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好きだとか

 

 麗音愛の家、夕飯後のリビングでマナを撫でる椿。

 その横にはもちろん麗音愛が座っている。

 ソファでは老眼鏡をかけて剣五郎が携帯電話を見ているようだ。


「春休み、お友達と遊ばなくて良かったの? 西野君とか」


「あ~俺は休み中は基本忘れられてるしね。みんなでは遊んでるんじゃないかな」


「そうなんだ……」


「別にもう慣れてる。椿は明日はみーちゃんと遊ぶの楽しみだね」


「うん、モールでご飯食べてお買い物するんだ」


 あの事故のあと、みーちゃんは何も言わないが二人の仲はより深まったようだ。


「いいね。俺も駅前でもブラつこうかな」


「一人で?」


 マナは椿の膝の上で背中を撫でられ気持ちよさそうにゴロゴロしている。


「じゃあ西野でも誘ってみるか」


「うん、その方がきっと楽しいよ」


「マナの写真も送るかな」


「うん」


 剣五郎が手洗いに立った時に椿にキスをしたら、恥ずかしさから少し怒られた。

 麗音愛は西野に写真と誘いのメールをしたが既読にはなったが返信はない。

 今まで西野が返信をしてこなかった事はなかったのだが旅行中かもしれないし、と麗音愛は何も気にせず次の日をむかえる。


「来週からはもう三年で新学期か」


 駅前の本屋をブラつきながら麗音愛はそんな事を思う。

 今日は平日の休みも最後。

 そういえば、椿の読んでいる少女漫画の最新刊が出ると言っていた事を思い出す。

 買っていこうかと女性向けコーナーに行くと西野が立っているのを見つけた。


「あれ、西野?」


 少女漫画のコーナーにいるが、脇には女性向け雑誌も抱えている。

 麗音愛が近づくがイヤホンをして最新刊コーナーを見て熱心に物色しているのか気付かない。


「おい、西野!」


「わーーーっ!?」


 想像以上に驚かれ、客がこちらを見る。


「れ、玲央!?」


「ご、ごめん。そこまで驚くとは……ん?」


 ふと、血の匂い……何か邪気を感じた気がした。


「あ、こ、これは……えっと母さんに頼まれて!!」


 イヤホンを外し、持っていた雑誌を隠すように慌てる。


「……何を聴いてる?」


「えっ? いや、なんにも」


「『明けの無い夜に』とか聴いてないよな」


「なっ! ばっかあんな怖い歌……お、俺が聴くかよ」


「……そうか……そうだよな」


 気弱な西野が、わざわざ聴くわけはない。

 呪怨が西野に手を伸ばそうとするのを制御し塵になって消えていく。


「絶対に、あんな曲聴かない方がいいよ」


「まぁな」


「害悪しかないから」


「そ、そこまで言うことないだろう。歌詞は結構良かったし」


「え」


「玲央ってさ……普段何やってんの?」


「普段?」


「ほら、修学旅行も休んだりさ、してたじゃん」


 西野は詮索をしてくるようなキャラではない。

 しかも今更秋の修学旅行の話。


「加正寺さんのワゴンバスに乗ってどっか行ったりさ」


 確かに学校の近くに止めたワゴンバスから任務に行った事は

 何度かある。

 しかしその姿は呪いに加え呪怨を纏い一般人からは見えないように配慮していた。


「……し、修学旅行は法事だって言っただろ!?

 どうしたんだよ、それに俺がなんで加正寺さんのワゴンバス!?

 乗るわけないない!」


「そ、そうか……見間違いかな

 それなら良かったよ」


「西野?」


「や、なんか春休みも連絡来ないしさ

 俺ら友達だろーって、それで」


「昨日、連絡したぞ」


「え?! ごめん気付かなかった」


「いや、別にいいんだけど既読も付いてたから

 用事あるのかな~ってさ。……彼女でもできた?」


「ままままさか!!」


「じゃあ暇だったらゲーセンかカラオケでも行くか?」


「あ~~……いや、もう帰らないと……はは」


「そっか。わかった」


「隠し事とかしないでくれよ、玲央」


「ん? 何もしてないよ」


「椿ちゃんとは仲良くやってんのか?」


「それはもう」


「ちくしょー」


 二人で笑って、その場を離れた。 

 麗音愛はもちろん違和感を覚えたが、何かできるはずもない。

 西野が聴いていたのが『明けの無い夜に』だとしても

 今は配信は根絶され、出回っていることはない。

 どこから一体入手したのか……。


 ◇◇◇


「買ってきてくれた?」


 西野が部屋に戻ると、湯上がりでTシャツ姿の摩美にあわててしまう。


「わっ! ご、ごめん」


 しかも下はまだジャージも履いていなかった。

 背を向けると、短パンを履いてベッドに座る音が聞こえる。


「まだあった? ルージュ付きの限定版」


「う、うん」


 紙袋を渡すと、中からメイク用品だけ抜き出してあとは見向きもしないで鏡で試しだす摩美。


「あと、漫画も買ってきたよ」


「あぁ、はい」


 摩美は十枚ほどの一万円札を西野に差し出した。


「え!? なにその大金! いらないよ! 勝手に買ってきたものだからいいって」


「ん、そろそろ出てくからさ」


 紅い口紅を引いた摩美は表情を変えることなく言う。


「え……」


「そろそろ飽きたし」


 逆に西野は青ざめるかのように動揺の表情。


「でも……あ、あの玲央に会ったよ。咲楽紫千玲央に……」


 ピクリと摩美は反応する。

 話を聞いてくれたことに、西野はホッとした。


「……何か話したの?」


「修学旅行の事とか、学校前のワゴンバスの話したら……動揺してた……ように感じた」


「だから言ったでしょ」


「本当に、玲央が悪い団体に所属してるなんて……」


「私が嘘言ってるって?」


「いや……そんなこと……」


「あいつは、私の可愛いペットを殺したんだよ」


「え!? まさか!!」


「本当だよ」


「玲央が生き物を殺すなんて……そんなこと」


 まさかの言葉に西野は更に動揺する。


「あいつは最低だよ」


「昨日、玲央からメール着てたみたいなんだけど……知ってた?」


「え? ……知らなかった……」


 摩美は愕然とする。

 昨日は、西野の携帯電話を取り上げてゲームをしていた。

 何かメールも来ていたが無視してしまった。

 気付いていれば、何かメールでの策略ができたかもしれないのに自分のボケ具合に呆れてしまう。


「やっぱ出てくわ」


「ええ! 待ってよ!!」


「なんでよ」


 置いてあった制服を無造作に拾い上げ、Tシャツを脱ごうとする。

 わっ! と思い目を逸らす西野。


「ま、まだいてほしいよ」


「なんで?」


「なんでって……だって俺……」


「なに?」


「俺、君のことが好きだよ!」


「……好き?……」


 バサバサと着替えだした摩美に寄ってくる二匹の猫。


「好きって……」


「う、うん。好きだから……」


「それって私のために死ねるってこと?」


「えっ?」


「好きって、そういうものでしょう?」


「死ねるって……好きって気持ちが……?」


「好きだとか言っといて、自分でわかんないの?」


 いつの間にかブレザーまで着てしまった摩美。

 西野はまだ、摩美の名前も知らなかった。

 行ってしまったら、もう二度と会えない。

 

「待って! 死ねる、死ねるよ……!」


 気付いた時には、もう叫んでいた。

 

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