛いと言うと照れてしまうのは知っている。
ここでのベストアンサーはこれだ!
椿は、にっこり微笑んだ。
「えへへ! じゃあいきます!」
もう夜中で秘密のお部屋デート中なので、椿は小声で言った。
そしてピコピコ踊りだす。
即興の応援チアなので簡単な動作だが、ニコニコしながら踊る姿は可愛いし腕や足がパタパタと動いて麗音愛が守ったお腹とオヘソが見えた。
「麗音愛! 今日はありがとう! フレフレ麗音愛~!」
最後にポンポンがシャラシャラと振って踊りは終わった。
照れた笑顔が可愛い。
静かに拍手をして、そのまま麗音愛は椿を抱き締める。
「ありがとう……これからも頑張るよ」
スケベな気持ちでやっぱり見てしまったが、愛しさで心がいっぱいになった。
「麗音愛……いつも守ってくれてありがとう」
「うん……あぁ~今日も疲れたよ~椿さん……」
「わぁ!」
そのまま椿のベッドに体重をかけないように倒れ込んでみる。
寝転んだらチアガールの短いスカートもひるがえる。
椿の太ももがあらわになってスパッツが見えた。
スパッツなのにドキドキするし、細い肩にもドキドキする。
「椿……」
「……き、今日はもう少し……このままで……」
怒られるかと思ったが、椿は腕のなかで静かにポツリと呟いた。
「このまま……?」
「うん、このまま……」
このままと言われてしまったと思った麗音愛だったが、椿の細い首に口付けた。
「れ、麗音愛……」
「うん……もう少しこのままね……」
「う……うん……」
「ポニーテールもいいね」
「そ、そうかな……」
「このままでいるんでしょ?」
「う、うん……」
また甘えるように首元に顔を埋める。
もじもじしまくる椿がめちゃくちゃ可愛かったので、めちゃくちゃ元気になった麗音愛だった。