表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

328/472

美子の一撃・椿の不安・海里の微笑み

 

「教室でのサラを見られるとは……っ!!

 俺はいぎででよかっだぁあああ」


 同じクラスになった麗音愛を見て、むせび泣く佐伯ヶ原。

 クラスメート達は麗音愛の魅力がさっぱりわからないので

 芸術家の審美眼はわからないなぁと遠目でコソコソ話をしている。


「やめろよ佐伯ヶ原……恥ずかしい」


「この芸術家は脳味噌がクレイジーなのか?」


 カッツーがこそっと麗音愛に耳打ちする。


「てめぇ! サラに近づき過ぎだぞ類人猿!」


「ふぐぬぅううう!! ドS男のになんかなぁ! おっ俺はデレないぞぉおおお!!」


 見た目だけは可愛らしい佐伯ヶ原に向かって、言い返しながらも頬を染めるカッツー。


「うわっ気持ち悪っ! なんだこいつ!!」


「あ~~……最悪な化学反応が……」


 項垂れた麗音愛の横で椿があははと笑う。

 西野も一緒に笑っているので、麗音愛も笑った。


「西野君はモールの傍の塾なんだ」


「うん。椿ちゃんは玲央と一緒の塾じゃなくて、通信講座で勉強するんだって?」


「うん、そうなの」


 椿は当主としての仕事もあるため、麗音愛と同じように塾通いは無理だった。


「俺も通信講座にしたかった……」


「ずっと通ってるんだもの麗音愛はそこの方がいいよ。でも私このままじゃ麗音愛と同じ大学は無理かも……」


「えっ! 椿なら大丈夫だって! それにもしもの時は俺、椿と同じ大学にする……」


「色ボケ過ぎね玲央」


 ふいに現れた美子の言葉がグサッと刺さる麗音愛。


「一生を左右する事を女の子に任せて……」


「いや、俺はそんな。そういうことでは」


「自分の信念曲げて、色ボケして彼女にべったりなんて……」


「う……」


 唸る麗音愛の隣で、何故か西野も顔を歪める。


「そういうの彼女のため、みたいに思わせて重いし迷惑よ」


「あああ、いや俺は椿にそんな……」


「ふふ、今からそんな気持ちでどうするのって話よ。椿ちゃんだって、そんな事望んでないんだから」


「う、うん! 私は麗音愛が目指してる道を進んでほしい!」


「うん……わかってる。でも無理しない範囲で一緒に頑張ろうね」


「うん! 私も一緒に行きたいんだもの頑張る」


「それでこそ、れおつばバカップルよ」


「なんだよ~そういう美子は彼氏できたの?」


 涼しい顔で、美子はふうと息を吐く。

 佐伯ヶ原とカッツーの言い合いはまだ続いているようだ。


「受験生だもの~つくる気もないわ。

 それに剣一君みたいに引っ張ってくれる男の子ってなかなかいないわね

 はいはい従ってくれるだけじゃなくて、やっぱり強い人が……西野君どうしたの?」


 なんだか目を泳がせてる西野。

 以前に西野が美子に告白した事は既に過去になっていて今では気さくに会話する仲だ。

 それなのに何か様子がおかしい。


「あ、いや! な、なんでもないよ……あはは従ってるだけ、じゃね」


「あ、これは私の勝手な主観だから……引っ張るのが好きな女の子もいるわよね

 西野君の彼女はそういうタイプなの?」


「いやいや、俺は彼女なんかいないから! 俺ちょっと便所……」


 そそくさと逃げていく西野を見て、カッツーも一緒に佐伯ヶ原から逃げていった。


「なんかおかしいんだよな。最近西野」


「恋人できたんでしょ?」


「え? そんなわけないって言ってたけど……」


「言ってないだけでしょ、身だしなみとか変わったじゃない?」


 美子にそう言われたが、麗音愛は全く気付かなかった。

 でもそう言われてみれば、そう思う部分もある。

 たまにヒゲが伸びてたり、くたびれたシャツを着ていたりそういうのがなくなった。


「なんで隠すんだよ」


「それはわからないけど……」


「まぁ、俺相手だし仕方ないか……」


「麗音愛、そんな事ないよ」


「卑屈になってるわけじゃないよ。昔からだし気にしてない」


 呪い――篝の麗音愛を守る術の影響で、麗音愛にはなんでも話せる友人などいなかった。


「麗音愛……」


「俺の事をわかってくれる椿がいてくれるから、いいんだ」


