麗音愛の訴え
もうすぐ日の出の時間になる。
白夜団本部で麗音愛は父を探す。
「父さん」
「玲央」
雄剣は元は雪春が使っていた部屋にいた。
雪春の調査だろうか。
「まだ帰っていなかったのかい」
「父さんこそ……こんな時間まで身体に触るよ」
まだリハビリ段階でもあるというのに、片手で働き詰めの父。
最近はもう、家族で集まる余裕もない。
「そろそろ帰るところだよ、玲央も疲れただろう。それでどうしたんだい?」
「……摩美の事なんだけどさ」
「あぁ……まぁ座りなさい」
雪春の部屋にも談話用のローテーブルにソファが用意されてあった。
そこに麗音愛は座る。
「どうした」
「俺が口出せる立場にないと思うんだけど……あの監禁方法はあまりにひどくないかなって……」
「お前も立派な団員だ。何にだって意見を言っていいんだよ」
「うん、ありがとう……父さんにこんな怪我をさせた組織の仲間なのもわかる。どれだけの人を傷つけてきたか俺自身が見て、体験してきたよ。……でも」
「うん」
「俺、白夜団は正義の味方でいてほしいんだ。
人を傷つける悪に対して俺達は、正義だって思いながら戦っていきたい。
あの老人どもがいなくなって、やっと俺も白夜団を誇りに戦っていけると思ってたところで……」
「……そうだな」
「摩美は……俺の友達が必死で守ろうとしてたし、あいつも西野をボロボロになりながら守ってたんだ」
「うん、聞いたよ」
「それだけで全ての罪が消されるなんて思ってない。でもあんな部屋に閉じ込めて、西野とも会わせないでいたら……摩美の心はまた白夜団への人間への憎しみだけになってしまうと思う」
雄剣は麗音愛の話を漏らさぬように真剣な顔で聞いていた。
麗音愛も父でなければ、大怪我をした被害者にはこんな話はできなかったろうと思う。
「……この腕を切り落とした男子が、他でも暴れた事件があってね」
「闘真が……あいつ」
雄剣の腕を切り落とした後、それが役に立たなかった事を知った闘真は怒りのままに暴れたのだ。
「紅夜会での命令外の行動だったのか、工場を襲おうとする場面で彼女が怪我を負ってまで彼を止めている姿が防犯カメラに写っていたんだ」
「そうだったのか……」
工場が襲撃されていれば、甚大な被害があったに違いない。
「他の紅夜会幹部よりは、まだ冷静な方だとは思っている」
麗音愛は、そう感じていた。
ただ闘真や沙紀達は狂いすぎている、という面もある。
「父さん、しばらく俺が摩美と会う事を許可してほしいんだ。俺もあいつがどういうヤツなのか正直わからない。
だから自分で会って話して、確かめたいんだ」
「ふむ……」
これだけでは説得力は足りないと麗音愛もわかっていた。
「俺は今後、紅夜会だって監禁された摩美を助けようと突撃してくる可能性があると思うんだ」
「確かに、その可能性はあるね」
「だから摩美が裏切らない事がわかれば、俺と……椿と一緒に行動している場面をあいつらに見せる」
「椿ちゃんと……」
「監禁はしていない、あいつらの姫様の椿と一緒に行動している……裏切り者かどうかの判断は難しいはずだ。それが一番手出ししにくいはずだよ。白夜団の安全に繋がると思う」
「……なるほど。父さんは彼女を裏切り者として処刑しようと紅夜会が動くのでは……と懸念もあったんだ」
「不本意だろうけど、椿と一緒にいれば救助も処刑も紅夜会は留まるんじゃないかな」
椿の意志は、まだ確認していなかった。
それでもこれが椿の望みでもあることは、麗音愛にはわかっていた。
誰よりも優しい彼女は明らかに摩美を心配していたのだ。
此処に連れてきていれば、あの檻を見て椿はショックを受けていただろう。
「しかし彼女が紅夜会へ帰る意志があった場合、こちらを裏切ったらどうするつもりだ?」
雄剣の言う可能性も大きい。
西野という高校生男子と、紅夜会幹部は命のように崇める紅夜。
すぐに心変わりするかもしれない。雪春のことを自然に思い出した。
「……その時は必ず俺が殺す」
「……そうか」
当然ながら雄剣だけで今、答えは出せないと伝えられた。
しかしできる限りの話はした。
結局、雄剣と一緒に帰ることはできず一人帰宅するとマンション前で椿が待っていた。
「麗音愛おかえりなさい」
「ただいま」
起きて待っているのはわかっていたので、メールはしてあった。
「部屋に行ったのに」
「うん……あの……どうだったかなって……気になっちゃって……あの……」
紅夜会の娘を心配している事は、麗音愛にも言いにくいのだろう。
「父さんに話してきたよ。拘束して監禁する事はやめてくれって言ってきた」
「……麗音愛!」
弾かれたように、麗音愛に抱きつく椿。
「摩美が心配だったんだよね」
麗音愛も椿を抱き締めると、椿はこくりと頷いた。
「ありがとう……」
「俺も同じ気持ちだったから」
「うん……」
「安心して」
「うん……うん……ありがとう」
「いいんだよ、椿が大事なんだ」
こんな風に想い合う事をあの二人もしていたのならば、摩美も人間と一緒に生きていけるのではないか……そう麗音愛は思う。
抱き合う二人を朝日が照らした。