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愛天使レモンシャワランの報告会議


 貸し切りのキャンプ場で

 三人のバーベキューが始まった。


 幸せそうに炊きたてご飯で作ったおにぎりを頬張る椿。

 麗音愛もホッとしながら、おにぎりを頬張ると自然に笑みが出て笑い合う。

 その様子を見て満足気にビールを飲む爽子。


「ゆかりちゃんって本当に二十歳過ぎてんの?

 高校……中学生に見えるけど」


 椿は山田ゆかりと名乗っている。

 好きなフリカケの名からとったのだった。

 麗音愛は斉藤 ひろし、同じフリカケシリーズからだ。


「むぐぐ……よ、よく言われます」


「多田さん、お肉焼けましたよ」


「よぉしー!! 斉藤君もゆかりちゃんもガンガン食べてくらさいよぉ!!」


「ありがとうございます!」


 麗音愛は此処を出たら、もう椿にお腹を空かすような状況にだけはしたくないと考える。

 まだ数日だというのに、この状況。

 やはり街中に隠れた方が良いだろうか。

 しかし妖魔が追ってきているのならば、この山のような聖域といえる場所に潜伏するべきか。

 考えは尽きない。


「斉藤君は研究ってなんの研究してるんすか……?」


「えーっと……それがまぁ言い訳で、二人っきりの旅行がしたかっただけなんです。自然を見ながら……いいかなって」


 下手に語るとボロが出ると思い、麗音愛は正直に話す。


「やっぱりねぇ……バカップル! けっ!

 色ボケばっかしてないで、もっとこう世の中のためになる事をせんとあかんですよ。

 悪と闘う私のように」


 その組織の実力No.1と2を前に爽子は説教をし始めた。

 麗音愛は苦笑いする。

 肉に誘われてしまったが、やはり酒癖は悪い。


「多田さんは、そのグループのリーダーなんですか?」


「いやぁ、そういう上下関係はないっすね

 でもまぁ……立ち上げたのも私ですのでね、実質リーダーっすかね」


 結局はリーダーのようだ。


「なにかグループの名前はあるんですか?」


「あ~……そうそう……あのクソ不気味な歌が

『明けの無い夜に』っていう題名だったんでぇ

 それに対抗して『夜明けの騎士団』とかいいかなって……うん……イカす……」


「中学生が考えるような名前ですね」


「うっせっし!!」


 そうこう話をしていると、爽子の携帯電話が鳴った。


「お、そろそろ報告会議の時間」


「私達もいていいんですか? ……このジンギスカンすごく美味しいっっ」


 遠慮するなと言われて、大量に焼かれたお肉を綺麗に食べていく椿。


「もちろん、もちろん。

 一応秘密裏には動いてるけど、同志は沢山いた方がいいんす。

 あっと驚く真実を聞いてってくださいよね~」


 いつの間にか同志にされてしまっている。

 大事な報告会議前だというのに、飲み尽くされた何本もビールの缶がゴミ袋に放り込まれた。


「あ、私の名前は会議中には出さないでほしいっす

 ハンネは祝福の愛天使レモンシャワランっす」


「ハンネ……?」


「ネット上の偽名だよ」


「そっかぁ! 祝福の愛天使レモンシャワランさん可愛い!」


「……可愛いんだろうか?」


 いつの間にかビールからレモンサワーに持ち替えている。

 騒音もないので、爽子は外にいるまま

 携帯電話で会話をするようだ。カメラはオフにされている。


「はーい、どうもどうもでーす。愛レモで~す

 今日は外でバーベキューしてまっす。さすがに寒い」


 焚き火もしているが、まだ春は遠い。

 麗音愛と椿もブランケットにホットコーヒーとココアを手にしている。


『羨ましいなぁレモさん』


 ワイワイと最初はただの雑談が続く。


「はい、それでは~情報収集結果報告してくらさいよぉ」


 話すたびに酒を飲み、話すたびに……なので

 またヘロヘロになってくる爽子。

 椿はまたお味噌汁を作っておこうと見ながら考える。


『それでは……今日はかなり大きな情報があるんです』


「おお、期待大っす! 情報を制する者が世界を制する

 脳みそのないような化け物に負けないっす」


『実は、最近ある施設で爆発事故があったんですよ』


「爆発……」


 麗音愛と椿も反応する。

 場所が、白夜団の施設がある場所だった。

 医療施設もあり、検査で行った事もある。

 厳重な警備もされているので幹部御用達と聞いていた。

 そこが爆発とは相当な事態だ。


「ニュースには?」


『なっていませんね、近隣住民の書き込みを見つけて

 聞き込みに行ってきたんですよ』


「さっすが! やるじゃん」


『へへへ……元々かなり広い敷地で、住居からは離れていたから

 何が起きたかわからない……でも重傷者が出たようだって』


「重傷者……」


 嫌な汗が流れる。

 警備が厳重だと言われていた施設で重傷者が出るとは。


「ふーん……工場内での事故かねぇ……なんだろうな……まさか妖魔??」


『ここからがスクープですよ』


「ほうほう、何がわかった?」


『重傷者が運ばれた病院をね……色々と調べて

 そしたら、そこの病院に我がメンバーがいたんですよ!』


 個人情報保護など何も考えていないのだろう。

 しかし、その事とは別に麗音愛の心はざわめく。

 白夜団の施設で爆発、重傷者。

 浮かぶ、家族や知人達の顔。


「運ばれた怪我人の身元がわかったとか?」


『逆なんですよ、完全に身元がわからないように

 情報が隠蔽されて、すぐに別の病院に移されたらしいんです』


「不自然だねぇ……」


 スクープとは言い難いというような顔で、爽子が顎を撫でる。


「その人の怪我は酷かったんですか? 男? 女?

 どんな容態だったんですか!」


 つい麗音愛が口を出してしまった。

 相手の男は少し驚くが話を続けた。


『男性みたい。それが片腕無くなってて、意識不明の重体。

 どう考えても、その状況で動かすなんて変でしょう

 今はどうなっているのかわかんないけどね……えっと君は新メンバーかな?』


「……そんな……」


「麗音愛……」


 椿も青ざめた顔で、麗音愛の腕を掴んだ。


「れおんぬ?

 そこの爆発施設、もう少し詳しく~あれ? トイレ……?」


 麗音愛がフラフラと歩いて行くのを椿も一緒になって追いかける。

 二人が去って行くのを見て爽子は少し慌てたが

 他の報告も始まり、また会話をしだす。


 麗音愛は自分達のコテージに戻るが、その場に立ち尽くしてしまった。

 暗い部屋のなか、呆然としている。


「麗音愛……」


「……絶対に白夜団の人だ……」


「うん……私もそうだと思う」


 男性、それだけしかわからない。

 でも嫌な予感がする。


 『サラ……』つまり『咲楽紫千麗音愛』を探して妖魔が暴走した。


 被害者は……もしかすると……嫌でもその考えに行き着く。

 家族ではなくとも、原因は自分かもしれない。


 椿には、椿のせいではないと言ったが麗音愛は今、自分の責任に押しつぶされそうになっていた。


 悲痛な表情の麗音愛を椿は抱き締める。

 椿も同じ気持ちだ。


「戻ろう、麗音愛

 その人を助けに行かなきゃ」



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― 新着の感想 ―
[良い点] ああ〜戻ってしまうんか… 何もかも捨てて逃げても良かったのに ふたりには見て見ぬふりは出来なかったか あと雄剣さんもどうなったか 両親には両親の物語があったのよね 主人公と華やかな長男…
[一言] 戻るのですね! 2人の覚悟が見えた気がします。がんばれ。
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