れおつば温泉二人きりの夜・後編
女湯に入っていく椿を見送る。
恋人と温泉で待ち合わせ。
高校生ですごい事をしている! と興奮してしまう。
「いて……」
少し噛みつかれてしまった。呪怨に殺されないように、麗音愛は着替え温泉につかる。
「うあ~気持ちいい」
旅館の続く夕飯スケジュールのなか、麗音愛達は早めの時間を指定していたため丁度、風呂も空いている。
一人露天風呂だ。
熱めのお湯に、硫黄の匂い。
源泉かけ流しだ。
露天風呂の傍にはさっき部屋から椿が言った川が流れていた。
ついつい、修行旅行の白狐地獄谷での地下温泉で椿と出くわした事を思い出してしまう。
「あれは……最高だったな……いや、不可抗力だったけど……」
流血しないよう、一層に気を引き締め呪怨を統制するがそこそこな妄想はしてしまった。
のぼせる前に出て、冷たいサイダーを飲みながらしばらく待っていると浴衣をまとった椿が出てきた。
「ごめんね! 待たせちゃった?」
「ううん」
湯上がり姿は何度も見た事はあるのだが、やっぱりその度にいつもと違う艶っぽさを感じてしまう。
しかも湯上がり浴衣姿だ。艶っぽさが何倍にも跳ね上がる。
湯上がり浴衣姿の女子にドキドキしない男子高校生などいない。
「浴衣、可愛いね」
「うん、可愛い浴衣だよね。嬉しい」
ここの浴衣は女性用は紫色の花模様で可愛らしい。
普段は椿が選ばない色だがよく似合ってる。
少しまだ湿った髪を二つのお団子に結っていて、うなじが見えた。
「椿が可愛い」
「ま、また~」
夏祭りでは恥ずかしくて言えなかった言葉が、今では椿が照れるほど無意識に口から出てしまう。
「麗音愛も浴衣、似合ってる」
「ありがと」
少し湯上がりの熱がひいて、お揃いの丹前を羽織る。これもまた尊い。
このまま部屋に戻って……という展開を麗音愛は考えていた。
きっと布団は敷いてある。
仕切りがあろうが、同じ部屋は部屋。
ソファで二人で話すこともできる。
部屋で二人きりならなんだっていいのだ。
仕切られることなど、何もない!
「ねぇ麗音愛! 卓球やりたい! あとゲーセンも!」
「えっ?」
なんと若者を呼び込むためなのか、温泉宿のゲームセンターにしては
立派過ぎる最新のゲーム機や卓球レンタルも充実している。
それを見つけた椿の目が輝く……!!
「麗音愛!! 真剣勝負だよ!」
「え」
「なに? もしかして、負けると思ってる~~??」
「む……なにを! 負けるか!」
親友時代の名残。
椿の勝負の掛け声に、麗音愛もつい本気で応答してしまう。
気付けば二人共、夢中になって卓球試合をしてしまい観客ができるほどだった。
それからゲームもして、自販機で買ったアイスを食べお土産を物色し……としていると椿が、うとうとし始めて部屋に戻った。
部屋にはお布団が敷いてあり、言われた通りに仕切りまでしてあった。
「わぁい~お布団ふかふか~」
今まで、仕切りをして一緒に泊まった事は椿の屋敷や修行旅行など何度かある。
なので『並んだお布団ドキドキ』にはならずに椿はうとうと状態で自然にコロリと布団に転がった。
そして、抱き寄せる間もなく歯磨き。
連れてきたもふもふくんを抱き締めてお布団に入る。
「隙がない……!?」
椿の流れるような布団までの行動。
部屋でのイチャイチャタイムがナッシング。
「まさか、そんな……!」
心の声が相変わらず漏れているが、椿には聞こえていないようだ。
しかし無理に椿に触れることはしてはいけない。
椿の気持ちが安らぐことが一番大事だ。
麗音愛も冷静になれ、と歯磨きを終えた。
おやすみ……とお互いに言い合って、電気を消す。
無駄のなかった修行旅行の時のようだ。
でも、あの時とは違う。
今想いあっていることが大事なんだ……。
いや、あっちの方もかなり大事なんだけど……。
なかなか往生際が悪い気持ちを抑え込む。
しかし電気を消して数分、仕切りから椿が顔を出した。
「麗音愛あの……」
「う、うん!?」
「ちょっとだけ……」
夜目が利く麗音愛には、椿が抱き締めてほしい時の顔をしたのを見逃さなかった。
「も、もちろん……おいでよ」
「うん」
起き上がった方がいいのかとも思ったが、布団をめくって
手を差し出すと椿はそのまま麗音愛の腕の中に抱きつくように入ってきた。
「ん……あったかい……麗音愛……」
椿の柔らかい身体に抱き締められ、心臓が跳ね上がる。
「椿……!」
ぎゅうっと抱き締める。
毎度更新中の人生最大の緊張と興奮の夜かもしれない……!!
しかし胸元の椿はホッと落ち着いたようにポツリポツリと話しだした。
「おじいさんが死ななくてよかった……」
「うん」
「ご飯も美味しかった……」
「うん」
「温泉も気持ちよくて卓球も楽しかった……」
「うん」
「麗音愛……大好き」
「うん……俺もだよ……」
「うん……」
「うん……つ、椿……」
ぎゅっと、想いを込めて強く抱き締めた。
「くぅ……くぅ……くぅくぅ……くぅくぅ……」
「え……もう寝たの……? 椿さん……」
今日一日、必死に任務をして紫の炎も使って
思い切り楽しんだ椿の勘はもう眠気に敵わず働かなかったらしい。
こんなスケベ男子の前なのに、スヤスヤと幸せそうな無防備な寝顔。
なんだかんだで今でも無垢なまま。
さすがに眠っている女の子に何かすることはできない。
何度か呪怨との攻防の末、仏のサラキン発動でひゅるるるんと収めた興奮。
「まったく……可愛いお姫様……」
幸せそうに眠る椿を見ているとなんだか麗音愛の心もほっこりした幸せが満ちてきて、麗音愛も椿をまた抱き締めて眠った。
いつもありがとうございます!!
ラブコメ回でした!
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