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愛しいバレンタインデーの終わり~砕け散る心~

 

 ケーキを食べながら、キスをして

 熱くなっていく椿の身体を愛しくまた抱きしめた時、


「いて!」


「えっ? あ……ブローチ! ごめんなさい」


 椿の胸元のブローチが外れ、針が麗音愛の胸を刺したのだった。


「椿のせいじゃないよ。刺さらなかった?」


「うん、大丈夫……?」


「全然、平気」


 ブローチを外して、テーブルの上に置く。

 キラキラと輝く赤い石は椿の炎を思い出させる。

 桃純家の炎。


「桃純のご先祖様に怒られたかな、俺」


「もう……ばか……」


 ポカポカ叩こうとする椿の手を優しく握る。


「うん、ばかだよ」


「バカップル……」


「だね……」


 お腹いっぱい、幸せいっぱい。

 まだまだ触れ合いたい未練もまだある17歳男子。


 それでも幸せな甘い時間を終えて、麗音愛は椿の部屋を出た。


「じゃあ、また明日ね」


「うん。今日はありがとう。またメールする」


「うん」


 リビングにいる梨里に見られないように、また玄関で顔を寄せた。


「あ、あのキスはもうダメだよぉ」


「……ダメなの?」


「い、嫌なわけじゃないよ……だって……」


「うん、わかってる」


 ちゅっと軽く、口付ける。


「来週、またデートしよう」


「う、うん」


 幸せで熱くなった2人の頬。

 玄関から出ると一気に冷たい風が身体を冷やす。

 梨里には、外で夕飯を食べた事にしてくれと口裏合わせを頼んでいたので外のコンビニまで飛んで、帰宅した。

 今日は龍之介が遅くまで帰らないようにしてくれたようで、しばらくは梨里に頭が上がらない。


「……ただいま……」


 祖父以外はいないと思っていたが

 玄関に母のパンプス。


 母が帰ってきている?


 またデートはどこへ行ったのかなんて聞かれるんだろうかと思うと正直うんざりしてしまう。

 適当に流して部屋に行こうと麗音愛は思い、気付かないフリをして洗面所へ素早く歩いた。


「玲央」


 重い声に引き止められる。

 薄暗いダイニングテーブルに直美はいた。

 台所から漏れた光だけがリビングを照らす。


「あ……母さん、いたんだ」


「此処に座りなさい」


「いや、俺もう疲れててさ」


「此処に座りなさい」


 厳しい声に、少したじろぐ。


「何……? 明日も学校だし」


「どこに行っていたの」


「どこって……別に……今日がなんの日か知ってるでしょ」


「誰といたの?」


 やはりか、と思うが頭の中でシュミレーション済みだと息を吐くように麗音愛は答える。


「……鹿義だよ」


「鹿義さんと、鹿義梨里さんとなのよね!?」


「そうだよ」


「お付き合いしているのは、鹿義さんなんでしょう!?」


 いつも以上の様子に麗音愛は驚く。


「母さん、どうしたのさ」


「じゃあ、これは一体どういうことなの!?」


 テーブルの上の指輪ケース。

 リボンも解かれて、中が開けられた事がわかる。


「……それ……!!

 なにしてるんだよ!!」


「この名前はどういうことなの!?」


 麗音愛も頭に一気に血が昇るのがわかった。

 全身が逆立つような怒り。

 駆け寄り、指輪ケースを奪う。


「なにやってるんだよ!!

 いくらなんでも、こんな事していいわけないだろ!!」


「どうしても確かめられずにはいられなかったの!!」


「だからって!!」


「親友だって言ったわよね!?」


「!」


「母さん何度も確認したわ!!

 椿ちゃんと一緒にいて大丈夫なのか、って!!

 何度も嘘をついていたのは、あなたでしょう!!」


 叫ぶ直美の瞳から涙が溢れる。


「俺は……!!」


 麗音愛の心にも動揺が走る。

 何度も嘘はついてきた。

 それは事実だ。 


「どういうことなの!

 椿ちゃんと今も一緒にいたの!?」


 だから、なんだというのだと怒りが塗り替える。


「いたよ!!」


「玲央……」


「何が悪いんだよ!!

 家柄だの、血族だの、そんなものなんだっていうんだよ!?」


「駄目なのよ!」


「なっ……!」


「別れなさい、すぐに!

