当主のミニパーティー白夜団の変化
「結界強化の成果はかなりあるようで、最近の被害は減少し……」
週末に会議が本部でおこなわれた。
菊華聖流加護結界の強化によっての結果報告や、
『明けの無い夜に』の曲に関しても、テレビ各局やインターネットでも害になる催眠効果があると注意喚起が始まった事などの報告があった。
実際に面白がって毎夜聴くという配信者も多数いたが、半狂乱になって飛び降りた事件があり若者の間でもタブー視され始め今後は抑止されていくという見方だ。
「前回の本部襲撃事件から紅夜会の動きは……」
闘真など幹部の目撃は報告されてはいないが、一層団員の団結を固め見回りの強化、戦力強化など全員に今後の見通しが通達された。
「ふぅ~……終わったね麗音愛」
「こういう会議を毎回して当主さん達は大変だね」
「私は聞いてるだけだから……」
「それでも、えらいよ。お疲れ様です」
「えへへ、そう言ってもらえたら疲れも吹き飛んじゃう」
「さ、次のパーティーの準備だね」
「うん!」
海里が提案した食事会は、その後に新当主の就任のミニパーティーになった。
今までは儀式や豪華なお披露目パーティーをしていたが、現在の状況と当主になった経緯もあって本部の会議室での気軽な食事会で十分という事になったのだった。
それでも団長からの電報が読まれ、有名店からの料理が秘書の佐野の指示で運ばれ
伊予奈や武十見も差し入れをしてくれたり、見慣れた団員も顔を出したりと、なかなか賑やかな立食パーティーになっている。
「え~ 海里ぴ、おもろ~最高!」
「はは、そう? 嬉しいな~」
「おい、鹿義。馴れ馴れしすぎるだろ……しかも、かいりぴって……」
今日も派手なギャルコーデの梨里を前に、海里が笑っている。
ジュースを取りに近寄った時に、つい梨里の会話に麗音愛は突っ込んでしまった。
「いいんだよ、玲央君。
僕もSNSで話題の鹿義さんと話しみたかったんだよね~
ていうか、すごいよね!
白夜にJKインフルエンサーが二人もいるなんて!」
「あたしは日常をそのままぁ紹介してるだけだし~?
必死になっても仕方ないっていうかねー?
おいぴいでしょ? このチキン」
梨里のお手製料理も並んでいる。
皆が絶賛しているが、琴音は寄り付きもしていない。
「テレビでも紹介されてたよね。見た目も綺麗だし
うん、うちの料理人より美味しいよ!」
チキンを頬張り、にっこり微笑む。
「わぁ、まじ坊っちゃん発言~~ねぇねぇ海里ぴのSNSも教えてよ」
「もちろん!」
普段から片手には携帯電話を持っている梨里はすぐに自分のSNS 画面を見せた。
それに合わせて海里も自分のプロフィールを見せる。
普通の大学生のようにラーメンの写真や顔は見せない今日のコーディネートなど、なかなか人気はあるようだ。
「ふ~ん? もうコットンとは仲良しなんだね?」
「え? あぁ琴音ちゃんね。当主仲間で、交換はもうしてたんだよね」
「今度、あたしの友達と遊ばない~? DMしてもいいっしょ?」
「え~~女子高生といいのかな~なんてね! もちろんお願いしまっす!!」
「海里、いいご身分だなぁ~女子高生とDMだってぇ?」
「月太狼だって、ちゃっかり携帯出してるじゃん」
恩心家の当主の月太狼が後ろから声をかける。
同年代の当主同士で、すっかり友達のような仲になっているようだ。
「きゃは~もう早く当主変わってほしかった~
白夜レボリューション大成功じゃん、たのしーい!」
「出逢いの場じゃないんだから……」
麗音愛の呆れ顔には誰も気付かず盛り上がっており、そっと場を離れた。
斜め横を見ると珍しく美子は武十見と話をしている。
白夜団の活動で聞きたい事があると言っていたので、龍之介も混ざっているようだ。
ジュースを紙コップに注いでいると琴音が椿の傍にいるのが目に入る。
「椿先輩~これ私が監修したキャミソールなんですけど、どうぞ~」
「あ、ありがとう……キャミソールを監修? すごい」
パッケージには『カリスマ女子高生・KOTONEが共同開発』と琴音の写真が入っていた。
「私には関係ないですけど、シンデレラバストの子も胸元綺麗に見える~って喜ばれて品薄になってるんですよぉ~うふふ」
「シンデレラバスト……?」
「あ、椿先輩がっていうわけじゃないんですよぉ、誤解しないでくださいね!
