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静かなる闘い

 

 呪怨の翼で空を飛ぶ二人。

 麗音愛に抱きつきながら、椿は激しい炎を散らす。


「紅夜会……!

 私は此処にいる!! だからもう誰も傷つけるな!!」


 紅夜会が白夜団に乗り込んだのは自分を探すためだろう

 そう思った椿が自分を見つけるようにした行動だった。


 何匹か襲ってくる妖魔を力任せに麗音愛も斬り倒す。

 相当な距離を飛ばし、剣一から聞いた病院にやっと辿り着いた。


 伊予奈の時と同じ病院。

 あの時の緊迫を思い出す。


 寒空の下、剣一が裏玄関で待っていた。


「玲央! 椿ちゃん!」


「兄さん!」

「剣一さん!」


 守られながらでも長距離の移動は椿の体力も奪っていたが、それでもすぐに雄剣の元へ走り出す。

 

「……お願い、麗音愛も一緒に」


「うん」


 麗音愛が疲労困憊なのもわかっていたが椿は心細さから頼んだ。

 麗音愛的にも二人が一緒にいた方が力が増加する。

 その事に確信を持てた今、離れたくなかった。


 集中治療室の前に、直美が立っていた。


「玲央……椿ちゃん……」


 泣き腫らした目をして、憔悴しきった直美を見て麗音愛の心は痛む。


「必ず助けます……!」


 強い椿の声。


「うっ……お、お願いします……どうか助けてください……」


 また涙が溢れ、よろける直美を剣一が支えた。

 二人を見て麗音愛は頷き、集中治療室に入っていく。

 白夜団専用で他に患者はいない。

 そこには変わり果てた、痛々しい姿の雄剣が横たわっていた。

 色々な器具が付けられ、左腕は無かった――。


「父さん……」

「おじさま……」


 紫の炎でも、欠損した部位はどうにもできないだろう。


 どうやら妖魔の毒や呪いが身体を回っているようだ。

 このままでは命が尽きる事は誰が見ても明らかだった。

 椿は滲む涙を必死に堪えて、祈るように両手を握った。

 後ろで肩を抱くように麗音愛も椿を支える。


 濃い紫色の炎が雄剣を包む。

 いつもこの治療行為が、椿の命の炎まで燃やしているのではないかと不安になる事がある。

 もしも自分にも舞意杖に干渉できる力があるなら、麗音愛は椿を通じて自分の命を使ってくれと祈る。

 炎を生み出す力は無くとも、自分を使ってくれと願った。


 不思議に感じていた、二人が共鳴する力。

 真実を知った今も嫌悪する事などできない。

 

 椿にも麗音愛の優しい力が流れ溢れてくるのが、はっきりとわかった。

 

「お願い……!」


 白夜団員である医師と看護師も見守るなか椿は炎を燃やす。

 美しい炎が舞い上がり、妖魔の穢れを消していく。

 解けて失くなってしまいそうな命の欠片を必死に紡いでいく。


 麗音愛も寄り添い続ける。

 雄剣の怪我から染み出ては牙を向く妖魔の穢れを、麗音愛が呪怨を絡ませ引き出し

 椿の炎に焼かれていく。


 痛みも走るが、集中する。


「麗音愛……」

「俺は大丈夫」


 緊張した時間、一分一秒も長く感じる

 それに耐えてどれだけの時間が経っただろうか――。


「容態安定しました……すごい……」


 雄剣の容態を確認していた医師が安堵した顔を二人に向けた。

 うっすらと雄剣が目を醒ましたのを見つめ、椿は気を失った。


 ◇◇◇


「ん……」


 椿が目を醒ました時、もちろん麗音愛は傍にいた。

 指輪の輝く左手を握ってベッドに持たれ眠っていたようだったがすぐに起きた。


「椿、大丈夫?」


「うん、麗音愛は? 痛かったよね……」


「大丈夫だよ」


 とりあえずは麗音愛を見て、離されていない事に安堵する。


「父さんの事、本当にありがとう」


「おじさまが怪我をしたの……私のせい……」

「違うよ。父さんを救ってくれてありがとう」


「……うん、麗音愛の力も感じたの。二人だから頑張れた……よかった」


 寝たまま麗音愛に両手を伸ばした椿を、抱き締める。

 二人とも、炭の香りがする。多田と一緒にいた時から大分経ったようにも思えた。

 

「おじさまとお話したの?」


 麗音愛は首を振る。


「まだ誰とも話していない。

 椿が目覚めたらと思って……」


「もう朝……?」


 カーテンから漏れる淡い光に椿が気付く。


「うん、ご飯食べる?」


「……お水でいいかな」


 これからの話し合いを考えると、椿も食欲は出ない。


「もし、何を言っても反対されたら家を出る」


「麗音愛……」


「逃げるんじゃなく、自分の意思で椿と一緒に生きていくために」


「……うん」


 二人が病室を出ると、気付いた剣一が二人の元へ来た。


「本当にありがとう椿ちゃん、玲央」


「いえ」


「父さんは……」


「もう普通の病室にいるよ。すぐそこだ。

 起きてるから会ってやってほしい」


 手を繋いだまま、麗音愛と椿は緊張し病室に入った。


いつもありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
[一言] 緊張するシーンが続きますね。 ドキドキしながら次を待ちます。
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