表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

295/472

第二部第五章! 光、二人の微笑み笑顔・嘲笑う紅い影

 

 咲楽紫千家の朝。

 朝の寒さも和らいで、輝く朝日がリビングを照らす。


「おばさま、それでは今日学校の帰りにおじさまのお洗濯持って行きますね」


「抜けられない会議があるから助かるわ、ありがとう椿ちゃん」


「いえ、おじさまにお会いしたいですし」


 にっこり微笑む椿に、直美が用意した雄剣への荷物を渡す。

 椿が申し出て、荷物を受け取るために今日は咲楽紫千家で朝ご飯だ。


「俺も行くよ」


 麗音愛がインスタント味噌汁を二人分注ぐ。


「麗音愛は塾でしょ? 大丈夫」


「うん……じゃあ夜に家でゲームでもしようよ」


「玲央! 交際を認めたとはいっても

 妙齢の男女が部屋で二人きりなんていけませんからね」


 バタバタと支度しながらの直美に釘を刺される。


「か、母さん」


「おじいちゃんとマナのいるリビングで、ゲームなさいよ

 椿ちゃんが桃純家のお姫様である事に間違いはないんだから」


 マナが剣五郎の腕の中で『にゃう』と返事をした。


「ひっひっひ、玲央君、清く正しく美しい男女交際してくださいよぉ」


 先に味噌汁を啜っていた剣一が笑う。


「兄さんの今までのやらかしのせいだよ! 俺は別に」


「なに言ってんだよ俺ほど紳士な男はそうそういないけどなぁ」


「馬鹿な事言ってないで、剣一も育成プロジェクトの書類頼むわね。

 じゃあ、いってきます」


「あ~うっす、いってらっしゃい」


「いってらっしゃい」


「いってらっしゃいおばさま」


「いってきます椿ちゃん」


 椿の頭を優しく撫で、直美は出て行った。

 雄剣の容態がもう少し良くなった時、二人から篝の話を聞く約束をしている。

 ニコニコの椿も、座って朝ご飯を食べ始めた。


「兄さん育成プロジェクトって?」


「あぁ当主も総入れ替えになったし少数精鋭を目指そうって、更に個人の特性なんかを伸ばしていこうって計画。ペアになって研究所で稽古しつつ……だな」


「そうなんだ……もう誰がペアとか決まってるの?」


「まぁ一応」


 椿を指導する事はできないし、しかし当主と言って琴音とペアは勘弁だ。

 自信過剰では、と思ってた時期もあったがもう避けていきたい道なのだ。


「兄さん、加正寺さんは誰……?」


「加正寺令嬢は雪春さんだ。

 お前は多分、武十見さんかな」


「武十見さんか、会うの久しぶりだな」


 雪春の名を聞いて、椿は告白された事を思い出す。

 麗音愛には伝えてはいない。

 あの日、告白されたまま何も言わなくて良いと言われ

 目の前で麗音愛に連絡をして、それっきり。

 あの時は麗音愛の事で頭がいっぱいではあったが

 あまりに不誠実な対応をしてしまったのではないかと椿は思う。


「椿?」


「あ、ううん、なんでもないの」


 近いうちにしっかり話をしようと、決めて椿はご馳走さまをした。


「おっはよー玲央ぴ、姫」


「おはよう」


 今日はポニーテールにまとめた梨里はばっちりマツエク笑顔だ。

 その横にいる龍之介の顔はボコボコに腫れたままそっぽを向いてる。


「うっす」


「あぁ、おはよう」


 気まずそうだが、麗音愛に挨拶してきたので麗音愛も一言返す。

 あの後の乱闘で、佐伯ヶ原と殴り合いになり梨里も加勢したので

 結果龍之介の方が大分殴られた。


 二人が戻っても、二人が兄妹という事は周りには言っていない。

 だが二人のすれ違いの原因が直美だったと、直美が梨里と龍之介に説明し謝罪した。

 裏であれだけ二人を引き離そうとしていた直美の報告に

 龍之介は驚いたが梨里は素直に喜び二人を祝福したのだった。


 結果、麗音愛が悩んでいたのは

 母と椿の間での葛藤だった事がわかり龍之介としては勘違いで騒動を起こした、という自覚がある。


「釘差君……お顔……大丈夫?」


「いいのいいの、罰だよ。痛がってなんぼ! このバカ龍が!」


「いって!さわんなよ」


 梨里が突くと、龍之介が飛び上がったが本人も反省の意味なのか椿に治療は求めない。


「おはよう!」


 美子も合流して、手を繋いで歩く麗音愛と椿を微笑み見つめる。

 椿の左手には指輪が輝いていた。


「サラ! おはようございます」


 佐伯ヶ原の笑みが麗音愛を見て一層輝く。

 佐伯ヶ原も怪我をした事を聞いた椿はすぐに駆け付け、怪我を治癒した。

 佐伯ヶ原は椿の頭をポカリと叩いて『馬鹿野郎』と一言だけ言ったという。


「佐伯ヶ原、おはよう。

 あの、週末予定開いてる?」


「えっえっえっ……必ず開けます!」


「鹿義にも約束してて

 みんなにも心配かけたお詫びにホテルビュッフェに行くんだけど

 佐伯ヶ原も一緒に行かないか? もちろんご馳走する」


「あ、ありがたき……幸せ……」


「味方してくれて、嬉しかった」


「サラ……もちろんです」


 追いかけようとした龍之介を佐伯ヶ原が飛び蹴りで止めてくれたのもわかっていた。

 学園内では、従兄妹同士での交際が親に反対され駆け落ちした――、というようなシナリオが出来上がっており数日経って、戻った二人がそれでも交際している様子を見て外野は更に盛り上がった。


