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二人の決意~輝く指輪~

 

『戻ろう麗音愛』

 そう言った椿を麗音愛も抱き締める。


「……まだ数日しか経っていないのに……」


 椿を連れ出して、まだ数日。

 情けなさも込み上げる。


「お話するために一緒に此処に来たんだもん。

 いっぱいお話できたよ。

 ……こうやって、いっぱい一緒にいれて嬉しかったよ」


 まるで別れのような言葉に聞こえてしまう。


「でも、戻ったら……俺は椿と一緒にいたいんだ……」


「うん、一緒にいてくれるんでしょう? それでも、ずっと……」


 此処にいる間、何度も伝えあった言葉。

 そうだ、離れなければいいだけだ。

 誰に何を言われても、絶対に手を離さない。

 愛している人だと胸を張って言える。


「うん、ずっと一緒だよ椿」


 麗音愛はそっと、椿から離れると

 旅行カバンの奥に仕舞っていた学ランの胸ポケットから何か取り出した。


「麗音愛?」


「……これ……」


「え……?」


 手のひらで淡く光る学ランのポケットに、そのまま入れていた……指輪。

 どこか道端か、川かどこかにでも捨てるつもりで捨てられなかった。

 穢されてしまったと思っても、この指輪を選んだ時の気持ちは変わらず捨てられなかった。


「これを渡すつもりだったんだ……でも、渡す前に

 他の人に触れられてしまったから……」


「……私のための……?」


 驚く椿。


「うん。必ず、新しいものを買ってプレゼントするよ

 それまでは、これをポケットに入れてでも持っていてほしいんだ」


 麗音愛の手のひらで光る指輪の内側にちらりと見えた刻印。

 二人の名前が彫られているのに椿が気付く。

 煌めくピンクの石も入っていた。

 オススメされて椿が実は好きなピンク色の石も内側に入れてあったのだ。

 渡す時に話そうと思っていた――粉々になった未来予想図だった。


「麗音愛……こんな素敵なプレゼント……考えてくれてたの」


「……うん」


 手のひらを包むように握って、涙ぐむ椿。


「……私、これがいい。新しいのはいらない」


「でも」


「この指輪がいいの。絶対これがいい」


「椿に渡す前に、開けられちゃって……さ」


 この指輪がキッカケだったのかと、それも悟る。


「でも、麗音愛が私のために選んでくれたんだもの

 これ以外、欲しくないよ」


「椿……」


 微笑む瞳に涙が滲む。


「あの……麗音愛につけてほしいな?」


「えっ……あ、うん」


 そう言われると、少し緊張しながら

 麗音愛は椿の細い綺麗な指に、そっと指輪をはめる。

 ぴったりと左手の薬指に入って、感動すら覚えた。


 シンプルな淡い銀色の指輪が椿の手でキラキラと煌めく。


「すごく……綺麗……嬉しい……えぇ、ぴったりだよ……すごいどうして」


「へへ……秘密」


 麗音愛が照れたように少し笑う。

 ふっと、美子と行った雑貨屋で好きな指輪を言い合ったり指のサイズを測った時を思い出す。


「麗音愛……ありがとう。

 あの時もっと私が麗音愛の気持ちに気付いていたら……」


「ううん、今があるからいいんだ。

 俺と一緒にいてくれて、ありがとう」


「……麗音愛」


 二人で強く抱き合い、そして荷物をまとめる。

 数日間の二人の想い出の部屋に別れを告げた。


「多田さん!」


「んぁ!?」


 報告会議中の爽子に帰り支度をし終えた二人が叫んだので、驚いてレモンサワーが少し溢れる。


「え!? ど、どしたの!?」


「すみません、今までの顧客のデータ見せてもらえませんか!?」


「ほえ!? あ、ちょっと愛レモ抜けまーす

 ど、どゆことぉ!? 個人情報保護だし……そういうのは」


「夜明けの騎士団としての活動なんです!」


「うむ、いいだろう」


 麗音愛は、センターハウスに爽子と戻り宿泊する時に書く台帳を見せてもらった。

 剣一の携帯電話の番号を発見する。


「ちょっと、電話借ります」


「ねぇねぇ、どういう意味のある活動なの?

