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焚き火にて、甘い時間と災難と

 

 椿がマッチと焚付たきつけで薪に火を着ける。

 もしも椿が炎を出した事で探知される事があればとの判断だ。

 風を送ったりしながら、なんとか二人で消さないように焚き火が完成した。


 焚き火前はコテージで鍋いっぱいに作ったカレーを二人で食べて、楽しい時間が過ぎたが炎を見つめる椿の瞳は憂いを帯びている。


 二人で椅子を並べて座り一枚のブランケットをかけていたが、麗音愛は椿の胸元までかけた。


「寒くない?」


「うん、麗音愛こそ」


「俺は大丈夫、焚き火あったかい。あ、マシュマロ焼いてみようか」


 もらったマシュマロは秋シーズンの残りなのか

 あと数日で賞味期限が切れるものだった。

 まとめて買ってあった割り箸に突き刺して焼いてみる。


「あっ! もう焦げちゃう」


 大きめのマシュマロはすぐにトロリとして焦げ目がついた。

 甘い香りが漂う。


「溶けてるね。ほら、ヤケドしないように」


「はふっ! あちゅ! ……わぁ……美味しい」


 カリッとして中はとろけたマシュマロを嬉しそうに頬張る椿。

 炎に照らされた笑顔。

 麗音愛も一つ食べたが、甘すぎてすぐコーヒーを飲む。


 椿はココアにもマシュマロを入れて嬉しそうだ。


 焚き火の炎は美しいが、つい椿の炎を考えて自分も桃純とうじゅん家の血を引いていた事。

 そして紅夜の血も自分に混ざっている事。

 そんな事を思い出してしまう。


 桃純とうじゅんかがりはただ、自分の息子を守りたい一心で命を懸けてくれたのだろうか

 背負わされた十字架はもっともっと、重い物のような気がする。


 憎い化け物の王の血が、己に混ざっている重さを身を持って知っていくのだろう。

 椿を守り、これから――全てと向き合っていけるのか。


「……麗音愛……」


 険しい顔をしてしまったのか、麗音愛を見て不安そうな顔をする椿。


「ごめんごめん、ちょっとボーッとしちゃったよ」


 溶けたマシュマロが少し唇についていた椿に、ちゅっとキスをする。


「そっ外だよ」


「誰も見てないよ」


 慌てる椿が可愛くて、もう一度しようとしたがブランケットを頭から被られてしまった。


 もう深夜も近い。

 幼子のいる家族連れはもう、コテージに入ったようだ。

 遠目に老夫婦が向こうを向いて焚き火を囲んでいたが、早めに入るように言われたからか撤収作業をしている。


 今日は月が綺麗だが、なんだか紅く見える。

 二人で月を見上げていたが、ぎゅっと椿が麗音愛の手を握った。


「……あの獣害事件はやっぱり」


「妖魔の可能性が高いね……」


「どうしよう、麗音愛……」


 責任を放棄して逃げ出してきたと見なされて仕方ない事だが

 二人は離れるのが嫌なだけで、自分の中に宿る力を否定し放棄したいわけではない。


「遭遇すれば、それはもちろん闘う……だけど俺達の場所を

 把握されてしまう恐れもある。

 今も把握されているのかもしれないけど」


「うん……紅夜会の狙いはなんなんだろう。人を襲って……」


 妖魔の食糧が人間だけではない、と判断されているが

 進化を続けている妖魔が今は何を喰らっているのかわからない。


「単純に人々を恐怖に陥れる目的もある。会議では何か対策案があったの?」


「人気のない場所への立ち入り禁止の呼びかけ強化。

 菊華結界郡の見回り強化。

 あとは根本的に戦闘員の増加、増強……」


「そっか……。うん、わかった」


 つい、深く白夜団の話をしてしまったと気付いてやめた。

 麗音愛も椿の手を優しく握り返す。


 白夜団最強の晒首千ノ刀の所有者と

 団を統制する力を持つ桃純家当主の二人が失踪したのだ

 戦闘力としてどれだけの損失になっているか――。

 考えれば、また迷う。


 わかってはいるのに、考えてしまうのは二人とも同じだ。

