表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

304/472

直美語る~破天荒な女の子、交差する過去未来~

 

 雄剣の入院している病室、ゆっくりと話す直美の話に椿は驚きを隠せない。


「か、母様が……」


 閉鎖された門を突破しての直美救出劇に、椿は呆気にとられる。

 イメージしていた母とは全く違う。


「ふふ……すごいでしょ」


「破天荒な女の子だったんだよ……篝ちゃんは

 もちろん、そんな素の面は隠していたから普段は完璧な令嬢だったけどね」


 麗音愛も、あの壁の肖像を思い出す。

 あの姿からは、知的で上品で美しいとしか思えなかった。


「でも、まぁ椿のお母さんだしな……椿も破天荒なところあるし」


「えっええ!? そうかな……」


「うん、誰かの為にいつでも無茶する」


 麗音愛の言葉を聞いて直美も微笑む。


「そうね……篝に似ているわ。

 椿ちゃんの人を想う優しい性格は」


 直美にも言われ、椿が照れたように笑う。


「しかし父さんがロリコンだったとは……

 俺だって14歳には手は出さないぞ」


 剣一が、引いた目で雄剣を見た。

 当時直美と篝は14歳、雄剣は大学生で20歳。


「剣一! おまえは……!! 

 そんな時には微塵も思ってなかったに決まってるだろう!」


 珍しい雄剣の慌てる姿に、剣一は横を向いて静かに吹き出した。


「もう、剣一ったら! お付き合いしたのは18歳になって高校を卒業してからよ!」


「篝ちゃんのおかげだ」


 雄剣の言葉に、直美は驚く顔をする。


「あなた! あの時も言っていたけど、そんな事をずっと思っていたの?

 確かに、篝にはあなたとの事で助言はもらったし

 私にとって篝は永遠のヒーローだけど……」


「僕は二番でもいいんだよ」


「違うわ、私は自分の意志であなたと結婚するって決めたんだもの……そんな事言わないで

 ……一番に大切な人よ!」


「直美ちゃん」

 

「本当よ……ずっと誤解をさせていたなら、ごめんなさい……」


「いや……変な事を言ってすまなかった」


「雄剣さん」


 元々握り合っていた手を二人は、また強く握る。


「おい、イチャイチャしだしたぞ」


「兄さん、見守ってやれよ……」


 兄弟と椿の視線を感じ、二人はパッと手を離す。

 若干頬が赤い。


「えっと……ゴホン。

 それで私は篝と雄剣さんによって研究所から出ることができたの。

 その後にも、蛇願家での不審死が白夜団内部での犯行だったんじゃないか……なんて話も出てきてね……」


「ひどいです……」


 秘密裏に人々を守る存在の白夜団には公的資金が流れ

 その資金で作った会社の規模や資産が膨れ上がると

 そもそもの役割を忘れ、前当主の老人達のような金の亡者が生まれてしまった。


「でも結局、研究を支援していた絡繰門家に握りつぶされてしまってデータは全て抹消。

 私も新たに『木村直美』として生きる事になったの」


「白夜団内部の犯行……って

 どうしてそこまでされなきゃいけなかったの? 蛇願家は」


「蛇願家は、白夜団内部のご意見番というか

 処罰執行人のような役割だったそうなの」


「処罰……」


「白夜団の血筋には、やはりそれなりの力が備わっている。

 自分の家の明橙夜明集を操る力、同化する才能、結界能力……

 それを破壊する能力があったんですって。

 団内で力を悪い事に使う人間がいたら無力にする能力よ」


「! 母さんにも、それが?」


「いいえ……祟りの影響か才能なのか

 どうやら、それについての研究も平行してやっていたようなの、怖かったんでしょうね。

 でも私には結界も満足に作れない……白夜団で一番無力な人間よ」


 直美は悲しげに微笑んだ。


「ここから、あなた達にとって関係する話になるわ……」


 ◇◇◇


 解放された直美は数ヶ月、篝の屋敷で暮らした。

 そこでの生活は見るもの全てが輝き、椿と同じように新しい生活に興奮し胸が躍るようだった。

 篝の母のほむらも威厳がありながらも優しい。


 焔は、麗音愛の祖父の剣五郎の妻の桜子さくらこと仲が良く

 若い頃に起きた紅夜大惨事で夫、篝の父を亡くしたという。

 その時に剣五郎は紅夜に一矢報い、紅夜に名を聞かれたという話を直美も聞いた。


 今回の蛇願の娘が密かに生き残り、どこかに監禁されているらしいというのは桜子が持ってきた話で

 二人の茶会での会話を篝が盗み聞きした事が始まりだったという。


 その茶会をしていた桃純家屋敷の庭で篝と直美は紅茶を飲んでいる。

 爽やかな風が吹くイングリッシュガーデン。

 春の薔薇が綺麗に咲き誇っていた。


「え? 都会に?」


「えぇ、ここの田舎で過ごすのはもったいないわ。

 雄剣さんのいる、都会に出て学校に行っていっぱい色んな経験をした方がいいと思う」


「私が……此処にいるのは迷惑……?」


「どうしてそうなるのよ~

 直美には色々と経験してほしいの。

 14年分、それ以上……この町も好きだけどやっぱり足りないもの」


 直美は突然の話に困惑しかない。


「で、でも……不安よ。どこに住めば……」


「寮のある高校よ!!」


「寮……でも、怖いわ……誰も知らない場所に……」


「ふふふ、私が一緒でも??」


「え!!」


「私も一緒よ、でもちょっとだけ違うの……わっ!!」


 イタズラな笑みを浮かべた篝に直美が抱きついた。


「嬉しい!!」


 篝も微笑みながら、直美を抱き締める。

 アンティークなワンピースを着た二人は絵画のようだった。


「でもね、なんでも私と一緒だと、せっかく抹消した過去を掘り返されてしまうかもしれないから

 違う学科にしましょう」


「学科……?」


「将来、なりたいものは何?」


「え~……そんなの、まだわからないわ……え~……とでも……お……」


「お?」


「お母さん……とか」


「お母さん」


 誰か好きな人と言われれば、直美は今目の前にいる篝の名前しか言えない。

 女の子同士だと言うこともわかっている。

 それでも直美は篝の信者と言われても平気なほど、彼女の魅力の虜だった。


 それに矛盾した考えかもしれないが、独りぼっちだった直美にとって

『家族がほしい』『お母さんになりたい』という願望も当然にある。


「う……バカみたいな夢かも?」


「ううん……ううん、あなたらしいわ直美!!

 すごく素敵な夢よ!! じゃあ家政科なんてどうかしらね

 一緒にパンフレットを見ましょう!!」


 二人の微笑む少女を、代々仕えている秋穂名家の中年メイドも

 嬉しそうに紅茶を注ぐ。

 そのメイドの子供の少年が陰気な目で二人を見ながら庭の手伝いをしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] この頃は雄剣より篝のほうが好きだったのね〜 孤独な監禁生活を手紙で支えてくれた人だもん 助けに来たのも篝だからね これが永遠に続かないというのがなぁ…(;ω;) 秋穂名の名前出てきた! …
[一言] メイドの子供の少年!! イチャイチャ回だったのに、突然ラストで不穏な空気が。 次回楽しみにしてます^^どうなるんだろう・・
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