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それではさようなら

 

 椿の爆炎が雪春の桜吹雪を燃やしていく。


「えぇ、こうなる事はわかっていました。

 篝さんの……篝様のご息女ですからね」


 椿の炎……怒りの炎が揺れる。

 

「雪春さん……っ!」


 しかし琴音の周りの花吹雪は舞ったままだ。


「ではお相手しましょう。加正寺家の代理当主が誠心誠意ね」


「いやぁ!! やめてぇ! やめろぉお!!」


 雪春は動かない。

 抜刀もしていない。

 琴音は操られ、椿の元へ走り出した。


「罰姫! 避けてぇええええ!!」


 椿の炎が更に爆発する――!


 拘束の解けた椿は、琴音の二刀の斬撃から身を翻し避けた。

 その瞬間に、弓矢の帰兎きとで飛び上がり、雪春に矢を打つ。


 雪春はその場から動かずに明橙夜明集『雪春』で矢を容易く斬り落とす。


 上空に飛んだことで、椿は琴音から遠く離れた場所に着地することができた。


 琴音との戦闘経験はないが、先程の共闘で彼女の太刀さばき、戦闘のクセなどは見て覚えた。

 それを雪春が、どう操ってくるかはわからない。


槍鏡翠湖そうきょうすいこ! 闘うよ!」


 椿は槍鏡翠湖を構える。

 浄化能力もある槍。

 間合いの差も有利。

 琴音にとっては一番苦手な相手だ。


 しかし椿は琴音を傷つけたいわけではない。

 今も彼女は雪春の術に抗おうと、血の涙を流し歯を食いしばっている。


 そして手足の動きはまるで逆に、椿に襲いかかる!


「いやぁあ……もう私を殺してぇ!」


「ダメ! こんな人に利用されてしまうことなんかない……!!

