三年生の始まり!そして
桜が舞い散るなか、三年生の初登校。
椿が初めて学校に行った日を咲楽紫千家の皆が思い出し二人を見送った。
「椿ちゃんも玲央も幸せそうだな」
剣一が微笑むと、直美が頷く。
「えぇ……このまま、平和が続かないかしら」
「あの二人の平和を僕達も守っていきたいね。
それで直美、落陽廟の警備の事なんだが」
雄剣の話に、剣一も剣五郎も反応した。
「落陽廟、椿ちゃんのお母さんの篝さんの遺骨があるっていう?」
「あぁ、篝ちゃんの遺骨は、紅夜への一番の捧げものだと言われているからね。白夜団が守っているんだ」
「そうは言っても元七当主達の勝手で
篝は不名誉な、裏切り者として埋葬されていたから……
今回、元桃純家当主として新しく場所を移動させたいのよ。
愛月姫様がお守りくださってる月夜廟に。
そうすれば、椿ちゃんも玲央も会いに行けるわ」
「俺が警備に行こうか?」
「それは助かるけど……南支部への出張もあるでしょ」
「うーん、まぁね」
南支部は白夜団自体の人数が少なく、剣一が出張する予定だ。
「篝も生きてる人を守ることを望むと思うから、あなたは気にしないで」
「儂が指揮をとろう」
「じいさん」
「篝さんには儂も色々と謝りたい……」
「それは私も……」
「じいさんも、直美も……篝ちゃんは二人に何か思うような子じゃないよ。無事に篝ちゃんを月夜廟へ移して皆で会いに行けるようにしよう」
雄剣の言葉に皆が頷いた。
◇◇◇
「おはよう~渡辺さん!」
「おはよう」
桜の花が舞う通学路。学校が近づくにつれて、椿のドキドキが伝わってくる。
そういう麗音愛も新学期が始まるのが嬉しかった。
「えへへ……一緒のクラス嬉しいな」
「うん、俺も」
受験生も本番で、浮かれてはいられないのだが初めての恋人と初めての同じクラス。
これぞ、まさにリア充というやつではないかと思ってしまう。
「俺も椿と一緒のクラスで嬉しいぜ~!! なぁ!!」
一緒に登校はしなかったはずなのにドンと麗音愛を突き飛ばし、龍之介と梨里が現れる。
「おっはよ~玲央ぴ、鼻の下伸ばし過ぎじゃね?」
「……お前らと一緒なのはあまり嬉しくない……」
「そういう事言うなし!」
むぎゅうと梨里に腕に抱きつかれ、慌てて振りほどいた。
次には椿が豊満な胸で抱きしめられる。
「みんな、おはよう。今日からみんなと同じクラスなんてね。受験生だけど楽しそう」
「美子ちゃんおはよう! 佐伯ヶ原君も一緒のクラスなんだよね」
「そうみたい、散々迷ってたみたいだけど、今回特進クラス増やす事になったから空きがあるならそうするかって決めたみたいね。でも今日は欠席だって」
佐伯ヶ原は美大か海外留学を考えているので実際特進クラスに入る必要はなかった。
きっと麗音愛と一緒のクラスになりたかったのかな? と口には出さないが椿は思った。
「クラス増えても、みんな同じクラスになれるなんて奇跡だね。嬉しいな」
「まぁ、そうだね」
自然にお互いが差し出して繋がれる手。
今までは椿の教室前でさよならしていたが、今日からは同じ教室だ。
学校でも有名人の椿や梨里達が教室に入るとちょっとした盛り上がりになる。
「お、西野~同じクラスだな!」
「……玲央……あ、あぁ……よろしくな」
「どうした?」
何故かよそよそしい態度の西野。
「いや、別に」
「なんか悩み?」
「ま、まさかー!! 春だなぁ楽しいワクワクするよ!!」
「そっか」
「玲央ー!! 今年こそお前は椿ちゃんを解放せよ!!
グオングオン!! 椿ちゃんと梨里ちゃんと美子ちゃん!!
美人ばっかりのクラスで幸せだなぁ~~!!」
「カッツー……うるさい」
石田は離れてしまったが、意外に成績の良いカッツーもまた同じクラスだった。
新しい担任が来て、ワイワイと自己紹介が始まる。
背の低い椿は前の方の席になり、麗音愛は後ろから見守っていたが不意に振り向いて小さく手を振り微笑んでくれた。
心臓が高鳴る。麗音愛の周りの男子生徒も色めき立ったのがわかった。
可愛すぎる女の子、あの子が自分の恋人……!
あの微笑みは自分に対してのものだ。
感動が過ぎる。
ただ、この平和な時間を椿の幸せを、紅夜会が微笑ましく見守ってくれるとは思えない。
すぐにでも、この場所を地獄絵図にすることも容易い奴らだ。
奴らの次の企みは一体何か……。
麗音愛はいつものように椿を守る結界を学校に張り巡らせる。
白夜団の子供達はもちろんそれを知っていた。
少しの不快感はあるが、皆文句は言わない。
「あっ……玲央先輩の……感触……」
そして毎度それに気が付くと、琴音だけが感嘆の声を小さくあげるのだった。
始業式からも授業が開始され、龍之介や梨里はレベルの上がった授業に疲れが見える。
「椿ちゃん、二年生の女の子呼んでるよ」
「え? は~い」
昼休み、麗音愛が一階の自動販売機にコーヒーを買いに行ってる間に呼ばれた椿。
朝から何度もこの付近をウロウロしていたように思える二年生の女の子。
「はい」
「あ、あの渡辺椿さん」
派手めな女子だが、覚えはない。
一体なんの用事だと不思議に思う。
「はい、どうしました?」
「これ、必ず読んで対応してください」
「えっ?」
小さなミニ封筒を渡される。
「絶対秘密にして、絶対対応してください。
でないと、私デビューできなくなるんで、困るんで」
「え?」
「絶対ですよ! この手紙のことは、彼氏にも友達にも言わないでください。約束破ったら一生恨みますから」
一方的なのに、随分と威圧的だ。
周りを見回して、最後は睨まれ走り去っていった。
麗音愛も美子も佐伯ヶ原も梨里も龍之介もいない時間。
廊下で呆然とする椿だったが、廊下を歩いてくる麗音愛に気付く。
慌てて手紙を仕舞う。
多分、川見先輩のファンの嫌がらせかなにかかな? と椿は思った。
自分の恋人がお前を好きになった、というような因縁をつけられた事も麗音愛には伝えていないがよくある。
「椿、ココアも買ってきたよ」
「ありがとう、一緒に行けばよかった」
「少し離れるのも寂しくなっちゃった?」
「うん、いつも一緒にいたいな」
冗談で言ったつもりが、素直に返され麗音愛が逆に照れてしまった。
麗音愛が感じている幸せを椿も感じている。
この平和の尊さを誰よりも知っているのだ。
帰宅後に一人、部屋で開けた手紙には
『正義を信じるのならば誰にも言わずに、下記のアカウントにDMをください 白夜団・加正寺琴音』
そうアドレスとともに書いてあった。