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摩美と男子生徒は夜の森で。

 

 暗い夜の公園、摩美は奥へと入っていく。

 その手には何か棒のようなものが握られていた。


 舗装された歩道から外れて、芝生、茂みのなか。

 夜にこんな場所にいるのは自分くらいだと思いながら

 摩美はしゃがみ込んだ。


 そこは特に祠もない、聖域でもなさそうな茂みだ。


「ほら、来い……来い……」


 しゃがんで、パタパタと棒を振る。

 先端には、ふさふさが付いている。猫じゃらしだ。


 茂みのなかに光る瞳が見えた。

 確実にいるのだ。

 しかし、彼らはやってこない。


「……せっかく買ったのに! 来い来い……!」


 冷たい風が吹くだけだ。


「なにこれ……不良品……?

 それとも、あんた達が不良品……?」


 足音が聞こえ、摩美は茂みに隠れる。

 イチャイチャカップルなんて来たら締めてやる……! と思ったが

 現れたのは男子だ。

 学ランを着ている、高校生だろうか。

 ヒョロっとして、地味な顔。

 冴えない男、と摩美は思う。


 こんな暗がりに1人で来て自殺か?

 そんな事されたら後味が悪い、とその場を去ろうとしたその時。


「おいで、おいで……ほらほら」


 男子生徒は、猫じゃらしをチョチョチョと動かすと

 茂みから子猫が3匹、彼に向かって飛び出した。


「あはは、元気にしてた?」


 彼があぐらで座ると、ピョンピョンと膝の上に乗る。


「な、なんでぇ!?」


「わ!?」


 摩美は思わず茂みから出ていた。


「……あ……」


 驚きながらも子猫を隠そうと庇う男子生徒。

 慌てている様子だ。


「す、すみません!……準備ができたら……この子達

 里親探しをしようと思ってて……!!」


 必死に弁明しながら隠そうとするが子猫達は男子生徒のコートに爪を立て、にゃあにゃあ鳴いている。


「あ、私はそんなつもりじゃ……別に誰かに言ったりなんてしないよ」


「……この子達と遊びに来たの?」


「え? ……あ! これは」


 右手にしっかり握られた猫じゃらしが摩美の目的を暴露していた。


「……なんでそんな、あんたになついてるの?」


「え? えっと……ここによく来てて……」


「餌付け?」


 摩美がズバリと言うと男子は下を向く。


「……あの、ダメな事はわかってるんだけど

 来週にでも俺の家の環境も整うから絶対に家にまず迎えて

 里親も探すポスターも作ったりしてるんです……!

 この寒いなか、親猫もいなくて……それまでに死んじゃうと思って……!!」


 野良猫に餌をやってはいけない。

 その事について必死に弁明しているようだった。


「別に、人間のルールなんて私はどうでもいいよ

 猫も人間も同じ。人間が増えようが猫が増えようが同じだよ」


「え……?」


「あ、いや……ねぇ! 子猫達餌欲しがってるよ」


 みゃあみゃあと子猫の鳴き声は大きくなるばかりだ。

 一匹は男子生徒のマフラーに登って、ころっと転がった。


「う、うん……」


 摩美はただの興味で男子生徒の横に座った。

 どうせこんなヒョロガリ何かあってもすぐにひねり殺せる、そう思ってだ。


「餌あげて」


「うん、君もあげてみなよ」


 チューブ状の餌を渡されると、摩美の膝に3匹移動していく。


「わ! あんたらちょっと、急に~! 現金すぎる」


「あはは」


 摩美の制服のチェックのスカートがずれて膝上が丸見えになって男子生徒は目を逸らす。


「濡れちゃうから、これ敷くよ」


 冷たい芝生の上に、

 用意のいい男子生徒がブルーシートを敷いて、自分用だろうブランケットを摩美に渡した。

 2人は座り込んで子猫を抱き上げる。


「これ、どうやるの?」


「先を切ってさ、ペロペロってあげてみて」


 子猫達はにゃあにゃあ必死に餌を舐める。


「……夢中すぎ……」


 男子生徒も一匹抱え喧嘩しないよう餌を与えた。


「震えてる……寒そ……」


 震えながら一生懸命に餌を食べる子猫を、摩美がマフラーで包む。

 また無防備に、太腿が丸出しだ。


「君の方が寒そうだけど、大丈夫?」


「全然、そんな弱くないから」


「そっか……くしゅ」


 心配した男子生徒の方がくしゃみをする。


「……人間は弱いよね……」


「え? ……そうだね」


 餌をやった後は存分に撫でて、遊んだ。

 一切自分を見ない摩美を男子生徒はチラチラと気になるように見るが

 お互いに猫の話以外は何もしなかった。

 本当は5匹いたらしい。見つけた時には親猫の姿はもう無く、1匹はもう死んでいて

 途中でもう1匹死んでしまったと、悲しそうに男子生徒が話すのを摩美は無表情で聞いていた。


「……遊び過ぎた。もう行く」


 腕時計を見て、摩美は立ち上がる。


「あ、うん……あ、マフラーは!?」


「この子達にあげる」


 どうやら、茂みの中に子猫達の居場所があるようだった。


「また……来る?」


「さぁ? どうだろ」


「そっか……今週中は……ここにいてもらおうと思ってるから!」


「ふ~ん」


「う、うん……」


「ねぇ、あんた『明けの無い夜に』って歌どう思う?」


 少しでも情報収集しておかなければ、と摩美はふと思った。


「え? ……あ、あぁ良い歌だと思う! 俺は好きだよ」


「……ふふ、だよねぇ」


 振り返って少し笑った摩美。

 その去って行く姿を男子生徒はずっと見つめていた。

 子猫の鳴き声が寂しそうに聞こえて、男子生徒は子猫を抱きしめた――。


 ◇◇◇


 放課後。

 美子が図書室横の部室で、貼ってほしいと頼まれたポスターの束を整理していた。


「へぇ可愛い」


 その中に子猫の里親募集のポスターがあった。

 さくっとファイルに入れて、明日の当番に伝わるように置く。


「で? 相談ってなぁに?」


「うん……いや、あのさ……えっと」


 部室にいるのは麗音愛だ。

 コーヒーを渡すと、麗音愛は口籠る。

 美子は先生からの差し入れのクッキーを取りに戸棚に手を伸ばした。



いつもありがとうございます!


今回はちょっと珍しい紅夜会メンバーのお話でした。

で、麗音愛の美子への相談回が次回も続きます!

お読み頂けると嬉しいです!


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