バレンタインデー~BL三昧!?麗音愛君~
バレンタインデー当日。
学校では浮立ちワクワクしている生徒に
絶望の顔をしている生徒など様々な雰囲気だ。
カッツーはいつも通りカップルを威嚇し、狂犬化している。
西野は猫の貰い手が咲楽紫千家に決まったことで
多少は元気になったが、それでも時折どこか見てぼんやりしたままだ。
今まで美子のような黒髪ロング派だったのが、カッツーの推しのボブカットのアイドルの写真を見てはため息をつく。
「キシャアア!! 俺の前でチョコを食う気だろうぉおおお玲央ぉおおおお!!」
「食わない、食わない。
学校でわざわざ食う必要はない。夜に椿の部屋に呼ばれてるから」
「ぎゃあああああ!!」
たまには麗音愛もカッツーに反撃だ。
カッツーはクリティカルヒットで後ろに倒れ、女子達の悲鳴が響く。
麗音愛も勉強をするフリをしながらニヤけ顔を参考書で隠した。
なんだかんだ、妖魔退治の任務はあるが気持ち的には平穏で幸せだ。
「くっしょぉおおお! 玲央!!」
「まだ生きてたか……なに」
「俺を邪険に扱うなよぉ……んん?」
「邪険になんか扱ってないぞ、当然の対応というか」
「俺はお前の秘密、握ってんだぞ」
秘密と言われれば沢山ありすぎてギクリとしたが、冷静を装う。
そんな麗音愛の耳元にソッと囁くカッツー。
「この前の休み……お前……図書部長と……ア……アクセ……心当たりあるだろう……」
1番最悪の人物に見られていた。
宝石店に入るまでに呪怨をまとい、嫌悪感や悪寒で皆が見ないようにしていたのだが……。
「う~わ~き~か~な~……?」
これは、冷静に対応しなくてはと、麗音愛は顔に出さないようにカッツーを見る。
「考えれば、わかるだろう。椿へのプレゼントなんだ。
頼む、椿にはもちろん、みんなには言わないでくれ」
真面目に頼むしかない。
「……等価交換って~……知ってるか……」
耳元にかかる息が不気味だ。
「どうしたら、いいんだよ。合コン? 頼める女の子いないんだよ」
哀しいが本当にいない。
ミニ文化祭で得た人望も2日で消えた。
「チョ~コ~レイト~……チョコ……」
「……チョコ……そんなに欲しいのか……」
麗音愛は椿がお腹が空いた時のために、いつもチョコのお菓子を持ち歩くようになっていた。
鞄からプレッツェルにチョコをかけたお菓子の箱を取り出す。
バレンタイン時期なので、ハートの印刷がされた特別仕様だと今気付いた。
「これをやるから」
「ゲット!! チョコゲットーーー!! 玲央からバレンタインチョコ貰ったぞ!!」
「変な誤解を生むから、やめろって!!」
キャーと、ある一定の女子達から歓喜の声が上がる。
プレゼントの指輪はペアリングにしないのかと美子に聞かれたが、さすがに恥ずかしいので椿の分しか買わなかった。
しかし石田なんかは、彼女とお揃いのペアリングだとミスマッチなゴッついシルバーリングをしている。
自分の分も買えば良かったか、とその時強く思う麗音愛だった。
カッツーは麗音愛からのチョコを餌に歓喜をあげた女子達とワイワイ会話を始めたので、もうほおっておいた。
窓の方を向くと、またぼんやりとした西野。
「西野」
元気がないのは友人としては気になる。
呪いのせいで心底語り合う友達ではないにせよ、麗音愛にとっては長い時間仲良くしている大事な友達だ。
声をかければ西野は微笑んだ。
「玲央、マナちゃんの写真見せてよ」
「うん、じいちゃんメロメロだよ。慣れるまで、まだ時間かかるかもしれないけど」
「あは、おじいさん嬉しそうだ」
