幸せな君を 「色の無い夜に 第二部・完」
挙式が終わってからのフラワーシャワーのなか、剣一を見つけた伊予奈がつい駆け寄る。
案の定、剣一の顔には擦り傷があり血が滲んでいた。
「もう、もう本当にもう、あなたって人は……」
「遅れてごめん、あと結婚式に血なまぐさくて……ごめん」
「無事で良かった……それだけよ。来てくれてありがとう」
伊予奈が溢れそうになる涙をハンカチで押さえた。
「伊予奈さん、優吾さん。結婚おめでとうございます」
伊予奈の夫の優吾にも挨拶する。
優吾は伊予奈よりも年上で包容力のある真面目な男性だ。
仕事でも面識があるし、プライベートで二人に誘われて食事した事もある。
「剣一君がいないもんだから、伊予奈が壇上でオロオロしてたよ」
「優吾さんっオロオロなんて……ただ、心配で。ごめんなさい」
「ご心配おかけして、本当にすみませんでした」
「いや! 僕も純粋に心配だったんだよ。大事な僕らの弟分だもんね。無事で良かったよ。僕達のために駆けつけてくれてありがとう」
「怪我は大丈夫なの……?」
「平気平気。おめでとう! ほら、みんなお祝いしてくれてるよ!」
周りの祝福に呼ばれ、伊予奈達は会釈して次の参列者の元へ行く。
少し気を失っていた剣一だが、式が終わりフラワーシャワーの用意をするために先に出てきた麗音愛と椿が見つけ慌てて声をかけた。
救急車を呼ぼうとした二人を止めて、特に何事もなかったように剣一はフラワーシャワーの花を受け取り伊予奈達を祝福したのだ。
「兄さん、病院行かなくていいの?」
「あぁ。この後のパーティーに出てから行くよ」
「でも剣一さん。怪我が酷そう……」
皆には気付かれように振る舞っているが、スーツの下は打撲や裂傷などしているのは明らかだった。
普通なら怪我の痛みと術を酷使した疲労で起き上がることもできないだろう。
「浄化してもらっただけでも大分、楽だよ。椿ちゃんありがとうね」
椿に青の炎で体内に入ってしまった穢れを浄化してもらったのだ。
毒がまわるような苦しさが消えただけでも剣一にはありがたかった。
「強がり言いやがって……」
「酒飲めば楽になるさ」
「えぇっお酒は怪我にさわりますよ」
「浄化だよ、浄化! 祝いの席だぜぃ!?」
「剣兄~~! 遅い~! どこ行ってたの? みんなで写真撮ろ~!」
剣一を見つけた梨里が抱きつく。
「ぐっは!」
「鹿義、兄さんに抱きつくな!」
「血吐いてるぞ!? この部長大丈夫か!」
佐伯ヶ原が小さく叫ぶ。
「騒ぐな騒ぐなって! 伊予奈さんが心配するから」
「剣一君!? 一体どうしたの!? あ、さっきの光は剣一君のせいだったのね!」
「みんなシーッ!」
「なんだぁ? お前ら、うるせーぞ。はぁ!? 剣兄重症じゃん!? シャツ血滲み出てんぞ」
「玲央先輩~どうしたんですかぁ~? 写真撮ってもらいましょう!」
何故か麗音愛の腕に抱きつく琴音。
「れ、麗音愛に抱きつく必要はないから、やっやめて琴音さん」
「玲央先輩の写真映りのためですけどぉ~? 椿先輩、今日もあざとさがキレッキレですね~」
「ちょ加正寺さん離れて」
「おい琴音に乱暴するなよ」
「押すなイテテテテ!」
「ねぇ!」「おい!」「なぁ!」「もう!」「ちょっと!」
「「あ~~もううるさいっ。いいから……お前ら一度静かにしろっ」」
咲楽紫千兄弟の言葉がハモる。
「椿はうるさくないよ。今日も可愛い」
麗音愛は椿に微笑んだ。
「れ、麗音愛……もう」
「「「「バカップル!」」」」
「あ~あざといあざとい……」
バカップルさに呆れる一同と冷ややかに椿を見る琴音。
チャペルのすぐ傍のレストランでカジュアルスタイルの披露宴が始まる。
疲れ果てながらも乾杯の後ビールを飲んで、剣一の緊張も少しほぐれたようだった。
兄弟でホッとし、会話をする。
「玲央、伊予奈さん綺麗だよな」
「うん」
遠目からでも、やはり花嫁は輝いている。
隣の優吾と幸せそうに話し、椿含む白夜団女子チームと笑っている。
「……後悔してないの?」
「何がだよ」
「元カノなんだろ?」
「何故みんなそう思うんだよ。お前は俺が誰とも付き合わないって知ってるだろうに……」
呆れたように剣一は言いながらビールを飲み干したので、麗音愛が瓶ビールを注ぐ。
「だって、なんか雰囲気がさ……」
「子供の頃から世話になってるってだけだよ、お互いにね」
「ふ~ん……」
剣一が携帯電話を見ると爽子から『死んだっすか?』とメールが来ていた。