 取り返しがつかない事になる前に!

 まだ、お互いに話し合えばなんとかなるはずよ」


「……母さん……」


「別れて親友に戻るのよ」


「なんでそんな事言うんだよ……」


「駄目なのよ、あなた達は……駄目なの」


 静かに、諭すように涙を流す母。


「ふざけるなよ!!

 椿の事を、差別していないとか言って結局は罰姫だとでも思っているのか!!」


 それでも麗音愛の怒りが収まるわけはない。

 母の言い分など、全く理解できない話だった。


「そんな、そんな事思っていないわ……」


「母さんこそ最低だ!!

 椿があんな状況になっていたのを放っておいて見殺しにしておいて!!」


「それは……」


「それに加えて……俺と椿の関係に口出しなんてしてくるなよ!!

 あんたにそんな権利はないんだよ!!」


 怒りが激しく燃えるのが麗音愛にもわかる。

 誰にも壊させはしない、2人で寄り添い掴んだ……小さな幸せ。

 母親だと思っていても憎しみの対象になっていくのが、わかる。


「玲央! 直美!」


 父の雄剣が、息を切らし玄関を開けリビングに飛び込んできた。


「……父さん……」


「あなた……」


「直美さん、儂が連絡した……知ってしまったと、わかったから……な……」


 雄剣の後ろからマナを抱いた剣五郎が顔を出す。


「お義父さん……知っていたんですか」


「なんとなく……」


「何故教えてくれなかったんです!? どれだけのことかわかっているんですか!!」


「玲央も……椿ちゃんも……幸せそうで……

 剣一も応援してやれと……」


「剣一は何も知らないから!!」


「直美、マナが怯えるよ

 ……玲央……椿ちゃんの事、本当なのか」


 立ち尽くす麗音愛に、雄剣が優しい声で語りかけた。


「……そうだ」


「親友じゃ、なかったのか」


 いつか2人で話した時を思い出す。

 

「……親友だよ。でも好きになってしまって……それで……」


「うん」


「椿も俺の事を……好きだと言ってくれた……」


「そうか」


「……それの何が悪いんだよ!?

 咲楽紫千家の血筋が悪いんだとしたって俺のせいじゃない!!」


 感情のコントロールができず、呪怨に何度か喰い千切られている。

 家族は誰も気付いていない。

 先程まで、椿の温もりを感じていたのに、今は血塗れだ。

 冷たい血が、冷たい身体を伝っていく。


「あぁ、お前のせいなんかじゃないよ」


「駄目なのよ……駄目なの、玲央

 麗音愛……椿ちゃんは駄目なの……お願いわかって……!」


 叫ぶように泣き出す直美。


「……どうして……」


「直美、玲央だって混乱するよ」


「あなたも知っていたの!?」


「知ってはいない、それでも」


「あの子をもう傷つけたくないのよ、今ならまだ……間に合うかもしれない」


 母の言葉に、少し麗音愛は驚く。


「……椿を……?

 俺が椿と付き合うことで傷つけるって?」


「そうよ」


「どういう事なんだよ」


「……いいから別れて……友達に戻るのよ……」


「そんなことできるわけないだろう!!」


「玲央……!」


「俺はもう子供じゃない!

 母さんが触れて汚した指輪に俺がどんな気持ちを込めてたか、わかるのかよ!!」


 テーブルの上に置かれたピンクのリボン。

 解かれてしまったリボン。

 そのリボン1つ選ぶにも椿の事だけ想って選んだ大切な想い。


「……別れなさい」


「……っ! そんな話聞けるか!」


「玲央も落ち着きなさい、座って話そう」


 雄剣が手を差し出すが、払いのける。


「母さんがおかしいだろ!

