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叫び、散る涙、飛び散る血

 

 妖魔は容赦なく摩美にも襲いかかってきた。


「どうして……っ!? くっ……」


 それどころか西野を避けて摩美に向かう妖魔もいる。


「危ない!」


 西野が摩美をかばい、脚を噛まれた。


「うわあああ!」


「馬鹿!」


 妖魔の脳天を摩美の縄が突き刺さった。

 そのまま何匹か突き刺して振り払い、沼に向けて投げた。

 

「なにやってんの!? あんたが私の後ろに隠れて……」


「いやだ!」


「なっ」


 西野の脚から流れた血が土の上に落ちる。


 また妖魔を殺してしまった……しかしそんな事を言っている状況ではない。 

 人間の血の匂いに誘われ……また一匹、もう一匹……と沼から妖魔が姿を表す。

 絶望の光景。


「私が、こいつらをなぎ倒すから、その一瞬で走って逃げて!」


 二人で逃げても背中を襲われるのは目に見えている。


「だから、いやだって!」


「なんなの!?」


「こいつらは君も狙ってる……君を置いていけるわけがない」


「喰い殺されるよ!」


「それでも!」


 二人の会話に遠慮することなどない妖魔が、中央にいる餌食に向かって牙を見せる。


 摩美に食いつこうとした妖魔を西野が右手の拳で殴りつけた。

 普段の彼からは想像もできない行動。

 そして殴った妖魔は、地に落ちてヒクヒクと痙攣している。


「これは……」


 右手にしたブレスレットが淡く光り輝いた。


「護符……!? その力……どこで」


「護符? このブレスレット……」


 これは剣一から貰ったブレスレットだ。

 あの兄弟は一体……と西野は思う。

 それでも今は心強い力だ!

 

「また来た!」


 話をしている時間などない、摩美はまた妖魔を叩き落とす。

 西野も必死に妖魔の殴りつける。だがトゲで拳は裂け切れていく。


「お前達! もうやめなさい! きゃっ」


 どうして、妖魔は自分を襲う!?

 摩美は、この事に動揺していた。

 長く人間と過ごしすぎた?

 人間と触れ過ぎた……?

 妖魔を殺したから?

 もう戻る場所もない?


 今は、もしかしたら自分の処刑なのかもしれない。


 紅夜会からの追放――恐ろしさで目眩がした。

 戦いながら、ふらりと揺れた身体を西野が支える。


「君のためなら死ねる」


「な……っ」


「それぐらい、君が好きだよ」


「こんな時に……何を」


「でも頑張って生き延びて……また一緒に猫のとこに帰ろう」


 男の真剣な眼差しに、頬が熱くなる感覚を初めて摩美は覚えた。


「……栄太……」


「こんな時だけど、君の名前……知りたいな」


「……ま……摩美」


「摩美ちゃん……可愛い名前だね」


「ばか……あっ」


 縄の一本が妖魔に次々と喰い付かれ使用不能になった。

 その隙をついて噛みついてくる妖魔達。

 西野の力にも限界がある。

 襲いかかる妖魔を前に西野は摩美を隠すように抱き締めた。


「うわぁあ!」


 西野の身体に噛みついていく妖魔達。

 それでも摩美を守るように離さない。


「栄太ぁああ!」 


 摩美の脳裏に浮かんだ、西野との日々。

 強制でもなく、恐怖でもなく、ただ自分があの場所にいたかった。

 初めての安らぎだった。

 猫と一緒にいて……それだけじゃない、この男と一緒にいる事が温もりが、本当は――。


「ぐ……大丈夫……摩美ちゃんはその縄で自分を守るんだ……! ぐあっ!」


「もうやめてぇ! お前達やめてぇ!」


 悲痛な摩美の叫び。それでも妖魔は言う事など聞きはしない。

 無惨に流れる血と悲鳴――。



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― 新着の感想 ―
[良い点] あーーー摩美可愛いなーーー!!! ツンツン女子可愛い♡ 西野がんばれ〜!麗音愛早くー!!
[良い点] 育てた妖魔たちが摩美を襲うのは 彼女が西野くんと一緒に居過ぎて 匂いが普通の人間と同じになったからかな 西野くんの下の名前をちゃんと知ってて こんな時に呼んじゃうとこ可愛い ふたりには…
[良い点] いやああ 西野君( ;∀;) 摩美ちゃん、西野君との日々を大事に思ってくれててよかった でもそれが妖魔に襲われる原因かもしれないのか どうなるの~
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