パニック☆パニック☆爽子と琴音
爽子のポーズが決まるのを見守っていた兄弟。
数秒無言が続いたので、終わったことがわかった。
「……と言うわけで新団員の多田爽子さんだ」
「はははは! 改めて、元『夜明けの騎士団』団長の多田爽子だ!
よろしく頼むよ! 斎藤君!」
キャリアは捨てたのではなかったのか、と思いながら麗音愛は差し出された手を握る。
「あ、斎藤は偽名です。
本当の名前は咲楽紫千玲央といいます。改めてよろしくお願いします」
「ひょえ~そうだそうだ。剣一氏の弟だったんだな。
レオ君かぁ……ふぅ~ん。名前はかっこいいんだなぁ」
「はは……じゃあ多田さんは、兄さんの直属部下になるの?」
「あぁ~まぁしばらくは、色々と教えてやんないとね
俺がいいんでしょ? レモシャワちゃんは」
剣一がイタズラっぽく笑う。
「ばっぼっばっばばば! やめたまえよ! 卑猥陳列罪だぞ! 君はぁ!」
そう言いながら爽子は何故か、麗音愛をガン見している。
また、冴えない男を見て正気を取り戻そうとしているようだ。
「あ~玲央先輩! 本部で会えるなんて嬉しいぃです~~」
「えっ」
廊下の向こうから、笑顔で現れたのは加正寺琴音だ。
ショートへアを揺らして麗音愛に駆け寄る。
あの一件以来、学校に復帰した琴音と挨拶を交わしはしたが立ち話もしていない。
もうさすがに距離を置いたんだろうと思っていただけに、今までと全く変わらない態度に麗音愛は驚いた。
「玲央先輩~お疲れ様です」
「あ、うん」
そして距離も今まで同様に近い。
「剣一部長もお疲れ様でぇす」
「おう、オツカレさん」
「むっ!? ……見たことがあるような……しかしなにやら邪悪な……」
「あれぇ? 誰ですか? このちんちく……ミニマムで可愛い女性は」
麗音愛の隣で怪訝そうに爽子を見る琴音。
「新団員の多田爽子さんだよ。
こちらはさっき話した白夜団七当主の一人加正寺琴音さん」
「こっこんな若い娘がぁ!?」
「なんですかぁ~? 失礼なちんちく……女性ですね」
「き、君の方がさっきから私をちんちくちん呼ばわりしているじゃあないかっ!」
睨む琴音に喚く爽子。
「まぁまぁ二人共、琴音ちゃんもJKが当主とか誰でもびっくりするしさぁ、
爽子ちゃんもちょっと変わった子だけどセンスはあるから二人共仲良くしてよね」
「まぁそうでしょうねぇ~こんな可愛い女子高生が当主とか思いませんよねぇ」
「か、変わった子だと、失礼なっ! なぁ斎藤君っ!」
また正気を取り戻そうと爽子が麗音愛を見た。
斎藤君じゃないのに、すっかり呼び名に固定されてる。
「……はっ!? な、な……なに?」
「えっ?」
「誰? なに!? 斎藤君が……あわわわわわ」
「あ」
琴音が隣にいることで、麗音愛にかけられた術が弱くなっているのだ。
「な……なんか……学ランの美少年がいるんすけど……そんでブサイクの斎藤君がいない!! さ、斎藤くぅん!? いや玲央君!? どこへ!? 人体交換現象か!?」
「この人さっきから、なんなんですかぁ? 玲央先輩のこと馬鹿にしてません?」
琴音が麗音愛の腕に抱きつく。
「ちょっと、くっつかないで加正寺さん」
「あ~ん……せっかく久々に本部で会えたのに」
「玲央は生まれた時から呪いで、認識されないが
爽子ちゃんが今見てる姿が玲央の本来の姿だよ」
「な!?」
驚愕の顔で剣一を見ては、すぐに目を逸し、つい麗音愛を見ては、また顔を紅く染める爽子。
「あわわわ! あわわわわ!」
「な、なんで私をガン見してくるのよ、この人はぁ」
目のやり場に困った爽子は、不気味な笑顔を琴音に向けた。
「ひゃ、ひゃひゃひゃ……し! しかし斎……玲央君! ゆかりちゃんがいるってのに、な、何を君は破廉恥な!」
「ほら……勘違いされるから、離れてね」
「ゆかりちゃんって誰ですか!? 玲央先輩もしかして椿先輩と別れたんですか!?」
驚きながらも満面の笑みで麗音愛を振り返る琴音。
「はぁ……違うよ。ゆかりって椿の事だよ。多田さん、ゆかりも偽名で本名は椿です」
「むっ……そうか椿ちゃんというのか。彼女は本当に愛らしく可憐で素敵な女の子だった……その隣にいる子はなんだか悪役令嬢みたいな雰囲気だし椿ちゃんの方が絶対にいいよ」
「な! なんなのこの女は殺されたいのお!?」
抜刀する勢いで琴音の殺気が舞う。
「ひぃ!」
琴音に睨まれた爽子は蛇に睨まれた蛙のようにビクゥ! と飛び上がりバランスを崩して倒れそうになったのを慌てて麗音愛が抱き留める。
「ひぃーーーーーーーーー!」
美少年に抱きとめられた爽子はまた奇声を上げた。
「はっはっは。カオスだなぁ……」
「兄さん、面白がってないでどうにかしてよ……加正寺さんも殺気を抑えて。抜刀なんかしないでくれよ?」
「だってぇ、失礼すぎません?」
腕組みをして爽子を睨む琴音。
そこから二刀流で抜刀する姿勢だ。
「多田さんはこういう人なんだよね……大丈夫ですか? 立てます?」
「あわ……あわわわ」
腰が抜けているようで、そのまま床にペタンと座る爽子。
「爽子ちゃんにもお灸をすえておくからさ、琴音ちゃん勘弁してやって」
剣一が琴音の前で少しかがみ、目線を合わせて微笑んだ。
「んもぉ~じゃあ~剣一部長、今度ご飯連れてってくださいよぉ」
「時間ができたら、いつでも☆じゃあ行くよ、ほら」
立ち上がれない爽子にハンカチを渡してから、お姫様抱っこする剣一。
「◎△$♪×¥●&%#?!」
「もう、大人しくしていなさい。じゃ~部下がお騒がせしました。
玲央、気をつけて帰れよ。琴音ちゃんもお疲れ様~」
ハンカチは鼻血を出された時のためか、と麗音愛は気付く。
声にならない奇声を発する爽子を抱き上げたまま剣一は去って行った。
「……はぁ……」
「あの人って、まさか剣一部長の恋人ですか?」
「まさか。兄さんは女の人になら誰にでもああいう事ができる人だよ」
「玲央先輩もあれくらい軟派でもいいと思いますよぉ」
「俺はそんな器用じゃないし」
「そういうところが玲央先輩ですよね~」
琴音は微笑むが、二人きりは気まずい。
「じゃあ、お疲れ様。俺はもう行くね」
「……はぁい、お疲れ様です」
去って行く麗音愛を見つめる琴音。
「やっぱり素敵……玲央先輩……大好き。
さぁ私も紅夜会の幹部に雪春の情報を聞きに行かなきゃ……何本くらいで話すかしら。
……絡繰門雪春、お前だけは許さない……!」
憎悪を撒き散らしながら、琴音は麗音愛と逆方向へ歩き去って行った。
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