シンデレラだって素敵なわけだし……あ! 伊予奈さん戻ってきた~~!」
そう言って、入ってきた伊予奈に向かって琴音は去っていく。
「……シンデレラバストってなんだろう?」
「胸がぺちゃんこって事だろ」
隣の佐伯ヶ原が、サラッと言う。
「ぺ……」
「まぁ……本当の事だしな」
「ううう~~っ!」
「気にするな、サラの恋人はお前なんだし」
興味もないように、佐伯ヶ原はオードブルの付け合せのケチャップスパゲティーを食べている。
ケチャップが固まったような安っぽいのが好きなんだという。
「椿、ジュース持ってきたよ。……何かあった?」
「あ! ううん、なんでも」
「加正寺に言われて、胸がぺっちゃんこで無いって気にしてるんでフォローしてやってください」
「やっ佐伯ヶ原君!」「えっ」
佐伯ヶ原もそう言うと、ふっと離れて年配の女性団員の元へ行った。
絵のお得意様なんだという話だ。
佐伯ヶ原が出向くと中年女性達が群がった。
しかし麗音愛はさっきの言葉の方が気になって椿を見た。
「そ、そんな酷い事言われたの?」
「ち、違うよ、私に言ったわけじゃなくて……もらったキャミソールの話……だもん」
ジュースを受け取ったまま、椿は下を向いてキャミソールを見せた。
「……あるから」
「えっ」
「いや、あの、いっぱい! あるし……最高だから……大丈夫!」
麗音愛精一杯のフォロー!
椿の髪が逆立つようになって、顔は真っ赤に染まっていく。
「れ……麗音愛の馬鹿っ!!」
「えっ!! だ、だって……」
「もうやだ~~っ恥ずかしいっ!!」
「つ、椿っ! 待ってよ、だって……」
椿が麗音愛から逃げると、またドアが開いて雪春が剣一と入ってきた。
二人は午前中の会議は既に報告を受けて、このパーティーから顔を出すことになっていたのだ。
「椿ちゃん、どしたの! 顔真っ赤にして~~!
チョコケーキとアイスも買ってきたから食べよ~~~!
うわっ武十見さんもいるし」
「なんだぁ剣一! 飯の追加は買ってきたのかぁ!?」
「遅くなってすみません。大丈夫ですよ、僕が買ってきました。
山木亭のステーキオードブルに、喫茶店のサンドイッチも」
「おお! さっすが雪春! お前はやっぱりいい男だ!」
「俺だってイケメンでしょーがぁ!! デザート買ってきたんだし」
「デザートはもちろんありがたいわよ」
「でっしょ~伊予奈さん!」
「でもセクハラはダメよ!」
剣一に抱きしめられそうになった椿を守るように伊予奈が代わりに椿を抱きしめた。
久しぶりの伊予奈の温もりに、椿は微笑む。
中央のテーブルに料理を置いた雪春と剣一に皆が駆け寄って、また賑やかになった。
若い当主達も皆が雪春に話しかけ、雪春が皆を見つめる横顔は優しい。
「雪春さんって、本当にみんなのお兄さんって感じですよね」
「そうね」
「長男でもうちの兄貴とは大違いだ」
隣にいた麗音愛が茶化すように笑う。
「あぁ……でも彼も弟よ。お兄さんいたんだけどね……」
「えっ?」
「あっえっと……だから玲央君も雪春さんと気が合うかなって思っただけ。忘れて」
あははと誤魔化すように笑うと、椿の肩をポンポンと優しく叩いて麗音愛に向き直す。
「あなた達、やっとお付き合い始めたんですってね!」
「はっはい!」
白夜団関係者には、椿との交際は秘密にしていた。
「梨里と玲央君が付き合ってるとか~信じられなかったのよね」
「ぐ……あれは、ちょっと」
「うふふ、いつまでじれじれしてるのかと思ってた! 本当におめでとう」
「「あっありがとうございます」」
「はい、彼女お返ししま~す。喧嘩してバディ解散なんて、ならないでね」
「なりませんよ」
椿の手を握った麗音愛が微笑む。
「そうよね。あなた達が離れる事なんてないって私も思う。
結婚式には是非二人を招待させてね」
「嬉しいです」「楽しみにしています」
伊予奈も微笑んで、また皆が集まる方へ去って行った。
結婚式前の輝くような美しさの伊予奈を憧れるかのように見て黙ったままの椿。
麗音愛の視線に気付いて、照れて笑う。
「なんだか、白夜団の雰囲気も柔らかく素敵になってきたね」
「うん。状況は過酷でも、皆と一緒に頑張っていける気がする」
椿を守るために、という理由で白夜団に所属した麗音愛だったが
自分のなかで大切な存在に変化してきているのを感じた。
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カラレスではありませんが、他作品が商業での電子書籍化が決まりました。
その作業でまた遅れる事があるかもしれませんが、カラレスの更新は最終回まで
必ず続けていきますので、どうぞよろしくお願い致します。
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