愛天使レモンシャワランの狙い……っ!!
都心の貸し会議室。
向き合う剣一と、『夜明けの騎士団』愛天使レモンシャワランこと多田爽子。
見守る麗音愛と椿。
「俺が危険だって事意外に、まだ何かあると? レモンシャワランさんの本当の意志を教えてもらいたいですね」
微笑む剣一に負けじと爽子もニヤリと笑う、がイケメン耐性はないらしい。
目は合わさず、どこか上を見ている。たまに麗音愛を見るのは冴えない男を見て正気に戻るためなのか。
しかし声は自信に満ち溢れている。
「うむ、しかしこちらからの情報ばかり出しすぎかと思うがね?
まぁ……君は組織でどんなレベルかーわーかーらーなーいからーねー。
情報を出す権限がないかもしれないがーねー。私は~団長だから~~~偉いから権限あーるーけどーー」
以前は団内に上下はないと言っていたような気がしたが、麗音愛はとりあえず黙っておく。
「ふふ、俺は確かに団長ではないね」
剣一が今度はニッコリと笑った。
爽子はカエルが潰されたような声を出す。
「セ、セクハラはやめてくれたまえよっ君」
「何もしてないのにセクハラ言われたのは初めてだ」
愉快そうに笑った剣一だが、次に真剣な瞳になった。
「では、こちらの情報を伝えましょうか。俺の所属している団体は、妖魔を退治する。正義の味方だ。妖魔の親玉を滅ぼす事を目的としている」
「やはりか……! 的確に妖魔を駆逐しているのか?」
「そうそう」
「術を使ったり、結界を張ったり……するのかい?」
「そうそう、物理的にもぶった切ったりするよ~」
「しゅごい……知りたい……見たい……言いたい……やはり人々を守っている組織というわけだな……」
「そうそう。命をかけてね」
ガタッ! と爽子は立ち上がる。
「うぉー! 知りたい! 深く知りたい!! 私も共に闘いたいっ! 夜明けの騎士団も共闘したいっ!」
叫び両手を上げては下げて、興奮している様子だ。
椿がちょっと怯えている。
「そんでレモシャワちゃんは、何を伝えたかったのかな?」
「今後、世界を滅ぼすような異常事態が起きた時の避難場所を全国各地に作るっす!」
「「えっ」」
「ほう」
「災害が起きた時のためにハザードマップや避難場所があるのは今や当たり前!!
今、山奥で起きている獣害事件、いや妖魔事件が身近で起きるようになったら? 悪が一斉に妖魔を放ったりしたらどうなるっすか! そうなった時に、妖魔の入れないような聖地を作っておくんすよ!」
「なるほど」
「どうっすか! 何億もの思考パターン世界思考図書館と心理直結!! レモンシャワランの『夜明けの騎士団特製聖域避難マップ!』見よ!! ピッカー!!」
ピッカーは自分で言った爽子が胸元から畳まれた紙を取り出し広げた。
それはまだ未完成だが、全国の要所要所に印が付いている。
「ふむ……いいとこ狙ってるね」
「長年の研究の成果っす!! 最重要機密だよぉ! 君達! 閲覧料取りたいくらいだがね!」
剣一が上から下まで見て顎に手を当てる。
麗音愛と椿にも、確かに少し理解できた。
菊華聖流加護結界復旧作戦の時の全国の要に近い場所だ。
「すごい……確かに、何かあった時の避難場所があると安心かもね。鹿義の実家があったりする歴史ある地域だと、もしもの時は皆を先導できるかもしれないけど……ある程度の都会なんかはパニックになる可能性が高い」
麗音愛の言葉に椿も頷く。
「せめて団員が駆けつける前に、そこに避難しておいてもらえば……」
「あははははー!! どうだい斎藤君、ゆかりちゃん! こんな素晴らしい団長のいる『夜明けの騎士団』に所属できて嬉しかろう! 誇っていいぞぉ~どうだい、咲楽紫千剣一氏!」
「確かに……莫大な費用諸々の問題点もあるけど……この着眼点は、欲しいね」
「ぎゃーっ!? 欲しい!?」
また剣一の言葉に叫びだす爽子。
「じゃあ『夜明けの騎士団』を捨てて、俺のとこ来る覚悟はあるかな?」
ニヤリと剣一が笑う。
「俺のとこ!? ぎゃーっ!! なんなんすか! この生きるセクハラは!!」
とうとう、後ろにひっくり返りそうになる爽子を椿が抱きとめる。
椿も背は小さいが、爽子も小さい。小さい女子二人がバタバタと動いて椿が一生懸命にどうにか椅子に座らせた。
「兄さん、調子に乗りすぎだよ」
一緒に支えかけた麗音愛がため息をつく。
ひっくり返ったカブトムシのようだった。
椿も、はぁと苦笑いして額の汗を拭う。
「はは、ちょっと面白くてつい」
「んあ? 兄さん?」
ふぅと水筒の飲み物を飲んだ爽子が驚きの目を向ける。
「あ、そうなんです。兄弟なんです」
ずっと『本当に兄弟?』と言われ続けていたが、実際に血は繋がっていない事がわかった咲楽紫千兄弟。
それでも麗音愛は剣一を兄だと思っているし、もちろん剣一も想いは揺るがない。
「ほーへーほー? それは……かなり苦労も多かろうなぁー
兄さんがこんなエグイケメンで……君、可哀想だなぁ~~」
遠慮のなさすぎる言葉が逆に清々しい。
「れ、麗音愛も本当はすっごくかっこいいんですよ!」
椿の精一杯のフォローが虚しく会議室の天井に吸い込まれていくようだ。
それでも麗音愛は嬉しい。
爽子は、哀しそうな瞳をした。
「ゆかりちゃん……恋は盲目というが、顔だけじゃなく心も美しいのがよくわかる……さすがは未来の『夜明けの騎士団』の広告塔だ……ん? じゃあ齋藤というのは」
「はい偽名なんです、すみません」
「じゃあ、君の名は……?」
名を尋ねられた麗音愛がチラっと剣一を見る。
「レモシャワちゃん、これ以上の情報はこちらからはもう出せない。そう、俺には権限がないからだ」
「むぅ……所詮下っ端か」
剣一は妖魔殲滅隊である特務部の部長である。
権限が無いというのは、剣一の嘘だろう。
「俺のとこに……は、まぁ冗談として。組織に所属する意思があるのならば連絡をください。だけど『夜明けの騎士団』に所属したままでの受け入れはできない。組織に所属した場合は守秘義務は絶対。破れば法的にエグーい処罰がありますよ」
「ぐぐぐぐ……つまり君達は公的機関」
「そういう事ですね。此処での会話も漏らせば……ね?」
「もしも所属したら、その時は……」
「うん、なんでも教えてあげるよ☆」
剣一は、セクハラと言われても仕方ないかも、と思うような魅惑なウインクをバッチリ決めてみせた。
爽子の鼻から血がポタリ、流れて落ちた。