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へそチラ写真事件!その1


 佐伯ヶ原の個展はルカが自分の来訪を理由に開催中止にした場合、報復すると伝えたため開催は継続されたが白夜団の監視員が増員される結果になった。

 金銭のやり取りは佐伯ヶ原が拒否したが、後日現金が厳重警備中の個展事務所にて発見されたのだ。

 各方面で現在調査中である。


「あ~あたしらも休みなしだよぉ! 全くムカつくわ~!」


 教室の椅子にて梨里が叫ぶのを椿がシーっと口元に指を添えた。


「リリィ~今日もバイト~?」


 聞きつけた鹿義メンの一人深田が梨里の周りにやってきた。

 梨里が立ち上がると、鹿義メンが椅子に座りその上に当然のように梨里が座る。

 そして梨里を抱き締めながらキャッキャと話す姿に面食らう椿。


「梨里ちゃん……お付き合い始めたの?」


「え~違うし~」


「え~そろそろ付き合ってよ~リリィ~」


(ほか)メンが、みんな嫉妬しちゃうっしょ~」


 ケラケラと笑う梨里と一緒に笑う男子生徒。一番の梨里のお気に入りメンだが、傷ついた様子もない。

 それでも目の前でイチャイチャしている二人を見て恥ずかしくなってきた椿は、その場を離れようとしたが一人の女子生徒が椿に話しかけてきた。


「あの椿ちゃん、ちょっとお願いが……」


「え?」


 サッカー部のマネージャーをしていた女の子だ。

 椿はそのままマネージャー女子の話を聞いた。

 もう昼休みも終わり頃に、先生に呼ばれていた麗音愛が教室に戻る。


「椿~あ~もう昼休み終わる……貴重な椿との時間が……」


「うん、残念~」


 あと五分でも傍に……と思うが、先程の梨里と鹿義メンのような事ができるはずもなく麗音愛が椿の机の傍らで少し話しただけだ。

 梨里以上に忙しい麗音愛と椿。

 佐伯ヶ原の個展のあとも、結局白夜団に戻って事情聴取や今後の対策で夕飯すら二人きりになれなかったのだ。


「椿、今日もお互い任務があるけど迎えが来るまで、少し時間あるから中庭でお茶でもしない?」


「あ……ごめんなさい。その時間に用事ができちゃって……」


「そっか~じゃあ俺はさっさと終わらせたいから飛んでくかな」


「ご、ごめんね」


「お互い忙しいから仕方ないよね……いつになったらデートできるかな」


「週末、少しでも夜に会えたらいいな」


「今日、早く終わったら窓から行こうかな」


「うん……!」


 そう言ったのだが、結局麗音愛の方が遅くなってしまい二人が会えたのは次の日の朝の登校時間。

 麗音愛も椿も少し寝不足だ。

 せめて朝くらいはと、二人で手を繋ぎ歩いているが……椿の表情が少し固い。

 

「椿、どうかした?」


「あの……麗音愛……昨日ね……あの私」


「うん、何かあったの? 大丈夫?」


「……サッカー部の部活勧誘の手伝いをしてほしいって頼まれてね」


「あ~そっか……そういう時期だもんなぁ。まさか川見先輩も来た?」


 卒業しても、まだ椿に? と麗音愛はギョッとしたが椿は顔を横に振る。


「そ、それはないんだけど……私また気軽にお手伝い、いいよって言っちゃって……」


「椿は優しいからな~そういうとこ良いとこだと思うよ」


 さらっと『そういうとこが好き』とは、なかなか言えないな。と麗音愛は思うが……それにしても椿の様子がおかしい。


「私、また……琴音さんにも自分で断らないとって言われた事もあるのに」


「えー? 勧誘の手伝いくらいいいと思うけど……」


「おっはよー椿ちゃん、サラ君~リリィは寝坊だってね」


 後ろから声をかけてきたのは、昨日梨里とイチャついてた鹿義メンの深田だ。

 今日は梨里と龍之介はいなかった。深田の言うように寝坊してギリギリの登校なんだろう。


「昨日の椿ちゃん、可愛かったね~。みんな写真撮ってたから俺も撮っちゃったよ」


「えっ! け、消して!」


「写真……? 昨日の勧誘で?」


「そうそう、サラ君ってこういうの許可するタイプなんだ~結構懐が深いね。仏のサラキンって言われてるの聞いたことあるけどさ」


「なに? 見せて」


 訝しげに麗音愛が言うと、携帯電話を見せてくれた。

 背の高い男同士の間で椿がパタパタと慌ててる。


「えっ……」


 写真には、サッカー部のマネージャーの女子二人とチアリーダーの格好をしている椿がいた。

 戸惑い、苦笑いしているがポニーテールに髪を結び、ノースリーブにミニスカート。

 少しお腹が見えている。

 二枚目はジャンプしている姿。ますます露出が高くなっている。

 

