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椿VS琴音!?真夜中の攻防

 


 無言のまま、暗い山に登っていく車。

 ガサガサと不気味に揺れる木々。

 あの紅夜の眠っていた大穴に行くつもりなのは明白だ。


 しかし観光地ではない。車で入るには限界がある。


「お嬢様、ここから先は車では行けないようです」


「じゃあ此処で待っていて。その前に一度あなたは降りて

 椿先輩には団服に着替えてもらうわ」


 運転手と琴音が降りて、車内の中どうにか椿は団服に着替える。

 まだ寒い春の夜。


 琴音は小さいが明るい懐中電灯を持つ。

 椿は夜目が利くが琴音も黄蝶露の影響で見えるのだろうか。


「照らす炎を出しますね」


「じゃあ、お願いします。武器はまだ出さないでください」


「はい……わかりました」


どんな口調でどんな風に、琴音を呼んで話していたのか今はわからなくなってしまった。

 上官への態度のように従う。


 運転手には此処で待つように告げ、二人で山道を少し登る。

 以前に麗音愛と剣一と来た時とは全く違う状況。

 大晦日には此処も浄化されたはずだが、雪解けなどで山道は荒れ放題。

 ぬかるむ足元を照らし、琴音が転ばぬように注意を促す。


 嫌な空気が漂ってきた。あの時に浄化はしたが、きっとまた穢れ淀みが溜まっているだろう。

 一般人でも背筋がぞくりとするような嫌な気配を椿はビリビリと感じる。


「すごいですね……」


 さすがの琴音も異様な空気に少し驚いたような声を出す。


「此処へは……どうして来たんですか……」


 琴音は答えない。そのまま無言で二人は歩く。

 そして開けた穴のある場所。

 雪解けの泥や砂埃で荒れて、いつか浄化のために打ち込んだ金属もところどころ欠落している。

 それはもう仕方がないが、やはりまた紅い瘴気は生まれている。


「穢らわしいわね」


 まるで自分に言われたような棘を感じてしまう。


「浄化を……しにきたのですか?」


「いいえ、それでは剣を抜いてください」


「えっ?」


 琴音は黄蝶露を具現化させ、骨研丸も抜く。

 真っ暗な山の中、椿の炎が揺れる。

 この山にはソメイヨシノは咲いていない。山桜の少しの花吹雪が二人の間に舞い落ちる。


「抜いてください、椿先輩」


「何故……? 私達が闘う理由なんてない」


 琴音の両刀は真っ直ぐに、椿に向いている。


「それが、あるのですよ」


 椿の額に、冷や汗が滲む。

 炎に照らされた琴音の顔には迷いはない、信念に燃えた瞳。


「さぁ、緋那鳥(ひなどり)を抜いてください、罰姫……!」


 ◇◇◇


 琴音の代わりの任務で、地方の封鎖された公園で晒首千ノ刀を振るう麗音愛。

 椿がいない背中が寂しい。

 どんな時でも想ってしまう、愛おしい恋人。

 こうして身を滅ぼしながらでも闘えるのは、彼女がいるから――。

 二人の運命を聞いた時に、離れたあの時間を思い出すだけで苦しくなる。


 ふわりと撫でるように、桜の花びらが耳元をくすぐって消えた。


 もう桜も散って終わるだろう――。

 山桜しか見たことのない椿は、ソメイヨシノを随分と気に入って微笑んだ。


 ハートのようだ、と言って髪に絡んだ花びらをとってキスをした。


 帰宅したら、電話をする約束をしていたが我慢できずに窓をノックしてしまいそうだ……そう想った時、一瞬心にざわめきが走る。


「……椿……?」


 麗音愛の声は春風に乗って、誰にも届かない。

 そして携帯電話から白夜団の緊急警報が鳴り響いた。


 ◇◇◇


 二人の携帯電話は緊急警報が鳴らなかった。


「ま、待って……!」


 紅夜の穴を横に、切り込んでくる琴音をすんでで避ける。


「ひゅっ……!」


 答えは琴音の斬撃の隙に吐く息のみだ。

 どちらに逃げても、琴音の二刀流が後を追う。

 椿はまだ緋那鳥を具現化はせず素手で逃げ回っている。


 たまに目くらましに、炎を琴音に寄せるがそれも当てることはできない。


 椿と琴音、実際に力の差は歴然なはずだ。

 椿自身、回復力もある。琴音はない。

 それなのに、突っ込んでくる――その気迫。

 殺気。

 それこそが強さ。

 なにが彼女をそうさせるのか――。


「こんなのおかしい! 話を聞いて!」


 琴音から返ってくるのは斬撃しかない。

 不気味に光る、黄蝶露(きちょうろ)、そして骨研丸(ほねとぎまる)


「くっ」


 大きな穴と広場ではあるが、山の中だ。

 椿は森の中へ逃げ込む事も考えた。

 しかし、琴音は追ってくるだろう。

 焦りから椿も冷静な判断ができない。


 情けない、やはりこんな結果になってしまった――!!


 結局自分を憎む琴音に言われるがままに誘われ、こんな場所で紅夜の穴にでも埋められるのだろうか。


 椿の心にも浮かぶ麗音愛の顔、そして自分の果たさねばならぬ魂に刻まれた使命。

 宿敵、それは琴音ではない!!


 考えて――!!


「あっ!」


 ぬかるみで椿が足をとられ転ぶ、そこに斬りかかった琴音。

 瞬間、一気に輝く椿の青い浄化の炎。


「ぎゃっ!」


 琴音にとっては禁忌の青い炎、短く叫び踏みとどまる。

 しかし、青い炎は琴音を焼き尽くさなかった。分かれる炎。


「なに!?」


 琴音を避けた炎はまた合わさり、紅夜の穴にそのまま青い巨大な炎は突っ込んでいく。

 閃光が走ったように、光る穴。


 そして妖魔が燻しだされるように一気に湧いて飛び出してきた。

 浄化してもしても穢れが溜まり、また大量に渦巻いていたのだ!


「妖魔――!!」


 おびただしい数の妖魔が目の前に現れ、琴音はまた体勢を変える。

 その後ろで、椿は緋那鳥を構え青い炎に照らされる。


「まずは私達の使命……妖魔退治をしましょう、加正寺さん!!」


 緋那鳥が炎と共鳴するかのように、迦陵頻伽(かりょうびんが)の鳴き声のような細い金属音が山に響いた。



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