愛天使レモンシャワランとの通話
剣一の電話にかけてきていたのは、麗音愛と椿が二人で逃げた際に泊まったキャンプ場で出会った『多田爽子』だった。
「多田さん……」
『ぎゃっ!? な、何故!? わ、私は祝福のレモンシャワランだ!!』
動揺を隠しきれない爽子だが、ごまかそうと必死だ。
剣一の視線を感じ、スピーカー設定にしてローテーブルに置いた。
『し、しかし……やはり咲楽紫千剣一氏、只者ではないようですね』
麗音愛はどう反応するか迷う。
剣一には逃げた先で何があったかは伝えていなかった。
「あの……」
『その『多田』という人物はわ、私は知らないが私と接触した勇気はさすがと言えましょうよ……あなたも世界を守る使命をしっかりと胸に秘めた戦士なのでしょう……そう、私が使命に目覚めたあれは』
余計な話が長そうだ。
「多田さん……俺は斎藤弘です」
『春の木漏れ日の……なに!? 斎藤君!? や、やっぱり!! 君、咲楽紫千剣一との繋がりがあったんだな!!』
爽子の叫び声の音が割れている。
剣一は麗音愛を黙って見ていた。
麗音愛は爽子の元を去る時に、『また連絡する時がきっとあると思います。だから今から見ることは、もう少し秘密にしていてください』と告げていた。
爽子のおかげで父の雄剣も助けられた。恩は返したい。
「連絡が遅れて……すみません」
『き、君は! 連絡をしないで不誠実じゃあないのかね! 夜明けの騎士団としての一員という自覚が足りんよぉ!』
「はい……すみません」
あの時に顧客名簿を借りる時、うっかり『夜明けの騎士団として』と言ってしまったがしっかりメンバーに入っていたようだ。
『どうせ、また可愛いゆかりちゃんとイチャイチャイチャイチャしてたんだろうっ!!』
「いや……」
『まったく……君達のバカップルさで世界は滅びてしまうよ』
「はぁ……すみません……」
剣一が笑いをこらえてる。
『さぁ! あの日、私に一体君たちは何をして、あんな幻覚を見せたか教えたまえ!』
さすがの爽子も目の前で人間二人が飛び立った事は幻覚だと考えているらしい。
「まぁそれは」
『それは』
「置いといて」
『置いといて?』
「咲楽紫千剣一に電話してきた理由は……?」
『ん? いい質問だ斎藤君……注意喚起だよ』
意外に流されやすいレモンシャワラン。
「注意喚起?」
『我ら『夜明けの騎士団』と同じ人類を守るだろう組織の一員だと思われる咲楽紫千剣一氏への忠告だ』
剣一は、やはり会話から色々と察したらしい。
あの日雄剣の状態を、麗音愛達がどこからか情報を得て剣一にキャンプ場の固定電話で電話が来た。
弟がそこで関わった人間なんだろう。そして『夜明けの騎士団』として活動している素人団体がいることは白夜団でも把握はしていたのだ。
剣一は長い指で顎を撫でた。
「……ふむ、その話詳しく聞こうか」
『も、もう一人!? じゃああなたが』
「そう、俺が咲楽紫千剣一だよ。祝福の愛天使レモンシャワランさん」
優しく囁くように剣一はゆっくりと話す。
『ぐはぁ……イケボォ……』
吐血するような爽子の声。
「とりあえず……また連絡するので、この電話番号宛にメールで連絡先送っておいてください」
『えええ!? ちょ待てよ!!』
「徹夜明けで眠いのよ俺、ごめんねレモシャワちゃん」
『ちゃ、ちゃん!? ぐはぁちょっ待っ』
「世界を救う仕事してさ疲れてんのよ~おやすみ☆」
そのまま、通話切断ボタンを押した剣一。
「兄さん」
「んー……まぁ……また電話はするさ……お前もゆかりちゃんとの逃亡生活の深い内容をメールで送っておいてくれ……げんか……い」
「あ……うん、おやすみ」
そのまま寝息をたてはじめた剣一。
またブランケットをかけて、麗音愛は息を吐いた。
「ふぅ……騒がしくなりそうだ……」