「や、やめて~! お願い消して!」


「消すよ。これ」


 麗音愛の低い声。


「え~俺の携帯の画像勝手に消しちゃうの?」


「消していいよね? 深田君」


 麗音愛の圧にも、ケラケラと笑って『仕方ないな~』と鹿義メンは写真を削除した。

 梨里を追いかけている彼にとっては、ただのネタ写真だったのかもしれない。

 でも、嫌な予感がして麗音愛は教室へと急ぐ。


「れ、麗音愛……待って」


 教室のドアをガラっと開けると、いつもの素っ頓狂な声が聞こえる。


「見て見て! お前も見ろよ! この椿ちゃんのチアガールやべぇえええよなぁあああ! 俺さ俺さ昨日このままコンビニプリントしてさぁああ! え? あげねえよ! キィイイ! 見せてもらえただけありがたく思えよ!! ぴょんぴょん跳ねてさぁ~ぐふふふふ、おへそがぁ! 太ももぉ! 二の腕ぇえええ!」


「カッツー、全部消せ!」


「ひゃ!? 玲央!? わ、渡さないぞ俺の命だぁあああああああ!」

 

「盗撮してんじゃねーよ……消せ」


「こ、広報活動だから撮影許可されてるんだぞぉお!」


「だからってコンビニプリントってなんだよ! いい加減にしろ! カッツー!」


 ドタバタドタバタと繰り広げられる麗音愛とカッツーのやり取りに涙目になる椿だったが……。


「やっぱり騒ぎになってますねぇ」


 椿の後ろに現れたのは、武将令嬢。加正寺琴音だ。

 ショートカットを揺らし笑みを浮かべている。

 

「……こ、琴音さん」


「昨日の椿先輩を見て、絶対こうなるなって思ってたんですよねぇ。だから玲央先輩が心配で心配で……」


 まるで推理を当てた探偵のような顔。


「……し、心配される事は何もないから」


「そうですかぁ? 恋人が、こんな姿して男子に見られたら嫌だと思いますけど~」


「どうしてもって言われたけど……やっぱり恥ずかしいから、すぐにパーカーとジャージ着て勧誘したんだよ」


 女子二人はそのままチアガールで募集をし続けたが、実際に椿がチアガール姿でいたのは少しの時間だった。


「ふぅ~ん……あざと~~い……へそチラ写真ばっかり、出回ってますよぉ? あーあ~私があげたキャミソール着ていればよかったのに……まだ少しは盛れたでしょうに……」


「出回って?」


「はい。これクラスのSNSグループですけどぉ~男子達大喜びでしたよ? 私には何がいいのかさっぱりわかりませんけど……」


 琴音が見せた画面には、椿の写真が練習だと言われポンポンを持ってジャンプした瞬間だった。


「うそっいつの間に!?」


「加正寺さん、その人達に消すように言って?」


 青ざめた椿の横に来た麗音愛が琴音に言う。


「え~……私じゃ、できるかどうか……?」


「頼むよ」


「じゃあ~また珈琲を一緒に飲みたいです」


「わかった、今度ね」


 琴音の取引にも即答する麗音愛。

 そうこうしているうちに、チャイムが鳴りバタバタと一層騒がしくなる。


「約束ですよ~玲央先輩~今日もかっこいい~!」


 椿の存在は無視するように麗音愛に手を振りながら琴音は行ってしまう。

 

「あの……麗音愛、私」


「……うん、まずはこの事態をどうにかしないと」


「……麗音愛……」

 

 麗音愛は椿に微笑んだが、その笑顔は少しこわばり無理しているものだと椿はすぐに気付く。


「麗音愛、あの……」


「大丈夫だよ、俺に任せて。心配しないで」


「う、うん……」


 麗音愛の固い表情を見て椿は下を向き、自分の席へ戻っていく。

 遅れて事態を知った西野も二人を心配そうに見守っていた。


「くそ……っ」


 麗音愛は自分の携帯電話を見るが、当然ながらチアガール姿の椿の写真は無い。

 

 自分ですら見たことのないチアガール姿の椿の写真を、この世に一枚たりとも残しておくわけにはいかない……!

 椿のおへそは俺が守る……!

 俺だって、そんなに見た事ないのに……!

 どうして海の時の写真消した俺……!

 そうじゃない……! 椿は俺が守る……!


 事態を収集しようとクールな表情をしていたが、麗音愛の内心は相当にぐちゃぐちゃだった。

 

 

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