死んでいたら返信もできないが……と思う。
指の痛みを我慢しながら『予言のせいで酷い目にあった』とだけ返信した。
「幹部二人相手によく生きて帰ってこれたよ」
「まぁ、あの二人は戦闘力はそこまで高くないのは知ってたからな」
とはいえ、剣一以外の人間なら死んでいただろう。
襲われた男性の救助もして、よく此処まで来れたものだと麗音愛は思う。
麗音愛を修羅場に呼ばなかったのは剣一の気遣いだったが、次からは絶対に呼ぶように強く約束させた。
気を失った剣一を見つけた時には死んでいるのかと思い、椿よりもパニックになりかけたのだ。
兄弟間で素っ気なくする時もあるが、心から大切な兄なのだ……とは絶対に言うまい。
「紅夜会では『転移結界』なんていう移動する結界術まで開発している」
「……この前の絡繰門雪春が突然現れたのも、その術なのか……」
「だろうな。あれを防ぐ防御結界がなければ、いつでもどこでも乗り込まれて惨劇が始まるぞ」
「紅夜はこれから一体何をするつもりなんだ」
「まぁ世界平和ではない事は確かだな」
「……俺ももっと強くならなきゃ」
「お前だけじゃなく、俺達もな。新メンバーも入ったし頑張ろうぜ」
「あぁ、そうだね」
椿の十七歳の誕生日に目覚めた紅夜。
自分の娘を花嫁にするという。
椿の十八歳の誕生日は、紅夜会が何か仕掛けてくるのではないかと白夜団でも最大の警戒準備をしているのだ。
皆のなかで嬉しそうに微笑む椿を麗音愛は見つめる。
出逢ってから益々、美しさが花開いていく。
優しさも強さも持った誰よりも大切な存在。
紅夜になど絶対に渡さない。
「麗音愛ー! みんなで写真撮ってもらおう。剣一さんもー!」
「うん」「おう」
幸せを形に残す写真。
麗音愛も嫌いだった写真が少しずつ好きになっていた。
「じゃあ撮りますよ~はいチーズ!」
皆の笑顔が咲く。
これまでも沢山の闘いを困難を一緒に乗り越えてきた。
麗音愛と椿はその手を固く握りあう。
「麗音愛」
「椿」
自分の名を呼んで、微笑んでくれる暖かさ。
この笑顔を守るために闘い続ける。
どんな未来が待っていても――。
◇◇◇
「許さない許さない許さない許さない!」
ベッドに横たわるルカの横でカリンが復讐の怒りを燃やす。
「大丈夫さカリン……もう治してもらったし、少し安静にしてるだけだよ。
それに心配しなくても、もうすぐ計画が始まる……」
「うん、早くあいつらが絶望する顔を見たい……」
「もうすぐさ……ふふ」
クスクスと笑い始めるルカと一緒に笑い始めるカリン。
足元にはビリビリに破られた麗音愛と剣一の写真が散らばっていた。
◇◇◇
紅夜の城のどこかにある暗い実験室。
それは椿達が以前に廃屋敷の地下で見つけた実験室に似ていた。
中央には大きな水槽。
そこに浮かぶのは幼い少女。
美しい少女は眠ったように、まだ目を閉じている。
それを見つめるのは絡繰門雪春。
水槽の光に照らされた彼の表情からは何も読み取れない。
ただ少女を見つめるだけだ――。
街のどこかでまた『明けの無い夜に』が聴こえ、薄暗い闇の底から人を喰らう妖魔が現れる。
絶望の夜がくるのか、平和の朝はくるのか、まだ誰も知らない――。
色の無い夜に・ColorlessNight
第ニ部完
いつもありがとうございます!
色の無い夜に・第二部完でございます。
第一部が恋愛決着でしたが第二部は波乱波乱で色々なことがありました。
此処までれおつばも作者も乗り越えてこられたのは皆様の応援のおかげです。
途中でれおつばの出生で、不快感を感じられる方がいらっしゃったらどうしようかな。と
不安になりもしたのですが……此処までお読み頂きありがとうございますm(_ _)m
次が最終部になるかと思いますが畳む事を考え弱火になる事なくガンガン燃やして
盛り上げていきたいと思っております!
今、他作品も連載中でして、そちらを終わらせてからカラレスを再開したいなと思っておりますが
ソワソワ落ち着かなかったら始めてしまうかもしれません。笑
それと0章のあらすじなどを一度削除しようかとも考えております。
剣一と伊予奈の過去話も短編で書きたいなぁと妄想しております。
此処まで書き続けられているのは本当に読みに来てくださる皆様のおかげです。
ありがとうございます!
一言でも感想頂けると、とっても励みになります!
再開しましたら、またよろしくお願いいたします!
戸森鈴子