おうちへ帰ろう
剣一達と別れ、車へ向かう2人。
トボトボと歩く椿。
腕も痛むようだし、足も引きずっている。
「ほら」
「わっ」
麗音愛がお姫様抱っこで抱き上げる。
「あ、歩けるよ!」
「結構な怪我だよ。出血もまだしてる。腕も痛そうだし足も酷そうだよ」
石畳で機材もバラバラに散らばり
そこに長身の剣一を抱いて思い切り打ち付けたのだから
いくら椿でもすぐには治らない。
「歩けるよ!」
「友達なら助け合うの当然だよ」
「……っ重いから」
「全然」
「血が付くって……」
「大丈夫」
椿は麗音愛の方を向かないように顔をそむけている。
まるでさっきの研究所を暴かれてしまった当事者のようだ。
「紅夜も、紅夜側の人間がしたことも、椿には何も関係ないよ」
「関係なくなんかないよ!!」
「関係ない」
「ある! おぞましくて気持ち悪くて、人を惑わすそんな血が私にも流れてて
止めなきゃいけないのに……何もできてない……なんの意味もない、こんな力が……」
「じゃあ、俺が紅夜の息子だったら、椿はあの研究所を作ったのは俺のせいだって
責める?」
「それは……そんな事……」
「なんでも自分のせいだって思うのは、ずっとそうやって言われてきたせいだよ」
車に着いた麗音愛はドアを開けたが
椿が血まみれな事を気にするので、車の横で降ろした。
「俺が椿の立場なら思わないだろ?」
「……うん。でも……」
「みんなも椿の事をそんなふうに思わない。
紅夜達の罪はあいつらのもので椿は関係ない。
もし俺だったら、責めないと思うならそれが答えだよ」
「……」
「自分を大事にしてほしい
みんな、椿を大事に思ってるよ」
椿は剣一に言われた事を思い出す。
「さっき……剣一さんにもそんなような事言われた……」
「そ、そうか」
「でも、よくわからない……だって……」
椿の炎もなくて、月明かりでしか顔が見えない。
血が乾いて張り付いた前髪に、顔。
苦笑いしたような悲しい表情。
「私は……」
「もう椿は椿だよ」
ハッと麗音愛を見る。
ずっと罰姫と寵という名が頭を巡っていたところだった。
「頭に血が昇った時は俺が止めるし
1人で背負うことないだろ、そのために108もの武器があって、みんながいるんだよ」
「え……」
「俺だっている、紅夜を討つ時は一緒だよ」
「一緒に戦ってくれるの?」
「そりゃそうだ。今更?」
「白夜団に加入はしたけど……妖魔退治だけでも立派な仕事だし」
「紅夜討伐は白夜団の悲願だろ、俺はそこで一番力のある晒首千ノ刀の継承者だ。
それが末端の妖魔退治でいいんですって……」
麗音愛はグーを差し出す。
「言うわけないだろう」
「麗音愛……」
椿もグーをして拳をコツンと当てた。
へへ……と笑う椿。
少し笑顔が戻った。
「ありがとう」
「うん」
「剣一さん、大丈夫かな? 私一回目からから大失敗しちゃった」
「あれ見つけたんだから大手柄だよ。兄さんは怪我してないし
妖魔も斬りまくったし。
さ、手当しよう。車に救急セットあるし」
「車を汚したら嫌だから、この血まみれ服着替えるね」
椿はシートに触らないようにリュックを出すと
車の影に隠れる。
「革シートだし、気にしなくても……」
「うん、でも」
ちらっと見られ、気付いて背を向ける。
後ろでガサガサと着替えている音がする。
「あのさっき、兄さんがごめんね」
「剣一さんは本当に悪くないんだよ」
さっきのセクハラの件を言おうとしたんだが、
椿は特に気にしていないようだ。
「おう! お待たせ!!」
美子に気遣って、小走りで帰ってくる剣一。
車が見える距離になると、美子に了解をとって全速力で駆けつける。
「椿ちゃん! 怪我大丈夫!?」
「はい。大丈夫です」
「本当!? これから救急病院行くけど」
「え!? 大丈夫です!」
トボトボと美子が遅れて車に到着する。
「お疲れ様、大丈夫だった?」
「うん、剣一くんがほとんどやってくれたから……」
ふぅっとため息をつく美子。
視線の先には剣一。
「椿さん、大丈夫なの?」
「どうかな……治るって本人は言ってるけど」
「そっか」
ふらりと美子がよろめいて麗音愛は腕を支える。
「美子、大丈夫?」
「うん、みんなで大丈夫大丈夫ばっかりだね」
支えた腕をぎゅっと掴まれ、美子は微笑んだ。
「今度から、色々と相談できるね」
「え?」
「この仕事で何かあったら相談に乗ってくれる?」
「それは、もちろん」
幼馴染の図書部員補助、からの白夜団団員
錯覚の恋心がなくなっても大事な人には変わりない。
「玲央だったら、良かったな」
「え?」
「ううん、なんでも」
まだ掴まれていた腕がさっと離される。
近くなったのに、遠くなってしまったような。
離れたのは自分の方なのか。
どちらだとしても、この呪われた身では
もう普通の高校生には戻れない。
図書室での日々。
何も知らなかった自分。
そんな事を過ぎ去る風のように、ふっと思い流した。
「ほら、大丈夫なんです」
椿が絆創膏をめくろうとする。
「めくるなめくるな!!! ダメ駄目。一応行くから。白夜の提携病院行くからさ
よし撤収!!」
剣一はそう言って車を発進させる。
「よっちゃん、報告書だけ書いといてくれる?
俺、さっき長原さんに電話だけしといたから」
「はい」
助手席に乗った美子が、テキパキと携帯電話を片手に報告処理をしている。
Tシャツ姿の椿は手を握りしめてじっとしている。
麗音愛は自分の着ていたパーカーを椿に渡す。
「あ、大丈夫」
「いいから、血も出てるし寒くなるだろ」
着なくても、と掛けてあげる。
「あ、寒いよな、温めるな」
剣一も空調をヒーターに変える。
美子は病院に手配の電話をかけた。
「ご、ごめんなさい」
自分が怪我した事が大事になり
椿は責任を感じ、泣きそうな顔になっている。
「椿」
「麗音愛、私……」
麗音愛も椿が心配なことに変わりはないが
今までと180度変わった周りの対応に戸惑いを感じているんだろうとわかった。
今、周りが椿を大切だと、必死に守ろうとしている状況も
きっと椿は自分を責めてしまうんじゃなんだろうか。
「怪我は大丈夫?」
「うん……寝たら治る……絶対……」
縋るような目で麗音愛を見る椿。
「わかった」
麗音愛は暗い車内の中で、椿に頷く。
「兄さん!」
「なんだ?」
「病院に行かなくていいから、家に帰ろう」
「は!?」
「牛丼買ってさ、家帰ろう」
「れ、玲央何言ってるの?」
「椿の怪我は治ってきてるから、家に帰ろう」
何か言おうとした美子を、剣一が手で止めた。
「椿ちゃん、本当?」
「はい……剣一さんは大丈夫ですか?」
「俺は、まじでノーダメージよ」
「兄さん」
「…………オッケ」
「え!? 剣一くん」
「よっちゃん、キャンセルの電話は俺がするから
よーし、じゃあ豚汁もサラダもつけてやる!!」
そう言って剣一は道を変えた。




