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バレンタインデー〜美味しいカレー作った椿〜

 

 椿に促され、リビングに入る。

 玄関に入った時から気付いていた。

 良い香り。

 これは今日の夕飯は、と麗音愛も気付いた。


「カレー?」


「えへへ、そうなの」


 それと香ばしい香りもしてくる。


「ちょうどカツが揚げ上がったところなのに、お話しちゃって……すぐ用意するね」


「え? カツカレー?! すごい!!」


 カレーだけでも感激なのに、まさかカツまでとは。


「うん、麗音愛と修行旅行で作ったし……麗音愛がカツカレー好きだから」


「すっごく嬉しいよ!」


「えへ」


 照れたように、台所で椿は渡したテーブルフラワーを小さな花瓶に入れた。

 今日は髪をツインテールにして胸元が少し広めに開いたセーターに

 ミニスカート、ニーハイソックス。

 アクセントに篝の物だったらしいブローチが光り輝いてる。


 動く度にツインテールがピョコピョコして、可愛い。

 スカートにもドキドキする。


「カツカレーなんて大変だったよね」


 2人でカツを作った時の事を思い出す。

 卵を付けたりパン粉を付けたりと、結構な手間だった。


「カレーは昨日から準備して作ってあったの。

 カツも、少ない油で揚げ焼きっていうのを教えてもらったんだ。

 あの時よりはやっぱりあんまり……美味しくないかも」


 自信がないような顔で笑う。


「絶対うまいよ」


「じゃあ準備するから、私の部屋で待っててくれる?

 テーブル用意してあるから。あ、このお花も飾ってほしいな」


「え……椿の部屋で食べるの?」


 確かに誘われた時も私の部屋と言っていたが

 いつものようにリビングのダイニングテーブルで食べるとばかり思っていた。


「い……嫌だった……?」


「! 嫌なわけない!」


 こんなところで鈍感男を発揮してどうする。

 梨里達が帰ってきても2人きりでいられるようにと思って支度してくれたのに、それを拒絶する男がこの世にいるか。

 いつだって2人きりになりたい。


「嬉しいよ」


「う、うん……」


「あ、運ぶものあるよね? 手伝う」


「じゃあ、お花と、お茶と、スプーンとお箸と……お願いします

 お部屋で座っててね」


 料理を出す前の椿の緊張が伝わってくる。

 そんな姿も愛らしい。

 そういう自分の緊張にも気付いている。


 お盆と一緒に、椿の部屋のドアを開けた。

 久しぶりだ。

 というか、交際を始めてから初めてだった。


 シンプルだが可愛い女の子の部屋。

 小さなテーブルには可愛いハート模様のテーブルペーパーが置かれている

 カラトリーやグラスを並べ、花も飾った。


 椿が暮らし始めた時に買った座布団の上に座る。


 横のベッドには、もふもふ君ともふもふちゃん(二匹)が一緒にいた。

 麗音愛のあげたもふもふちゃんはリボンが付けられている。

 剣一があげたもふもふちゃんは少し離してやりたい気持ちになるが、それは情けないので我慢した。


 今まで無意識にゲームをする時は背中を持たれていたベッドなのに

 此処で寝ている姿も何度も見ているのに、すごくドキドキする。


 いつもの椿のいい匂いが濃く感じてしまう。

 何度も入った事はあるが『彼女の部屋』に来るのは

 二度繰り返すが初めてだ。

 大事な事なのだ。

『恋人の部屋で2人きり』 胸が高鳴る。


 ここで流血騒ぎは絶対にダメだと

 深呼吸をする。


 冷静になるためと確認で、携帯電話で白夜団の状況を見た。

 確かに一帯が警戒地域になっているが

 麗音愛には出動要請はもちろんきていないし待機にもなっていない。

 また雪春に助けられたのか、と思ってしまうがそこは素直に感謝しておこう。


 ドアに椿が近づいてきた気配がしたので立ち上がった。


「お、お待たせしました~」


 この前のアリスの喫茶店で少し慣れた椿は、緊張しながらも上手にお盆を運び現れた。


「すごい、最高に美味そう」


 カツカレー大盛りに、ドレッシングのかかった小鉢のサラダ。パセリがかかっている。

 盛り付けも気を遣っているのがよくわかる。


「俺、めちゃくちゃ幸せ」


「まだ食べてないよぉ」


 興奮気味に喜ぶと、クスクス椿が笑う。

 実際に腹がぐーぐー鳴った。

 ぐ~っと椿のお腹も鳴って真っ赤になってしまう。


「椿も大盛りで食べようね」


「……うん!」


 2つ並んだ大盛りのカツカレー。

 ミニテーブルで向かい合って、いただきますをする。


「うっまい!!」


「へへ……本当? あ、うん……美味しいかも」


 サクサクのカツとカレーを頬張れば椿も頷く。

 カレーもマイルドでありながら色んなスパイスが香る。


「かもじゃなくて、最高だよ」


「えへへ……良かった!」


 聞けば、ルーも市販ではなく伊予奈から聞いた特別ブレンドらしい。

 輸入食品店で色々買ってみたという。


 軟禁のせいで、ご飯を炊く事やコンロの使い方も知らず

 それでも自分から学びたいと椿はどんどん吸収していった。

 麗音愛もこのカツカレーを作れと言われたら、作れない。

 とっくに追い抜かされていたのだ。


 努力と愛情たっぷりの夕飯。


「椿はいい、およ……」


『いいお嫁さんになれるね』って言いそうになって口をつぐむ。

 外野になってどうする。


「およ? およ、なぁに?」


「お、最高に美味いおよよ」


「なにそれ、麗音愛可愛い」


 吹き出して笑う椿、幸せそうな笑顔。

 やっと安心した微笑みになる。


 世界で一番可愛い。


 自分の頬も緩みっぱなしなのがわかる。

『お嫁さん』になってもらえるように、まず自分が頑張らねば。


 今日は指輪は持ってこなかった。

 きっと沢山考えて計画してくれたバレンタインデーに渡すのは

 椿の邪魔をしてしまいそうな気がしたから。


 おかわりもあると言われたので、遠慮なく頂いた。

 美味しいと言う度に、椿もゆるんだ笑顔になる。


 カツカレーを食べながら、修行旅行の露天風呂で鉢合わせた時の事を思い出したのは絶対に秘密だ。

 ミニテーブルの下で、呪怨を払い除ける。



いつもありがとうございます。

ワクチン副反応が長引いておりまして、更新が遅くなる事があるかと思いますが

引き続きお読み頂けると嬉しいです。


幸せいっぱいラブラブな平和もそろそろ終わりそうです。

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