椿はなかなか眠れない~一緒に眠ろう~
椿の家のリビングの
ローテーブルで牛丼を食べる三人。
椿の部屋もファミリータイプの4LDKで
リビングも20畳あるが、小さなテレビの前に絨毯を敷いて
ローテーブルと2人掛けのソファを置いて、隅っこで過ごしている。
「美味しい?」
「美味しいです!! ……すごく美味しい……牛丼美味しいっ!!」
さっとシャワーを浴びて
牛丼大盛りを頬張る椿は、いつもの笑顔。
腕も問題なく動いている。
「良かった良かった!! 二人とも初出勤お疲れ
あれ、俺らじゃなかったら30人体制でも10日はかかってたな
エグいのいっぱいいたもんな~」
「兄さんも、色々サポートありがとう」
「お前と仕事する日がくるなんてな……頼もしかったよ
椿ちゃんにも守られて、情けないリーダーですまなかった」
あぐらの膝に手を置いて頭を下げる剣一。
「や、やめてください!!」
「兄さん」
「私の軽率な行動で、剣一さんに怪我をさせるわけにはいかないと思ってしたことです。
全部私が悪いんです。
色々と迷惑をかけて……すみませんでした」
椿は正座のまま床に手をつき頭を深々と下げる。
「顔あげて!! いいんだよ、牛丼冷めるから、ほら食べな
豚汁もサラダも美味いよ」
「はい」
「もう、大丈夫だからね」
「はい」
剣一が豚汁の蓋を外して、椿に渡すとホワッと湯気が立つ。
ホワッと椿が微笑むのを見て、剣一も和む。
病院に行っていたら、待たされ、今頃額を縫われたり、検査検査で朝まで
かかっていただろうか。
それに対して文句は言わないだろうが
きっと大勢の人を巻き込んで椿の心は傷んでしまう。
食べ終わった後は、すぐに休ませるために
麗音愛と剣一は部屋を出た。
「兄さん、ありがとう」
「お前が一番、椿ちゃんの事わかってるもんな」
剣一は着替えをとると、そのまま出かけて行ったようだ。
麗音愛がシャワーを浴びて出ると、メールがきている。
『きょうはありがとう、ごめんなさい
なかなか寝れない』
電話をかけてしまった。元々は電話なんて苦手だが
椿がメールが苦手なのに、メールをしてきたからだ。
「もしもし」
「もしもしメール、見た」
「あ、あの……ごめん」
「俺からかけたんだよ」
「あ、ありがとう、なんだか寝れなくて……寝るとこだったよね」
「俺も、なんか眠くない、どこか痛む?」
「なんか色々思い出しちゃって……治っていく感覚が気持ち悪いだけだよ」
「そっち行く」
「え」
「眠くなるまで……ゲームでもしようか」
「う、うん!」
頭を拭いていたタオル片手に、椿の部屋にまた戻ってきた。
「ごめん、変に心配かけて」
椿はボロ布を羽織ってる。
辛い時心細い時の証拠だ。
「俺も眠れなさそうだったし」
「うん」
小さいテレビに繋がれた最新の家庭用ゲーム機。
初めてゲームをした椿が驚きで
ひっくり返って楽しんだのを見た剣五郎がプレゼントしたのだった。
「負けないよー!」
「それはこっちのセリフだ!」
朝日が昇る頃
椿がゲームをしながらウトウトとしだす。
「寝ようか……?」
「や、やだ……」
でもフラフラっと麗音愛の肩にもたれかかる。
「寝ていいんだよ?」
「やだ……」
「どうして?」
「……なんでもっ」
そう言いながら、椿の操作する車はよろよろとコースアウトしていく。
「起きるまで一緒にいるよ」
「……本当?」
「うん」
「……うん……」
そう言った瞬間、ふっと椿が肩に寄りかかってスーッと寝息をたてた。
一人になりたくなかったのだろう。
ソファに椿を寝かせて
掛ふとんをかけて
麗音愛はソファの下の絨毯に横になった。
ふと
寝顔を見に
また起き上がる。
クーッと寝ながら、手で誰かを探してる。
ぽっと、その手を握った。
不安そうな顔が、また美味しいものを食べたような
幸せそうな顔になる。
その手を離さないように、麗音愛はソファの下で眠った。
「わぁ!!」
と椿の声で一瞬起きた麗音愛は
ドンと重さでまた二重に目が覚める。
「ん……」
どうやらソファから転がり落ちてきたらしい。
「あ……麗音愛……」
「まだ、眠い……まだ寝よう」
「……うん……」
ソファからずり落ちた布団を、横にいる椿にかけて
麗音愛はまた目を閉じると
椿が猫のようにそっと寄ってきたので、
麗音愛も頭を寄せた。
少しの温もりがそばにいるだけで
ずっと見る悪夢が和らいだ気がした。
椿を守るために統括する力で自分もホッとする。
ほんの少し寄り添って、二人は眠った。
「いてっ!!」
ソファの足に頭を打ち付けた痛みで麗音愛は目を醒ました。
「?」
寝ぼけて事態が把握できない。
こんなにぐっすり眠れたのも久しぶりだった。
やっと頭が動き出し、椿の部屋だということがわかる。
ふと
横で丸まって眠っている椿
額の傷も、ほぼ消えている。
「ふにゃ……」
布団をかけて起き上がろうとすると
「んー」
と連動するように椿が手を伸ばしてくる。
「ここにいるよ」
「ん……」
起こしてしまったか、ゆっくりと椿が目を開ける。
「麗音愛……」
「おはよ」
「……いてくれたんだね」
「約束したから」
「うん」
椿がへへと恥ずかしそうに笑った。
「頭すごい事になってるぞ、はは」
もう昇りきった太陽の光がカーテンから漏れ出していた。




