麗音愛の相談事、猫の呼声
放課後の図書室。
美子がコーヒーとクッキーも麗音愛の前に置く。
「で? 相談ってなぁに?」
「うん……いや、あのさ」
珍しくモジモジと麗音愛は話しにくそうな態度をする。
「椿ちゃんに、指輪をプレゼントしたいとか?」
「……!! どうしてわかった」
「最近、カップルで指輪するの流行ってるし
どこからか、そういう女の子くどくのダサい~って話も聞くし……
付き合ってても関係なくモテる椿ちゃんにはあげたくもなるよね」
「そうなんだよ……」
両手でコーヒを包むように持つ美子に、じーっと見られる。
「恋人のいない私に……指輪の相談ねぇ」
「そ、それは……!
俺こんな事相談できる女の子他にいなくて……!」
「ふふ~ん冗談よ!
私に相談してくれた事、嬉しいわよ玲央」
美子はにっこり笑う。
「よ、美子……」
ホッと胸を撫で下ろす。
「幸せで何よりじゃない」
「ありがとう……助かる」
「でもサプライズにして大丈夫?」
「……前に加正寺さんにもサプライズは危険って言われたんだけど、椿は遠慮するから」
「そんな話するほど仲良しなの? 加正寺さんと」
「まさか、去年のクリスマス前の話! 最近は話もしていないよ」
琴音も当主となり色々と忙しいのか、任務でも会う事は最近ない。
「ふ~ん。まぁ椿ちゃんなら、そうよね。遠慮しちゃうよね
ズバッと渡した方が喜ぶタイプよ。リングのサイズはわかってるの?」
「わかんないんだ。調べたらバレてしまうし、そこでストップされたら
俺も無理強いできない……」
「じゃあリングサイズと~、どんなデザインが好きか? 聞けばいい?」
「そう!! それと買いに行くの……一緒に来てください。お願いします」
クリスマスのネックレスは通販で取り寄せたが
さすがに指輪は実物を見て、買いたいと思っている。
「ヘタレねぇ……」
「……返す言葉はない」
「ふふ、もちろん協力するわ」
「ありがとう!」
「2人の幸せに、私が協力しないわけにはいかないわ」
「ありがとう……最近は美子はどう?」
「楽しいよ、毎日。大事に生きてる感じかなー」
「うん、俺も」
高校生だが、普通の高校生にはない感覚。
「白夜の方は?」
「私は、あまり呼ばれないよ。
でも歌の影響を抑えるための護符作りを内職みたいに家でしてるの」
「大変だな、それも」
あの始まりの夜。
こうやって、2人で話をしていた時には何も知らなかった。
こんな会話をする事になるとは予想できなかった。
それでもなんとか手に入れた幸せと束の間の平穏。
同じように美子も思ったようで、2人で微笑む。
「じゃあ~、椿ちゃんをショッピングに誘って
その流れでアクセサリー屋さんに行こうかな~」
「うん、お願いします」
「バレンタインもあるしね、私も義理チョコ用意しないと」
「バレンタイン……」
「本命チョコもらえるね」
「もらえるかな……」
「そこ不安なんだ」
美子に笑われる。
「……どこまでいったの?」
「い、言えるか、そんな事」
まさかの美子の質問にタジタジになる麗音愛。
「いいじゃな~い! 協力人なんだしさ」
「……キ……キスはした」
「ふんふん」
「手も繋ぐよ?」
「それでそれで」
「だ……抱きしめたり……もういいだろ」
赤面して前髪をいじる麗音愛。
「……本当に剣一君の弟??」
「うっうるさいよ!」
◇◇◇
夜の公園。暗い茂みのなか1人で猫3匹と遊ぶ男子生徒がいた。
「あれ……」
「なに」
買物袋をブラさげた摩美が、子猫と一緒にいる男子生徒のブルーシートに座る。
一匹が摩美の膝に乗り、頭を撫でた。
ガサゴソと買物袋から猫缶を取り出す。
「あんなんだけじゃ、足りないでしょ」
「あ……うん、
ポスター作ったり、これから病院代とか考えると小遣いが足りなくて……」
「だっさ」
「だよね……はは」
温かい缶コーヒーを摩美は開けて飲む。
辺りに良い香りが広がった。
「……」
一口飲んで、摩美は顔をしかめる。
「まっずい……」
「ありゃ、ブラック?」
「あげる」
「えっ」
そう言って男子生徒に渡すと、また買い物袋から新しい缶を取り出して飲み始めた。
男子生徒が持つ缶コーヒーから湯気が上る。
「……い、いいの?」
「いらないなら捨てたら」
「いや、ありがとうございます……」
「まずかっただけ」
「……はは」
じーっと缶コーヒーの飲み口を見つめたまま停止する男子生徒。
「無理して飲まなくていいけど」
「いっいただきます!!」
戸惑いながら缶コーヒーを飲む男子生徒の横で摩美は子猫に餌をやり、遊び始めた。
子猫以外の事は特に話さないまま、
男子生徒も何も聞かないまま、2人と3匹の時間は過ぎていく。
次の日も摩美は来た。
今日は猫の居場所に行く前に、公園の通路でばったり会った。
お互い買い物袋を下げている。
少し2人きりで歩いた。
「これ、チョコ」
「は?」
箱に入ったチョコを摩美に差し出すが、摩美は受け取らない。
「いや、この前コーヒーもらったし」
「貧乏人が見栄張るな」
「ぐ……いや、新作で美味しいって書いてたから……つい」
もう一度、摩美の前に差し出すと歩くのに邪魔だというような態度で摩美は受け取る。
「猫達もう家に連れて行くの?」
「……うん……でも……まだ……でも……」
男子生徒は横目で摩美を見る。
子猫を引き取れば、此処に来る事は二度とない。
「なにそれ、来週にはとか言ってなかった?」
「うん、そう……そうなんだよね」
もう少しで子猫達の茂みだ。
その時、血の臭いが摩美の鼻を突く。
「!」
そして子猫のいつもと違う裂かれたような鳴き声が聞こえた。
いつもありがとうございます!
久々の麗音愛&美子の幼馴染回と摩美猫回でした。
次回もこのまま猫回続きます。
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