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直美語る~青春一転、親友からの驚愕の言葉~


 桜舞う、春。

 

 「はじめまして、木村直美です。皆様よろしくお願い致します」


 都会での寮生活も直美にとっては楽しい日々だった。

 篝とクラスは離れたが

 沢山の級友が優しく接してくれて

 自分のコミュニケーション能力が意外にも高い事を知ったり

 村での当たり前にしていた生活が

 実は16歳にしては身の回り家事全般出来過ぎている事を知った。


 あれから、近藤にも柴崎にも会う事はなかったが

 あの村での生活もたまに懐かしく思い出す事もできるようになった――。


 バルーンの舞う遊園地。

 初夏に似合うギンガムチェックのワンピースを着る二人。


「雄剣さん観覧車に乗りたいわ!!」


「観覧車ねぇ、はいはい。……菊華の要になる電波塔の工事見えるかな」


 たまの休みには雄剣が二人を色々な場所に連れて行ってくれた。

 その頃開いたばかりの遊園地は、直美にとって夢の楽園のように見える。

 初めてのポップコーンが美味しくて、長蛇の列を並ぶのも苦ではない。

 

「あ、私トイレに行きたくなってきた……観覧車、先に二人で乗っていて!」


 順番がくる直前に、そう言って雄剣にポップコーンを押し付ける篝。


「ちょっと篝……!」


「先にって……追いかけられるわけもないのにね。全く……」


「あはは……そうですよね、もう」


「じゃ、僕達だけで乗ろうか」


「は、はい」


 相変わらず篝は雄剣を慣れ親しんだ兄のように慕い、あれこれ言う事を聞かせていたが

 恋人ではない事がわかった。


 何故かそれをホッとした自分に直美は気付く。

 でもそれが果たしてどちらへの想いからの安心なのかは、わからなかった。


 それなのに篝は直美が雄剣を好きだと決めつけたのか、

 たまにあからさまに二人っきりにさせようとする。

 だがそこは雄剣が気にする様子もなく自然に会話をしてくれるので、その時間は楽しかった。


 幸せな青春。

 この世で一番かっこいい親友に、憧れの年上男性。

 進学の特待生にもなれた。

 幸せな人生。


 それがずっとずっと続くと思っていた――篝が、あの話をするまでは。


 ◇◇◇ 


「あ~~暑い……都会の夏がこんなに暑いなんて」


 夏の眩しい新緑に光が差す。

 二人の少女は、寮の大きな木の下。

 アイスを食べて日陰で涼んでいたが、ふいに篝が立ち上がり直美を見つめた。


「ねぇ、直美……

 あなたには白夜団の団長になってほしいの」


 先程まで夏休みの話をしていたのに、突然の理解できない言葉。

 白夜団に『木村直美』は所属はしていないが、篝や雄剣の話を聞いて

 いつも身近な存在ではある。

 離れる事はできない、運命だと思ってはいた。


「何を突然言い出すの

 私がなれるわけないでしょう」


 直美が笑うのも当然だ。

 凡人の能力しかない娘が団長になれるわけがない。

 所属をして、調査班にでも入れればいい方だろうか。


「家政科を勧めたのは私なのに、ごめんね。

 でもお願い、団長になって見守ってほしい」


「そんなの……だってなれるわけないって、わかるじゃない」


「なれる方法がありまーす」


 今度は篝が笑った。

 最近、ますます美しさに磨きがかかって女神のように輝く微笑み。

 見惚れない者などこの世にいないと、思ってしまう。


「はいはい、どんな方法かしら」


「雄剣さんと結婚して、咲楽紫千家に入ればいいのよ」


 うふふっと、笑う。


「はぁ!?」


「咲楽紫千家は元々七当主だし、雄剣さんは絶対、直美が好きだし!」


「はぁ~……また突拍子もない事を……」


 そうは言いながらも、突然出てきた話に動揺はする。

 それも説明が難しい。

 本心を当てられたからか……大好きな人に別の男との結婚を勧められたからなのか――。

 わからない、わからないほど大切な二人。


 そんな想いを知っているのか、篝は話し続ける。

  

「お願いよ、直美

 あなたには団長になってほしいの」


 急に真剣な顔になり、一層美しさが際立つ。

 長い艷やかな髪が揺れる。


「篝……一体どうしたって言うの?」


「使命があるの、私。選ばれちゃった」


「……篝……?……しめい……?」


白夜威流神(びゃくやたけるのかみ)様が私に言ってきたの」


「白夜神様が……?? え?

 はぁ……なんて……言ってきたの」


 ただの夢の話かと、直美は笑った。


「私が紅夜の子供を産むだろうって」


「えっ!?」


「その子を、あなたにも見守ってもらいたいのよ、直美――」


 夏の熱気とは真逆に、静かな声で篝は囁く。

 うるさい蝉の声が聞こえなくなるほど、その静かな声は直美の耳に響いた。


 

 

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― 新着の感想 ―
[一言] 未来に繋がる大事な話だ。 都会に出てきて楽しいだけの生活にはならないですよね。 ゴールをなんとなく知っているだけに、これまた読んでいて楽しいです^^
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