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剣一無双~両親に近づく危険

 

 山道を車で飛ばす剣一。

 白夜団の団服を着て、助手席には綺羅紫乃。

 普段聴いている軽快なポップスも今はなく、無音だ。


「玲央……どこにいる……」


 急な弟と椿の失踪。

 帰らない二人を心配し、母の直美は倒れてしまった。


 この事は団内では機密事項とされ、同じ学校に通う高校生組にも

 強く口止めがされた。

 七当主内でも、雪春にしか伝えていない。

 それは、二人が逃げた理由として交際が発覚することを直美が恐れたからだった。


 両親からは、家柄問題で交際を反対して麗音愛が反抗したと聞かされた。


 祖父の剣五郎も、かなり動揺して体調を崩しそうになったが

 仔猫のマナが寄り添っているおかげでなんとか保っている。


 直美には夫の雄剣が付き添っており、今は団長代理として雪春が指揮をとっている状況だ。


 警察にも捜索協力を求めてはいるが

 やはり麗音愛の認識されない呪いのため足取りが掴めない。

 なので剣一も、任務外ではあてもなく車を走らせ二人を探していた。


 このままでは椿が紅夜の元へ行ったと言う者も出てくるかもしれない。

 だが弟の足取りなど剣一にもわからなかった。

 もう自分の後ろを着いてくる小さな幼子ではないのだ。


 暗い夜道……走るのは剣一の車だけだったが

 何か道路の真ん中に立っている姿に気付き減速する。


「……紅夜会か……」


 そのまま跳ね飛ばす事も考えたが、紅夜会出現の警報を白夜団に送って剣一は車を斜めに滑らせ停車した。


 バイクを降り、仁王立ちしている闘真。

 背後には植物の形態をした妖魔が群がっていた。


 綺羅紫乃を帯刀し、車から降りる。

 運転席は開けたまま、ゆっくりと歩いた。

 冷たい風が剣一の頬を撫でる。

 海がすぐなので、微かに潮の匂いがする。


 ふーっと深呼吸した。


「……紅夜会の幹部が、俺に用事かい?」


 険しい顔をした闘真は、剣一を睨む。


「姫様はどこに行った!!」


「俺も探してる」


「お前達が、姫様を隠したんだろう」


「多分、姫様は自分の御意志でお散歩中だ」


「嘘をつけ!!

 あいつが! 姫様を連れ出したんだ!!」


「姫様が嫌々、一緒にいるわけないって

 さすがぁにわかるでしょ?

 いや、真実は俺にもわかんないけどさ」


「今頃、泣いているかもしれない……」


「……ん~それで、苛ついて一般人襲ってるのか?