 でも、少しだけ苦しい事をするかも、ごめんなさい!」


「どうするつもりですか、椿さん」


 この状況でもまだ、いつもと同じ表情の雪春を椿は睨みつける。


「雪春さん! あなたを許さない……!!」


「あなたのそういうところが好きですよ」


「わっ私はっ……もう、あなたなんて大嫌いっ!!」


 身を震わせ叫んだ。

 そういう瞬間に、琴音は斬り込んでくる。

 琴音をいたわる事もない、生きさせようとしない戦わせ方。


 むしろ人質を目の前に、ぶらつかせているのだ。


 マリオネットの人形が大事にも思っていない持ち主に

 振り回されているかのように、サーベル二刀を交互に振るってくる。


「やめてぇえええ!! 私の正義の力を汚さないでぇええええ!!」


 血の涙が椿にかかる。

 槍鏡翠湖の浄化の光で、足止めを考えていたが椿の心に迷いが生まれる。


「雪春さん!! もうやめて!!」


「やめることはできないのです」


 椿は黄蝶露の斬撃を槍鏡翠湖から持ち替えた緋那鳥で受けた。

 すかさず左腹を骨研丸を襲う。


「この!! 馬鹿女!! なにやってんのお!?」


 この状況で琴音を庇う椿に、浴びさせられる琴音からの罵倒。


「馬鹿じゃないものっ!」


「お前のその、あざといまでの良い子が腹が立つ! 私を殺して、逃げなさいよぉ! この馬鹿!」


「じゃあ、馬鹿だから死んでも貴女の言うことなんか聞いてあげない!」


「なっ」


「私の魅了の呪い! 生きて自分で証明したらっ!?」


「!!」


 えぐられた左腹を押さえながら、椿も二刀を相手に斬撃の火花を散らす。


「仲がよろしいですね」


「あっ」


 雪春に後ろをとられた。

 と一瞬で斬撃。


 避ける隙もなく、椿は両足のアキレス腱を切断された。


「ああっ!!」


 倒れ込む椿の激しい痛みを慰めるように、雪春は後ろから優しく抱きとめる。

 大切なものを守るかのように、椿を抱きしめた。

 また花びらが舞う。

 椿は動けない。


「やめて……」


「さぁ、それではこれで最後です」


 雪春に抱きかかえられ、目の前に琴音の二刀。


「このぉ! やめてぇえええ!! 悪の助けなんか嫌よぉ!」


「舞意杖に……触らないで……」


 少女二人の血の涙にも雪春は躊躇することはない。

 椿の命の拒絶の炎が三人を包む。

 しかし雪春はもちろん手は緩めず、操られた琴音も焼かれながらも止まれない――。 


 花びらに燃え移り、まるで炎の花吹雪のようだ。


「ぐぅ……」


 黄蝶露と骨研丸の切っ先が椿の中にめり込んでいく。

 絶望の意識の中、椿の口元から血が流れる。


「さぁ、ドレインの力と骨研丸の力をもっと……!」

「いやあああああ!!」


 黄蝶露が暴発するかのように骨研丸と共鳴し琴音が悲鳴を挙げた。


 吸い込まれるようにブチブチと剥がされ、そこに骨研丸が喰い込む。

 願いを込めて同化した舞意杖が引き剥がされていく。

 何もかも道理を無視した残酷無慈悲な儀式。

 

「やめ……て……ぇ」


 痛み、涙の先に思い出すのは――。


「……れお……んぬ……」




「椿ぃいいいいいいいいいいいいい!!」




 上空からの怒声。

 晒首千ノ刀――! 呪怨の翼をまとった麗音愛が突っ込んでくる。


「もう、遅い」


 麗音愛の斬撃を椿を抱えたまま、避ける雪春。


 椿の胸元はざっくりと裂け、血しぶきと共に舞意杖が雪春の手元に現れた。


 怒りに燃え、向かってくる麗音愛に椿を投げ渡す。

 麗音愛は椿を抱きとめた。


「椿!」


「……こ、琴音さんが……」


 自分の胸の傷よりも椿は琴音に手を伸ばす。

 椿の炎で琴音も焼かれ、壊れた人形のように二本のサーベルと共に転がっていた。

 まだ雪春の持つ舞意杖は至近距離にいる。


「舞意杖ぇ!!」


 椿が最後の力で叫ぶと、紫の炎が爆発したかのように吹き出し一帯を焼き尽くす。

 琴音の傷が治っていく。

 意識を失いそうになりながらも、麗音愛に抱かれながら椿は雪春を睨みつける。


「さすが、貴女はまさに聖女の娘です……」


「おまえ……その舞意杖は……」


 雪春の手元にある血だらけの舞意杖。

 麗音愛も信じられない思いで晒首千ノ刀を向ける。


「絡繰門雪春……椿に何をした……!」


「咲楽紫千玲央……いえ、麗音愛君……」


「殺す――」


 その瞬間、椿の炎も消えて暗闇の山の中スポットライトが当たったように麗音愛と抱いた椿、雪春が映し出される。


「さぁさぁ! 絡繰門雪春! やっと舞意杖を手に入れたか~い」

 

 ルカだ。パーンとクラッカーのような音がして色とりどりの紙吹雪が舞う。

 おびただしい数の妖魔が上空にいて、その一匹の上にルカは乗っていた。


「……下品な演出など、やめてください」


 初めて雪春の表情が曇る。


「こいつが仲間になるなんて本当かよ!?

 姫様はすげー血が出てるが大丈夫なのか!?」


 闘真も飛行型の妖魔に乗りながら、椿を心配そうに見ている。


「加正寺琴音を癒やした炎は彼女自身にも効いているはず……特に心配はないでしょう」


「まじか~良かったぜ!」


「今夜やるべきことは、全て終わりました。さぁルカ、行きましょう」


「それでは、貴方にも我が紅夜会の証を……」


 ルカが上空から紅いマントを雪春に渡す。

 

 バサリと鮮血のようなマント。

 雪春はそれを血塗られた手で自分の肩にかけた。

 紅夜会に属した証。

 闘真が差し出した妖魔に、雪春は乗る。


 紅夜会のマントが翻り、桜吹雪がまだ舞っていた。


「椿さん、麗音愛君。それでは、さようなら」


 それが絡繰門雪春が二人に残した最後の言葉だった。



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