 誰に電話すんの!? ねぇ!!」


「今度説明します」


 誰に電話をかけるのかは、開いた台帳なので爽子にはわからない。

 興奮した爽子はその場にいようとするので、そのまま剣一に電話をした。


『はい、咲楽紫千です

 オーナー? お世話様です。どしたんですか? なんかありました?』


 毎度行くキャンプ場だ、電話番号登録をしていたのだろう。

 剣一の声を聞き、動揺してしまう自分に麗音愛は気付く。


 もう、自分が弟ではない事を知っているのだろうか。

 逃げて白夜団を混乱させた事に怒りを感じていないわけはない。

 すぐ声を出せず、沈黙してしまう。


 しばらく、沈黙が続いた。


『……玲央か?……』


「……兄さん……うん……」


『玲央……お前……

 よく電話してきてくれた、ありがとう』


 何を言われるか覚悟していた麗音愛は、少し目頭が熱くなる。


『無事か?』


「うん……」


『椿ちゃんも一緒だな?』


「うん……」


『良かったよ』


「……重傷者がいるって聞いたんだ」


『! どこの情報だ

 よくわかったな、それで連絡をしてきてくれたのか?』


「うん、俺達のせいだと思って」


『お前達のせいなんかじゃないよ

 でも連絡ありがとう』


「その人、大丈夫?」


『……重症なのは父さんなんだ、危険な状態が続いてる』


 心臓に突き刺さる言葉。


「……!! 父さんが!」


「えっ」


 麗音愛の叫びに椿も動揺する。

 片腕を無くし意識不明の重体なのは紛れもなく、雄剣だった。


『……頼む、父さんを助けてくれ』


 悲痛な剣一の声。


「そんな……父さんが……」


『いつも椿ちゃんを頼ってすまない

 ……でもどうか、助けてほしい』


 病院の場所を聞きながら、血の気が引いていく。


『玲央、何も心配するな。お前達の居場所は此処なんだ』


 深い意味は聞かず行く事を告げて、電話を切った。


「麗音愛!!」


「……椿……」


 呆然としている、麗音愛の頬を椿はパチリと両手で包んだ。


「行こう! 全速力で飛ばして!!」


「……あぁ! 行こう!!」


「え? どこへどうやって、二人は車も無いのに……」


 外へ走り出した麗音愛と椿を追いかけて爽子も行く。

 センターハウスを出ると、椿が麗音愛に抱きついて二人は抱き締め合う。

 またバカップルが目の前で抱擁しだした、なんなんだと爽子は思った。


 ふと、斉藤弘が爽子を見つめ申し訳なさそうに微笑む。また美青年に見えてドキリとする。

 冷たい風が吹き荒れた。木の葉が舞う。 


「多田さん、色々とありがとうございました。

 また連絡する時がきっとあると思います。

 だから今から見ることは、もう少し秘密にしていてください」


「はっ?」


「ご馳走様でした。

 後片付けできなくて本当にごめんなさい」


 すまなそうに、椿が謝る。


「ゆかりちゃん?」


 理解できず混乱する爽子。

 麗音愛と椿の周りを黒い風が吹き、翼が生えたように二人が浮き上がっていく。


「ひぇ!? えっ!? えっぇええ!?」


「さようなら、ありがとうございました!」


「て、天使……!? 悪魔!?」


 二人は頭を下げ、麗音愛が呪怨の羽根を広げるとそのまま空に飛んで行く。


「ほわぁあああああ!!」


 爽子は驚きで後ろにひっくり返り、そのまま空を見つめ二人が小さく消えていくまで呆然と見つめていた。



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― 新着の感想 ―
[一言] この間飛び出していったお父さんですね。 どうなるんだろう。 指輪の件は、やっぱり椿は可愛いなぁと思いました^^束の間の幸せな時間ですね。
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