表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

297/472

椿と雪春夕食会~素敵な音楽を添えて~

 

「あ、美味しそう」


 麗音愛から琴音と入ったコーヒーショップで頼んだコーヒーとサンドイッチの写真がメールで送られてきた。

 麗音愛とは電話でも話し、メールも何度もして不安はない。

 返信をして今日の服装をチェックする。大きめのセーターにショートパンツに黒タイツ。

 ジーンズではラフ過ぎる……と思い、スカートは麗音愛の前だけで着たい、という考えでのチョイスだった。

 そんな椿を雪春が車で迎えに来る。

 当たり障りない話をしながらしばらく車を走らせた。


「此処のお店好きなんだ」


「なんだか……明るい感じですね」


 まだ寒い春前だが、その店は南国ムードで店員もアロハシャツを着ている。

 上品なドレスコードではないだけ椿はホッとしたが、雪春の雰囲気とはかけ離れた陽気なムードに少し驚く。


「楽しくていいでしょう」


「は、はい……」


 前方のステージに、楽器を持った演奏者達が現れ

 衣装を着た女性の音頭によって手拍子で歌と踊りが始まる。

 客も嬉しそうに、歌い、手で一緒に踊ったり店内は楽しさで溢れる。


 椿はそれをキラキラした瞳で見つめた。夏祭りを思い出す。

 椿が遠慮する事を知っている雪春はその間に四人前の注文を終わらせた。


 一曲終わり、椿がハッとなる。

 デザインカットされたフルーツや傘が飾られたノンアルコールカクテルが運ばれてきて椿の前に置かれた。


「わ、私ご迷惑おかけして……それなのにこんなに素敵な夕食……」


 雪春は烏龍茶を飲む。


「迷惑なんて、大丈夫ですよ。

 無事に帰ってきてくれただけ、良かった」


「はい……すみませんでした……ありがとうございます」


 二人の雰囲気に似合わぬ、楽しげな音楽が間に挟まる。

 踊りだす客も現れた。


「さぁ、そんな暗い顔しないで。

 楽しんで、ご飯を食べよう。今度は玲央君も一緒にね」


「はい……あの麗音愛とギクシャクした時も

 私、自分の事ばっかり考えていて、すごく自分勝手だったなって思って……」


 少し驚いたような顔をして、雪春はまた微笑む。


「そんな事を考えていたの?

 あのタイミングで、あんな話をした僕の方がズルい大人だったのだから

 気にすることはないよ」


「は、はい」


「玲央君と幸せそうで良かったよ……団長も雰囲気が変わったよね」


「そうなんですか?」


「うん、雄剣さんの事は本当に大変な事になってしまったけど

 何か、吹っ切れたような……君達の交際を認めたのかな?」


「は、はい……認めて頂けました。

 麗音愛もそれで板挟みになって悩んでいたようで、私を嫌いになったわけじゃなかったんです」


「何か、反対するような雰囲気だったからね……

 理由はなんだったのかな?」


 ふと、兄妹という突きつけられた真実が頭をよぎる。

 優しい雪春ならば、理解してくれるかもしれない。

 一瞬そう思ったが、一般的にはあってはならぬ事。

 誰にも話してはいけない……そう椿は思った。


「家柄……とか、そういうものです

 ……でも私の事を思っての事で、それで私も別れたくない事を伝えて

 認めてもらえたんです」


「そう……認めてもらえて良かったね。

 家柄か……団長も、蛇願(へびねがい)家の出身のようだし色々と血脈の事は気にかけていたのかもしれないね」


 サラダや豚の角煮などが先に運ばれてきて、雪春は皿や箸を椿に渡す。良い香りが胃袋を刺激したが、それよりも雪春の言った家の名が気になった。


「蛇願家……って……」


「聞いたかな?」


「団長からは聞いていません……でも悲劇の一族、と聞いたことがあります」


「そうだね」


 秋穂名家の老婆から『桃純もあの蛇願のように穢れた』

『悲劇の蛇願一族よりも悲惨な運命になった』など言われた事を思い出す。


「紅夜の祟りによって滅ぼされた一族……

 最後の生き残りと言われた赤ん坊が記録に残っていたが

 まさか直美さんだとは……」


「おばさまが……」


 雄剣に嫁ぐ前は、一般家庭なのかとばかり思っていた。


「本当に祟りなのかと疑わしい面もあるけどね」


「えっ」


「椿さんのように、白夜団の穢れによってかもしれないと

 思った事もある……蛇願は七当主のご意見番的な家だったから」


「そうだったんですか……」


 強欲な老人達の姿をふと思い出す。


「あ、せっかくの料理が冷めてしまうね。

 食べよう。ここの豚の角煮が絶品なんだ。他の料理もきたね」


 豆腐や、苦味のある野菜との炒めものが色々と運ばれてくる。

 良い出汁の香りのする麺もある。

 二人分にしてはかなり多いが、椿なら喜ぶ量だ。

 雪春は、慣れたように取り分け椿に渡した。


「しかし……篝さんと直美さんは知り合いだったようだけど……」


「母様とおばさま、とても仲良しのお友達だったようなんです」


「え?」


 にこやかに言った椿の顔とは反対に、真剣な顔をした雪春。


「あっ……私勝手に……ごめんなさい。

 もしかしたら、言ってはいけなかったかもしれません。

 私も最近知って……」


「もちろん、団長には言いませんよ

 そうですか……お母さんの話を色々聞けるといいですね」


「はい」


「素敵な想い出話が聞けたら、僕にも教えてください」


「はい……」


 そういえば、雪春は篝が亡くなった時の事を知りたがっていた。

 椿の推測だが、あの日篝は麗音愛を守るために命を絶った……。

 それを伝えるべきなのか、しかしそれは兄妹という事を話す事になる。


 やはり言えない。そう椿は思う。


「雪春さんも……母様と仲がよかったんですか??」


「え?」


「あっいつも気にかけてくださるから……」


 ふいに、雪春の表情が変わった気がして椿は少し焦ってしまう。

 余計な事を聞いた気がした。

 間違えた話ばかりしているのだろうか、と不安にる。


「……いえ……白夜団の幹部として、調査をしたい、そう思っているだけですよ」


 そう言って微笑む顔は、いつもの雪春だった。


「さぁ、次の音楽の踊りも楽しみましょう」

 

 テーブルのメニュー表と共に置いてある歌と踊りの紙を渡され、椿は驚く。


「えっ!?」


「ふふ、テーブルに回ってきますよ。一緒に踊ってみましょう」


 また、賑やかな音楽が始まって今までの話はかき消されていった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 全員に全てを話せるわけじゃないんだよね しかし雪春さんはやはり怪しいな 昔のことを調べるために椿ちゃんを利用してる感じ 好きなのは嘘じゃないかもだけど優先順位が違う [一言] 闘真、怒ら…
[一言] 取り分けてくれる男子いいですね(*´▽`*) 次はダンスをするのでしょうか。楽しみにしてます。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