琴音の研究鍛錬~麗音愛を添えて~
白夜団の研究所が管理する体育館。
そこには、雪春に呼ばれた休日の夕方に呼ばれた麗音愛。
そして琴音がいた。
二人とも団服を着ている。
「わざわざすまないね、玲央君」
「いえ、先日はご迷惑をおかけしてすみませんでした。
父の怪我と入院での件でも色々と雪春さんには……」
「いいんだよ、君がそんな事気にしなくて」
麗音愛達が失踪し、直美が倒れた時も雪春が団長代理として働き
白夜団の人材管理や明橙夜明集の管理などをしながら団長の補佐もしてきた雄剣が不在になった今
雪春は名乗りを上げ色々な仕事を兼任してくれているという。
麗音愛と椿に対する処罰は、減給だけだった。
元々が自分の命を懸けて闘う任務であり現代では拘束力も無い。
今回の数日の逃亡を言及するよりも、白夜団にいてもらわなければ困る――のが暗黙のなかの一致した考えだった。
「先輩がいなかったから~大変でしたよぉ」
「迷惑をかけてごめん」
琴音との任務も、もちろんすっぽかしてしまった。
逃亡した事はもちろん目の前で見ている。
何をどう思われているかは、わからない。
「珈琲、ご馳走してくださいね」
「……それは、うん」
「きゃー嬉しい!」
以前と変わらない、世間一般では可愛らしいと言われるだろう笑顔を琴音は見せる。
「さ、ではデータをとらせてもらいますから」
雪春に渡されたパッチのようなものを頭や手首に着けた。
「準備できましたぁ!
玲央先輩と一緒に闘うと強くなれるの
気の所為ではないと思うんですよね」
「そうかな」
麗音愛が呪怨を纏いながら晒首千ノ刀を具現化させると
琴音はうっとりと眺め、自分も黄蝶露を具現化させ、骨研丸も抜く。
データ収集とはいえ、晒首千ノ刀は現れれば持ち主を死へ堕とそうとし
総ての生きるものへの呪いを吐き散らかす――。
今回の体育館も厳重に、対策をして護られた中で行われる。
「それでは、始めます」
訓練用の疑似妖魔に向かって、二人は構えた。
雪春の支持の元、色々な戦闘パターンを繰り返していく。
やはり、なんともいえない違和感がある。
椿とバディを組めば、力が増していく感覚がある。
それは双子としての共鳴のパワー増加だったとして
琴音とは、それが無いのは当然だ。
しかし、それだけではない不快感がある。
「先輩はやっぱり凄いです」
それに加え、好意的な瞳で微笑まれるのも影響しているのかもしれない。
椿と駆け落ちと言われるような逃走をしたのに、
任務もほったらかしにしたのに、どうしてこんなにも自分に対して好意的なのか麗音愛にはさっぱりわからなかった。
そして数時間が過ぎる。
「はぁ~疲れたぁ」
「お疲れ様二人とも」
「お疲れ様でした。ありがとうございました」
麗音愛が頭を下げる。
「やだ先輩! 御礼を言うのは私の方ですよ。
今日は私のための時間だったんですから」
「いや、少しでも力になれたなら良かったよ
これで終わりなら、俺は失礼します」
「あ、じゃあ一緒に帰りましょう
珈琲飲んで帰りたいです」
「あ……えっと」
「琴音さん、恋人のいる男性を困らせてはいけないよ」
雪春が体育館の隅に設置された机の上でパソコンを叩きながら言う。
表情は微笑んで、たしなめるような大人の笑みだ。
「君のような可愛いお嬢さんに誘われた、と知ると
どんな女性も不安になるものです」
その言葉に、ふふっと琴音が笑う。
「えーじゃあ、雪春さんも
椿先輩と珈琲飲んだらダメですよ?」
「言われてしまいましたね……でも僕は玲央君の了承済みですよ」
「えっ? じゃあ椿先輩と?」
「今日は夕飯の約束をしているんですが
もちろん恋人の玲央君に確認をとっています」
「えぇ~じゃあ私も椿先輩に聞いてみます」
「あ、いや、いいよ。俺が伝えておくから
珈琲だけなら、いいから」
「やったぁ! じゃあシャワー浴びて~準備しますので
待っててくださいね」
琴音は飛び上がると走って出て行った。
琴音が椿に言ったところで、椿は何も言えないのはわかってる。
なのでしっかり自分から不安になる事はないと伝えようと思った。
その場で荷物から携帯電話を取り出し、少し離れて電話をする。
椿は何も反対はしなかったが、不安にならないように想いを伝え合う。
揺るがない想いをしっかりと伝えた。
椿からも可愛い応えが聞けて、幸せを感じてしまった。
そして、また雪春の元へ戻る。
任務はもう終わりだ。自分もこの汗だくな身体をどうにかしたい。
「お先に失礼します」
「うん、お疲れ様……玲央君、椿さんのことですが」
言われるとは、思っていた。
「はい」
「もう、泣かせないでくださいね」
「もちろんです」
麗音愛もまっすぐ雪春を見た。
「僕は、彼女のお兄さんだからね
今日も美味しいお店なので、今度は是非玲央君も一緒に行きましょう」
また、先程と同じように雪春は微笑んだ。