「うん、親友だもん」


「親友だし恋人だよ」


「えへへ、うん」


「「……バカップル……」」


 つい美子と佐伯ヶ原までそう呟いてしまった。


 ◇◇◇


 椿は放課後すぐに字気の車で結界の修復作業に向かい帰宅後はマンツーマンの通信授業。

 疲れ切ってお風呂に入った後リビングのソファに倒れ込んでしまった。


「うう~はぁ……」


「姫、おつかれじゃ~~ん」


 台所でポニーテールにエプロン姿の梨里が何かやっている。


「うん……」


「アイスキャラメルマキアート飲む~?」


「の、飲みたい!」


 前までは自分の部屋に籠もりきりだったが最近は梨里と二人でもよく話す。

 お店で作られたようなアイスキャラメルマキアートが二つ。

 写真に撮って梨里はすぐSNSにアップする。


「美味しい~! ムンバのそっくり! ありがとう梨里ちゃん」


「ふふ~ん、でっしょ~! ねぇ姫はまだアカウント登録してないの??」


「あ、う、うん……まだ……」


 琴音にDMするために作ったアカウントは誰にも教えていない。

 話が終われば、消すつもりだからだ。

 自分が嘘つきになっていくようで、心が痛む椿。

 でも今は仕方ない。任務のためだと思うようにするんだと下を向く。


「な~んか海里ぴさ~」


「え? 海里さん?」


「結局、加正寺琴音と仲いいみたいでさ~クラブでも誘おうかと思ってたけど、や~めた。

 やっぱあたし坊っちゃんタイプより肉食系の方が好きだしぃ?」


「海里さんが、加正寺さんと……」


「えぇ? 姫も気になってた~?? まじ~~浮気??」


「や、やだ。まさか! ……そっか海里さんは加正寺さんと仲良し……なんだね」


 琴音の事を相談して、と言っていた海里。

 しかしそれは、自分の動向を伺おうとしていたのだろうか……?

 仲間を疑うなんて、と思いながらも椿はアイスキャラメルマキアートをぎゅっと握りしめた。


 ◇◇◇


「琴音ちゃんの、そっちの刀は本家の……なんだっけ?」


 海里より先に飛び出し、大物を二刀流で切り裂いた琴音。

 ぶんぶんと適当に妖魔の体液を振り落としている。

 浄化は海里が引き受け、これから行う準備中だ。


骨研丸ほねとぎまるですよ」


 追放された加正寺家本家の末子、たかしから奪い取った時は、綺麗に保管されていた骨研丸。

 今は琴音のぞんざいな扱いで刃こぼれが起き、黒く変色しているかのように見える。


「本家の刀が嫌いだからそういう扱いをしているの?」


 海里の言葉に琴音は驚くような顔をして、次に微笑む。


「まさかぁ、まぁ最初は虐げられていた黄蝶露きちょうろの恨みを晴らしてやりたい気持ちもあったんですけど、この子もこの子で可愛いなって最近思うんですよ~」


「へぇ」


「こういう扱いの方がイキイキしているように思えるんですよね~」


「迫力はあるよね。相手の骨を研ぐように、力を、命を奪う……刀

 白夜様って晒首千ノ刀もそうだけど、エグい武器を作ったもんだよね」


「うふふ、晒首千ノ刀、黄蝶露、骨研丸で白夜の三大呪刀ですよね~」


「なるほど……そうかもね」


 うんうん、と頷く海里。


「綺麗な面だけでは、妖魔王紅夜は倒せませんので!」


「うん、そのとおりだね」


 海里が聖水に特別に調合された薬を混ぜると次第に発光する。

 琴音は下がり、海里がそれを撒いて浄化は完了した。

 二人でワゴンバスまで林の中を歩く。


「海里さん」


「なに?」


「私、高校生グループではハブられてる感じなんですよぉ……」


「えぇ? そんな」


「鹿義先輩は意地悪だし、藤堂先輩も怖いです。佐伯ヶ原先輩なんて目の敵にして……

 クリスマスパーティーもハブにされたんですよ。お花見とか普通にしてて裏ではひどいんです」


「それは、大変だ……」


「そうなんです~だから、海里さんは……私の味方でいてほしいんですよ~」


「……味方……」


「はい! お願いですから~」


 すがるように可愛らしくいう琴音。

 甘え上手な令嬢の可愛いお願い。

  

「……うん、もちろんだよ」


 確認するように言う琴音に、海里は優しく微笑んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