 俺になんの用だい」


 闘真は無言だ。

 話をしながら、剣一も状況を把握している。

 車を停めた場所や距離にも意味があった。


「俺を拷問したとしても、姫さんの居場所はわからないよ。

 こうやって俺も探しているって見たらわかるだろう」


「……血をもらう」


「は?」


「あいつと同じ、お前のその汚い咲楽紫千家の血を

 妖魔達にすすらせて――探させる」


「えげつないねぇ」


「さぁ、汚らわしいその身を妖魔に捧げろ」


「まさか、紅夜会にまで身を求められるとは……モテる男は辛いな」


 闘真の号令とともに、剣一も呪符の束を夜の空に向かって放った。


 ◇◇◇


 真っ暗な闇に、光がふわふわと漂っている。

 顔は少しぼやけているが小さな生まれたばかりの赤ん坊。

 幼い剣一の小さな腕の中でも、すやすやと眠っている。

 微笑んでしまう可愛らしい温もり。


 それを離れた場所から直美は見つめていた。


「玲央……」


 気付けば幼稚園のスモックを着た子供と手を繋いでる。

 ぼやけていても、嬉しそうに笑っているのがわかる。

 小さな柔らかい温かい手。


「お母さん、だぁいすき」


「玲央」


 小学生、中学生、そして高校生になった麗音愛が

 直美の周りをくるくると回る。

 麗音愛の名を変えたいと言った時に叱ってしまった日。

 忘れられてしまう事が多く、泣いた日。

 照れると、前髪をいじる癖。

 本当は違う誕生日、それでも家族でずっとお祝いをしてきた。


「玲央……」


 ふと、椿が現れた。


「椿ちゃん……」


 篝そっくりの美しく愛らしい椿。

 ニコニコと麗音愛の隣で笑っている。


「ねぇ、おば様」


 が、椿が直美をキツく睨みつけた。


「……っ……椿ちゃん……」


「よくも私を長い事、酷い目に合わせてくれましたよね」


「椿ちゃん、本当にごめんなさい」


「手紙を出しただけで、約束を守れた気になってただなんて笑っちゃう」


「……篝と約束だったから……近付いてはいけないと……」


「無能団長、また私を一人ぼっちにしたいんですか?」


「違う……違うわ……」


 麗音愛が椿を守るように、直美を睨む。


「行こう、椿。こんな人は母親なんかじゃない」


「れ……玲央……椿ちゃん……待って」


 麗音愛と椿、それが泡のように弾けた。


「玲央!! ……麗音愛!!」


「直美!」


 暗い病室でうなされ飛び起きた直美。

 頬に涙が伝い、汗が額を流れる直美を夫の雄剣が抱き締めた。


「あなた……玲央が……玲央はどこ……」


「まだ見つからない……」


「あぁ……私の……私のせいで」


「せっかく安定剤を飲んでも、君が自分を責め続けていたら

 体調もよくならない。君のせいじゃないんだ」


 直美の精神状態は悪化するばかりで、雄剣は護衛もかねて病室に泊まっていた。


「……あの子が……黙って椿ちゃんを連れて逃げるなんて

 もう……誰も信じられないんだわ……私のせいよ」


 美子や龍之介達から、学校での昼休みに麗音愛が椿を連れて出て行った事は話で聞いた。

 二人の携帯電話も見つかった。


「……きっと戻ってくる……」


「もしも紅夜会が二人を襲撃したら

 椿ちゃんは保護しても、玲央は殺されてしまうわ!」


「直美」


「篝が! 命を懸けて守った我が子を!

 私の私の……私の息子が……殺されてしまう!」


 優しく直美の背中をさする。


「大丈夫だ、玲央は強い。

 白夜団で一番強いんだ。

 椿ちゃんを守って……お互い守り合ってるはずだよ」


「私……どうすれば良かったの……」


「僕にもわからない……」


「私は本当に役立たずだわ……」


「そんな事はない、君は本当によくやっているよ

 きっと帰ってきてくれる……大丈夫だ……」


 何も確信がないままに、雄剣は言った。

 直美を抱き締めた背筋に寒気が走る。


「あなた……?」


「……何か……来るな」


 ◇◇◇


 その数十分前。


「くっそ! ふざけんな!!

 どうして、こんな雑魚に誰も噛みつけない!!」


 無数の妖魔が地に落ちて、それは既に死骸だ。

 剣一の力で浄化され、塵になって消えていく。


「それは俺が、強いからだよ」


 団服のマントを翻し、剣一が綺羅紫乃を振れば

 刀身が輝き斬り落とした妖魔の血が蒸発していく。


 合間には闘真とも刃を交えている。

 人間としては驚異的な強さだ。


 強さのある妖魔を揃えるには、それなりの準備も必要だった。

 無空間から無数に生み出すなど紅夜にしかできないのだ。

 それが全て剣一によって討たれた。


「くっそ……!

 こんなところで時間つぶしてるわけにはいかねぇ!!

 姫様が……姫様が……」


「そうそう、これ以上やっても

 俺に傷はつけられないだろう

 車には……つけられてもなぁ……」


 剣一の愛車は、無残にも戦闘時の隠れ場に使用したため

 ボロボロになってしまった。


「闘真っ!!」


 闘真の背後から声がして歩いてくる姿が見える。


「新手か……?

 あいつは……カリンだったか」


 ゴシックロリータ調のワンピースに身を包みヘッドドレスをかぶった少女。

 カリンだ。


「今日は生首は持ち歩いていないようだな……」


 そう言いながら、剣一は車のエンジンが作動するか確かめる。

 傷だらけにはなったが一応は動くようだ。

 しかしタイヤ部分に噛み付いた妖魔がいるようでパンクする可能性が高い。


「闘真、自分勝手な行動は慎みなさい」


「そんなん聞いてられるか!!」


 どうやら、今回の闘真の行動は彼の独断らしい。

 確かに冷静さに欠けていると、剣一も気付いていた。


「もういい!!

 こいつじゃなくとも、咲楽紫千家の血筋はまだいるはずだ」


「なに?」


「あいつとお前が兄弟なら、お前の親にもなるんだよな

 そいつらを血祭りにあげる、行くぞ!!!」


「あっこら~闘真のバカ!」


 唯一残った羽根のある妖魔に指揮して闘真は飛び去っていく。


「……まさか父さん達のところへ!?」


 緊急事態の警報は白夜団に届いてはいるだろうが

 病院にいる雄剣と直美に身の危険が迫っているとは思わないだろう。

 剣一が慌てて、携帯電話を取り出すがカリンがその隙に結界で剣一を取り囲もうとする。

 もちろんそのまま結界で握りつぶそうという攻撃だ。


「クッソ!」


「……ねぇ、前に姫様のお屋敷で……

 あなた私相手に手を抜いていたの?」


「……人間は進化する生き物なんだよ。

 ただそれだけさ」


 あの妖魔がどれほどの速さで、病院に着くのか

 病院の場所は把握しているのか、わからない。

 すぐに二人の元へ向かわなければ。

 

 剣一の焦りも虚しく、雄剣が気付いたように夫婦の元へ絶望が近づいていた。





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― 新着の感想 ―
[良い点] 直美ママは罪悪感でいっぱいだ! 椿ちゃんはそんなこと言わない 麗音愛も母親を嫌いになんかならない お腹を痛めてなくても赤ちゃんの時から 育ててきた可愛い我が子なんだもん でも実際行方不明…
[良い点] ヤバイヤバイ!ついに家族に魔の手が!! [一言] それにしても剣一氏はハードボイルドもイケるんですね。格好いい。
[一言] 激しい展開になりましたね。二人は出てきませんでしたが、周りがパニックになっている様子。 そんな中で仔猫のマナの描写に癒されました^^ さて、どうなるんだ。引き離されてしまうのか(涙)
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