 今は仕方ない、さっさとコテージに戻って椿とまた暖まろう、そう思った時。


「おこんばんはぁ」


 急に後ろから声をかけられる。

 気配には気付いていたので、二人でそっと振り返ると多田爽子だ。


「そろそろ~コテージに入ってくらさいね~」


「はい」


 酒臭い。

 オーナーは帰宅して、任されているのに結構な量の酒を飲んでいるようだ。


「あ、ちょっとお清めのお酒でぇ~管理はしっかりやりますのれ」


「そ、そうですか。火が消えたら……入ります」


「ですです~どうすか? 向こうで一杯飲みます?」


 センターハウスを指差す。

 まだまだ酒盛りは終わらないらしい。


「み……あ……いや……二人とも苦手なんで」


 未成年なんで、と言いそうになり慌てて言い換えた。


「そうですかぁ残念。

 さっきちょっと警察から、未成年の男女二人の捜索で電話が来たんすけど……」


「そうですか、若い男女って俺達だけかな?

 後はお子さん連れと、御夫婦でしたね。未成年の子二人は見てないですよ」


 さも、自分達は成人だというように話す。


「ど、どんな子達なんですか? 特徴とか……」 


「んー二人とも高校生らしいんすけど、制服のまま失踪したって。

 学ランとセーラー服ね。

 顔写真とかはないし、電話一本じゃなくて此処まで見に来いやぁって感じで

 知らんですって切っちゃいました」


 酔っているのもあるが、オーナーがいないからか随分と砕けた話し方になった。

 あはは、と多田が笑うが椿は心の中で安堵した。

 早く火を消そうと麗音愛が焚き火を崩していく。


「そんな焦らなくても大丈夫っすよ

 妖魔はこの山には来ないっていうのが~私の今の考えなんす」


「……どうしてですか?」


 すっかり獣害事件の犯人が妖魔だと決めつけているようだ。


「ここの半分は入山禁止地帯なんすけど、聖域って呼ばれてもいる場所なんすよ」


 確かに、椿と散策した時に強めの聖流の流れを感じた。

 兄の剣一がサークルだ、遊びだと何度か此処に来ている話を聞いていたが、もしかすると白夜団の修行や任務だった可能性が高い。


 今のところ居場所は特定されていないようだが、

 早目に此処も立ち去った方がいいか……と麗音愛は思う。


「多田さんは……一体何を研究されてるんですか?」


「うっし! よくぞ聞いてくれやしたぁ……」


 多田が、妖魔信者だとすれば一般人のふりをした紅夜会かもしれない。

 どう答えるか伺うように、聞いてみた。

 多田はダウンジャケットから、なんとビールの缶を取り出す。

 ごくごくと飲み始めたので麗音愛が慌てて椅子を譲ってしまった。


 そこにドカッと座る多田。

 呆気にとられた椿の顔を覗き込みながら多田はメガネを光らせた。


「世界を滅ぼそうとする輩に立ち向かう~

 皆を救う聖女……それがあっし多田爽子です~」


 麗音愛は問いかけた事を後悔した。


いつもありがとうございます!


激鬱恋愛激動編も終わりまして、二人ぼっち逃走編です。

皆様の感想、ブクマ、評価、レビューが励みになっております。

一言の感想でもとっても嬉しいので「いいね!」「読んでるよ」など

是非お気軽にお願い致します。


カラレスもかなり長編になってまいりまして、またネタバレあらすじを

制作しようかなとも考えております。

ここまでお付き合いしてくださっている皆様には本当に感謝しかありません。

ありがとうございます。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 新キャラ多田爽子、なんやコイツ… しかしただの狂言ではないよなあ [一言] 捜索されてるー! 白夜団以前に、高校生が行方不明なんだもんね そりゃ探されちゃうよね
[一言] 鬱編過ぎていたのですね。 けど、安心してはいられない予感。 ちょっとキスできてよかったねと思う今回のエピソードでした(*´▽`*)
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