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真夜中の迷走

 

 摩美はまた公園の沼に来ていた。


「イライラする……もっと増やそう」


 ボチャボチャと妖魔の実が沼に落ちていく。

 持っていた分全て。予定以上の量だ。

 これだけの妖魔が全部育てば、ここ一帯の人間を全て喰い殺せるだろう。

 どうしてこんなにイラつくのか摩美にもわからない。


「下僕のくせに……生意気……あいつ殺そうかな」


 生肉も、もうパックのまま沼の岩にぶち当てて散乱させた。

 多分足りないだろう。

 イライラが止まらない。


 役立たずな冴えない男のくせに、あの最悪な咲楽紫千の肩を持った。

 椿と二人きりで会えれば、文箱を開ける手がかりにもなったかもしれない。


「なんなのあいつ……咲楽紫千の方を味方するっての……」


 君が好きだよ、君のために死ねると言いながら……と摩美は思う。

 ゴシゴシと唇を拭った。


 生肉の匂いを嗅ぎつけた妖魔が一体……二体……と上がってくる。

 トカゲのような形をした妖魔。身体は人間のように足で歩きだしていた。

 大きさは三歳くらいの子供サイズだが、殺傷能力は十分だということは無数の牙と体中の棘でわかる。


「全然足りなさそうだね……また買ってくるかな。お前達、その肉を持って沼に入ってて」


 摩美が言っても妖魔は鋭い牙で生肉にかぶりつく。


「……言う事聞きなさい」


 すぐに次の肉を食べる妖魔。

 また一体、また一体と現れる。もう沼の魚もいないのだろう。

 昼間に特殊な鳥笛を吹いて、カラスを沼に何羽か落としたが足りないようだ。


「ま、お腹空いてて仕方ないのか……また買ってくる。とりあえず、まだ人間には見つからないように、沼で待ちなさい!」


 ギギ……と妖魔達は命令に少し反応したが、摩美が立ち去った後もその場で肉を貪り食い続けていた。


 ◇◇◇


「はぁ……っ! はぁ!」


 夜の街を走り回る西野。

 ふらりよろけた肩が長身の男とぶつかる。


「わっ、ご、ごめんなさい」


「いえ大丈夫ですか……あれ君、玲央の友達だっけ」


「えっあ……玲央のお兄さんの剣一さん!?」


 驚いた西野に、剣一が笑いかける。


「こんばんは。どったの? そんな慌てて息切らして……」


「こんばんは……あ、いえ……ちょっと人を探していて……あのバイト紹介、ありがとうございました」


 剣一にはライブハウスの仕事と週末の引越屋の仕事を紹介してもらったのだ。

 正直テキパキと働けない面もあるが、剣一の紹介という事でやんわりと注意される程度で済んでいる自覚がある。


「いや、しっかり働いてもらってるみたいで、こっちこそありがとう」


 優しい声。確かにイケボだ。長身の剣一を見上げる。

 こんなにも格好良かったなら、あの子も好きになってくれただろうか。


「人を探してるって大丈夫かい? もう遅いし西野君も危ないよ」


「だ、大丈夫です。じゃあ失礼します」


 ぬるい風が二人の頬を撫でた。

 今日は春にしては蒸し暑い。月も出ていない。


「待って、西野君」


「は、はい?」


「今日は嫌な風が吹いてる……まだ帰らないなら、これをあげるよ」


 剣一が自分の腕からブレスレットを外すと、それを西野に渡した。

 革紐に宝石のような石が何個か通ってる。


「え? そんな……アクセサリーなんて頂けません」


「遠慮しなくていいよ。玲央の友達だし。お守りだよ。早く、その女の子見つかるといいね」


 女の子とは一言も言っていないのに、見透かされたようで西野は恥ずかしくなる。

 剣一は優しく西野の右手にブレスレットを握らせた。

 バイト紹介の時と今回で数回の会話しかしていないが、剣一がモテるのがよくわかる。


「あ、ありがとうございます」


 西野も最近は身なりに気をつけるようになったが、今はヨレヨレのネルシャツだった。

 不釣り合いなブレスレットだったが、西野はお礼を言ってまた走って行った。


「……今日は、嫌な夜だな……警戒した方がよさそうだ」


 剣一も呟き、夜の街を歩き出した。


 ◇◇◇


「あー勉強終わりっ!」


「お疲れ様~」


 部屋で二人きりになるなと龍之介に言われ、渋々リビングで勉強をしていた麗音愛と椿。

 勉強が終わり、二人で冷たいお茶を飲み一息つく。


「あー! 思いっきり走りたいなぁ」


 椿が伸びをして言った。

 最近は前ほどトレーニングもできていない。


「パーッと走ってくる?」


「ほんと! 行きたい~」


「今から~?? 脳筋バカップル~」


 既にパジャマ姿で携帯電話をいじっている梨里が呆れた声を出す。

 麗音愛も椿もトレーニング用のジャージをたまたま着ていたのだ。


「見回りもかねてだな。最近……なんだか街の空気が悪い」


「うん、そうだね……じゃあ行こう~麗音愛」


「れおつば~気をつけてねぇ」


「おい、帰りにフォミチキ買ってきてくれや。あとトリメン特大ヌードル」


 龍之介が五百円玉を投げて渡してきた。


「ったく……じゃあ行ってきます」


「行ってきまーす!」


 勉強も終えて、晴れ晴れした気持ちで二人は軽い準備運動をして走り始めた。

 

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