 結局は、いつものように健気な椿ちゃんという形になっているが

 指輪の効果もあって麗音愛という恋人の存在は認知されたようだった。


「麗音愛、じゃあ……また夜に……」


「今日は昼飯一緒に食べよ」


「えっ……いいの?」


 寂しげな顔が一気に笑顔になる。


「うん一緒に食べたい」


「……うん!」


 結ばれぬ運命を乗り越える事を決め、また元の生活に戻った二人。

 知る者、知らぬ者、二人の微笑みを見守り温かい平和。

 しかし、闇は蠢いていた――。


 ◇◇◇


 昼なのか夜なのかわからない紅い月の輝く城。

 玉座に座る紅夜の前に跪く闘真。

 闘真の横に立つコーディネーターが書類を読み上げる。


「ほう……命令以外で白夜団へ……」


「はい、妖魔が食い千切った腕は

 咲楽紫千雄剣のものと思われます」


 じっと、闘真は下を向いたままだ。

 雄剣の血を妖魔に啜らせても、麗音愛には辿り着けなかった。

 反応したのは、すぐに厳重警戒した施設に保護された剣五郎と

 腹立たしい強さの、剣一だけだ。

 何故と悔しさに暴れまわろうとした際に、止めた摩美に重症を負わせてしまった。


 闘真は下を向きながらギリっと歯を食いしばり、牙のような八重歯が見える。


「姫様の居場所も判明致しましたし

 命令外行動の処分は、紅夜様に」


 直後に、上空で椿が舞い上げた炎を確認し

 二人が白夜団へ戻った事がわかった。

 闘真は、椿が紅夜会へ逃げ延びようとしたのを麗音愛が監禁したのではと思っていたのでかなり落胆もしている。


「白夜に攻撃をして、なんの処分が必要ある」


「こっ紅夜様……!」


 ガバっと上を向き、嬉しさが滲むように笑顔になる闘真。


「俺の子供達よ、これからも励めよ」


「はっはい!!」


 コーディネーターは紅夜が決めた事には何も言わず一礼した。

 遠くで眼帯に包帯を巻いた摩美だけが、また浮足立った闘真を見て

 溜め息をつく。


「摩美」


「はっはい!!」


 紅夜が摩美を呼び、驚きで摩美も飛び上がる。


「お前のその怪我は、可哀想なものだ。

 しばらくゆっくり休むといい……」


「あ、ありがとうございます」


「あの箱の謎解きでも、頼むか……」


「え……?」


 それは、文箱のような綺麗な箱だった。

 摩美には見覚えがある。

 椿の屋敷で地下室にあった箱だ。


「何をどうしても、開かないようだ」


「それを、私に……?」


「頭の硬い研究者より、俺の可愛いお前達の方が

 なにか良い手を考えるかもしれない」


「は、はい……!」


 凄まじい責任の重さを感じながら、摩美は箱を受け取った。

 休める時間など一気に消え失せた感覚だ。

 しかし摩美の心など、分かる者などいない。

 闘真の嫉妬に燃える視線を感じ、摩美は溜め息を隠しながらそのまま許可を得て退席する。


 コーディネーターは、そのまま更に報告書を読み上げた。


「姫様の、紫の炎による影響がかなり大きいと思われます。

『舞意杖』はあの箱を……桃純篝の残した遺物を探すために姫様にお渡ししましたが、

 箱も開かない今、舞意杖があちらにある現状は不利かと……」


 コーディネーターの報告を聞いて、クックッと笑い紅い酒を飲み干す紅夜。


「ならば返してもらえ」


「しかし、姫様はもう同化を……」


「なにか良い知恵がある……という奴がいる」


 ただ愉快そうに、紅夜は言った。

 絶望の輪がまたゆっくり動いていく――。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ここまで読んでやっぱり剣一くんの格好良さがズバ抜けすぎている…好き…!! 紅夜会の女子全員をわからせてほしい( ˘ω˘ ) れおつばちゃんよかった〜〜〜!!! 素敵な家族だよー(´;ω;`…
[良い点] 久しぶりの紅夜。 露出も動きも少ないのが逆に不気味だったけど、ついに動き出しましたか……余裕なのが怖い。 [気になる点] 赤い酒……赤い鮭……
[一言] 新章突入おめでとうございます(/・ω・)/ 追っ掛けますよー!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