土曜日の昼・白夜高校生メンバー集まる
椿が学校を休んだ週の土曜日。
椿と梨里、龍之介の家に白夜団高校生メンバーが集まっていた。
皆がそれぞれ持ち寄っての昼食だったが、椿の好きなものばかりがテーブルを締めている。
「みんな……いつもありがとう」
「少しでも好きなもの食べろ小猿」
「うん」
佐伯ヶ原に微笑む椿だが、やはり表情はぎこちない。
それでも椿は明日から白夜団での任務に出ることを決めている。
雪春の抜けた穴を少しでも軽くするためだ。
来週から学校も出るという。
「……しっかしさぁ……なんで、こんな酷いことしたん……」
梨里が台所を見る。椿が熱を出した時に、雪春が見舞いに来て夕飯を作ってくれた時の事を思い出す。
梨里達も兄のように慕っていたのだ。
麗音愛も猜疑心はあったがそれも薄れ信頼しはじめていた。
そのタイミングでの裏切り――麗音愛も心の傷を実感している。
「何か事情があったのかしらね……」
皆が暗く考え込む。
しかし、麗音愛が皆に言った。
「……みんなに言っておくけど、絡繰門雪春の事情なんか考える必要ない」
「玲央」
麗音愛の意外な言葉に美子が驚く。
「裏切りの理由なんかいくら考えたって俺らにはわからない。ただあの人は紅夜会に行ったんだ。椿と加正寺さんを傷つけ大事なものを奪って俺達と敵対する組織に行った……それが事実だ」
「……麗音愛……」
「あの人がどうしてあんな事を……より、俺達がこれからどうするかをしっかり自分で決めておかないといけない」
「あたしらが……どうするか」
「俺はみんなが大事だ。だから一人も傷も負わせたくない。次に戦いで対峙した時に躊躇すればみんなの命に関わる」
「……んだな」
「それが決まるまでは任務には出ない方がいい……次に会った時は必ず敵だと思えるようになるまで」
麗音愛の言葉に皆が下を向いた。
「まぁ俺は非戦闘員なんで関係ないですが、違う場面でだったら躊躇も何も無くぶっ殺しますよ」
「ひ、非戦闘員の私達がどうやってぶっ殺すのよ」
「さぁ? 知らんけど」
美子の問いに佐伯ヶ原があっけらかんと言う。
「だな……! ここまでやられてて、俺らが遠慮する必要なんかねーし。あいつの事情なんか考えたってわかんねーよな!」
「あたしらの事も白夜団全員裏切ったわけだしねー」
「心の傷はあいつらの格好の標的になる。そこを利用されるわけにはいかない」
「さすがサラです」
「麗音愛……私、今は色んな事思い出して辛いけど……」
「椿」
椿が呟く。
「……強くなる……次に出会った時はしっかり敵として立ち向かうね」
「うん……椿はもう強いよ、その時は俺が戦う。指一本触れさせない」
涙が溢れた椿を、皆の前だが抱き寄せた。
皆も何も言わず、見守る。
二人がこうして寄り添うのを見ている方が安心する気さえした。
「苦しくなったら、いつでも吐き出して椿ちゃん」
「次にあいつに会ったら俺がボコボコにして椿に謝らせてやっから」
「バカ龍! 死ぬよ」
「バァカ! 死なねーよ! 俺の修行の成果見てるべ」
「そうだけどさぁ、あの人の強さ未知数っしょ。何隠してるかわかんないもん」
「接触があっても、絶対に一人で相手にはするなよ」
白夜団では雪春の使った催眠術への対抗手段、対抗術を開発するために絡繰門家を捜索中だ。
「加正寺さんはまだ入院中なのよね」
「あいつにはいい薬だろ」
「佐伯ヶ原君ったら……あ、麗音愛」
「ん?」
椿が麗音愛の胸元にいる事に気付いて、離れようとしたが麗音愛はそのまま離そうとしない。
「れ、麗音愛~」
「うん」
「あ、電話が鳴ってるよ」
パーカーのポケットに入れていた携帯電話を取り出した。
「……海里さんだ」
「え、海里さん?」「海里ぴも来る~?」
「出るね」
皆が見守るなか、麗音愛が驚いた声を出す。
「え!? 加正寺さんがいなくなった!?」
「えっ!」
「なにやってんだ……あの悪役令嬢は……」
琴音が行方不明になった知らせだった。