写真のなかで、子猫を抱き上げている剣五郎の笑みを見て西野も笑う。
結局、子猫の名前は愛月姫からとって『マナ』になった。
椿も大喜びでマナと遊んだが、じゃれあって『にゃんにゃん』猫語になる椿を見た麗音愛は
マナにも西野にも感謝した。
両親も戯れる時間はあまりないが、家での癒やしが増えたと喜んでいる。
剣一もリビングにデカイ猫タワーを買ってきたりと我が家のアイドル状態。
マナは最初、麗音愛に対して……というよりは晒首千ノ刀の気配に怯え威嚇していたが
いつも以上に統制し触れ合う事を続けた結果、自分に危害は加えないと知って撫でさせてくれるようになった。
小さい、それでも輝く温もりに麗音愛も想像以上に癒やされている。
「怪我した子猫は大丈夫なの?」
「うん、耳は切れたまんまになっちゃったけど……元気だよ。兄弟でじゃれあってる」
「名前は?」
「うん、モカとチョコ」
怪我をしたモカは黒目の茶色で、チョコは名のままチョコレート色。
バレンタインっぽさを皆が感じた命名だったが、西野しか本意は知らない。
「これで兄弟なんだなぁ」
「似てないよな、性格もみんな違うよ。
モカは女の子だけど、気が強くて必死に立ち向かって……」
「立ち向かう? カラスとか?」
「あ! う、うん……そうカラスにね」
「無事でよかった」
「うん……」
また、どこか遠くを見るような目をする西野。
昼休みには、椿が男子生徒に追いかけられると困るので一緒に食堂で昼食をとろうとしたが
梨里や美子達も加わりワイワイと楽しい友チョコ配りの時間になった。
大盛ナポリタンにサンドイッチを食べ終えた椿が、手を口にあてコソコソ話がしたいとポーズをとったので耳を寄せる。
「今のチョコは……親友としてね。夜のが本命で本番ね」
耳に言葉が入ってきた途端に幸せを感じる。
人生初の『本命』という言葉に、ここでもニヤける顔を誤魔化すのが大変だ。
「はい、じゃあこれ! どうぞ!」
「ありがとう」
もふもふ君のラッピング袋に入ったミニチョコの詰め合わせ。
「私も友チョコ準備したんだよ!」
そう言って、椿は席を立って女子達の輪に入っていく。
椿のあの緊張の初登校から随分と皆と仲良くなったものだ。
つい細い目で見てしまう。
そんな麗音愛の隣にスッと来た人物。
「サラ……これを……」
「え? 俺に……?」
佐伯ヶ原だ。
「はい、大阪に行ってきたので有名なパティシエのチョコレートです。
手作りは重たいでしょうし、俺は料理はしないので……これを、どうぞ……」
小さなサイズだが、受け取るとどっしりと重い。
ラッピングも紙の質感が高級な感じがする。
「遠慮せずにどうぞ、いつもサラには俺の芸術心を高めてもらっているので
御礼……みたいなものです」
「う、うん……ありがとう」
最後にジッと見つめられ反応に困るが、遠出のお土産として受け取っておこう。
「あら、玲央にだけ?」
「お前らには、空港の大阪土産で十分だ」
そう言いながらも、チョコを使ったお菓子を3箱も美子に渡す。
「勝手に食え」
そんな佐伯ヶ原を見て、椿も笑う。
同席していた西野も、義理だが皆からチョコを貰って猫の話も盛り上がって
最近では一番笑っていたように見えた。
琴音の出現が少し不安だったが、琴音は姿を見せなかった。
それでホッとしてしまう事に麗音愛も椿も自分で気付いてしまう。
バレンタインはまだ続く――!!
いつもありがとうございます!
ワクチン副反応で更新が遅れてしまいました。
バレンタインデーはまだ続きます!
次回も読んで頂けると嬉しいです!