 親だって、口出ししていい事と悪い事がある!」


「玲央!」


「直美も……落ち着きなさい」


「……俺は、椿と別れたりなんかしない!! くだらない、身分の差なんか聞いていられるか!」


「……そうじゃないのよ」


「直美」


「そうじゃないなら、なんだって言うんだ!!」


「好き合っては、いけないの……」


「……なに……」


「あなた達だけは、どうしても

 愛し合ってはいけないのよ……玲央……麗音愛……

 どうしてわからないの……」


 溢れる直美の涙。

 それでも、麗音愛は混乱と怒りが溢れるだけだ。


「母さん……わからないよ

 一体なんだっていうんだよ……俺達が何か悪い事をしたっていうの?」


「違う、悪くないよ、お前達は……でも駄目なんだ」


「父さんまで……何故……?」


 結局は、母の味方なのかと麗音愛は父にも絶望の目を向ける。


「椿ちゃんがとても良い子だとわかってる。あの子の幸せを願っているんだ。

 ……直美、しっかり話さないと駄目なんじゃないか」


「……お願いよ

 玲央、椿ちゃんと……彼女のために離れてちょうだい」


「いやだ」


「玲央……!」


「おかしいのは母さんだって、なんでわかんないんだよ!?

 身分差とか格式なんかに縛られてバカじゃないのか!!」


「何を言うの!」


「……玲央

 咲楽紫千家はそんなに桃純家との身分差はないんだ」


「……だって母さんがずっと……そうだって……」


 そうだ、違和感を覚えていたのだ。

 やはりそうだったのかと、裏切りをまた感じる。


「あなた? ねぇやめて」


「何も知らないまま、想いを遮るなんてもう無理だろう」


「駄目よ! 嫌! やめて!!」


 血が引いていくように、冷たい……何かを感じるように麗音愛は母の狼狽を見つめていた。


「……なに……? 一体……何が」


「話せばきっとわかってくれる」


「無理よ……」


「さっき……兄さんは何も知らないって言ってたよね

 それはどういう意味? 俺も知らない何かがあるっていうの?」


「座ろう、玲央

 怪我をしてるか? 大丈夫か?」


 血の臭いを感じた雄剣が息子の身を案じる。


「……平気だよ」


 テーブルを見ると、直美が青ざめた顔で両手を握りしめていた。


「あ、マナ……! いかんぞ!」


 剣五郎の手からマナが飛び降り、麗音愛に駆け寄る。

 

「マナ……いいよ、じいちゃん」


 抱き上げると、胸元で甘えるように丸くなった。

 ふわふわの温もりが、少しだけ麗音愛を冷静にさせた。


「聞くよ、父さん。だから話して」


 マナを抱いたまま、麗音愛は直美の向かいの椅子に座る。


「あなた……まだ、そんな……」


「もう玲央も子供じゃないんだ、しっかり話そう」


 剣五郎は、心配そうにソファに座る。

 薄暗いリビングのまま、雄剣も直美の隣に座った。


「子供よ……私達の大切な大事な子供……」


「もちろん、それはずっと変わらない。

 玲央、お前は私達の息子だ」


「何を言って……」


「お前もそう思ってくれたら嬉しい、何を知っても」


 心臓が嫌な音を立てる。

 聞きたくないと、恐怖のような感情が湧き出てくる。


「どういう事……?」


「玲央、お前も椿ちゃんも大事な存在なんだ。とてもね」


「それは……うん……」


 歯切れの悪い、言葉。

 直美は、泣いている。


「父さん……はっきり言ってほしい」


「……そうだな……

 母さんと……椿ちゃんのお母さんのかがりさんは旧知の仲でね」


「……もう、結論をはっきり言ってくれよ」


「……あぁ、そうだな」


 泣く直美の手を雄剣は握りしめた。

 麗音愛の目にはそれも残酷に見えた。

 

「お前と椿ちゃんは……血の繋がった……兄妹きょうだいなんだ」


 静かな一言、心が割れ砕けていく。

 何よりも残酷な言葉に、割れて砕けていく――。



いつもありがとうございます


感想を頂ける際は

ネタバレあり、などの記載をして頂けるとありがたいです。




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― 新着の感想 ―
[良い点] ああああああ ここまで直美さんが反対して、でも頑なになぜなのか言わない理由はそれくらいしか…?いやまさかと思ったらやはりそうなのかああ 一体どうなるのか…!?
[良い点] あああああ!!。゜(゜´Д`゜)゜。 ママが頑なに反対して 何度も確認してた理由はそれかー 最初から知っていれば それはそれで仲良く出来たはず こうなるまで教えたくなかった理由が気に…
[良い点] えええええええええああああああああ!? ええ? だって、そんな…ええ!? そんな、ねえ? ええ~ [気になる点] だって、ホラ…ええええ? [一言] え? ホントに? ええ!?
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