ドキドキミニ文化祭~ハートの女王みたいなお客様~
アリス喫茶の受付で次のお客様を呼んだ椿。
「こんにちはぁ」
「あ、琴音さん……こんにちは、いらっしゃいませ」
にっこり微笑む琴音がいた。
同じ制服を着ていても髪は艷やか、薄ベージュのカーディガンはふんわりと上質で胸元にハートの刺繍がしてあった。
上靴はシンプルだがカーディガンと共にブランド物。ワンランク上のお嬢様という事がわかる。
「椿先輩~アリスなのに学ランのうさぎさんですかぁ?」
「う、うん……そうなの」
「もしかして、玲央先輩の学ラン??」
「そ、そう……」
答える事に戸惑ってしまう。
「玲央先輩の……」
「こ、こちらの席へどうぞ」
上から下まで見つめられながら、椿は机まで案内する。
まるでトランプのハートの女王に睨まれている気分になる。
「あざとーい……」
「あざ……」
「あ、あざと可愛いって事ですよぉ、褒め言葉です~」
「そっか……あは」
よくわからず、苦笑する椿だが褒められたとは思えない。
「椿先輩だったら、佐伯ヶ原先輩の学ランの方がぴったりだったんじゃないですか??」
「サイズは……そう……だね」
確かに学ランサイズだけと考えれば、麗音愛よりは佐伯ヶ原の方がかなり近い。
「なかは何着てるんですか? え、バニガ!?」
「きゃ!」
ペロっとまくられ、小さな悲鳴をあげてしまう。
「鹿義先輩に着せられたんですか~?」
「うん……」
ふぅ、と困ったように溜息を琴音はついた。
「同じ当主ですし、椿先輩の事を想って言いますけど~
もっと自分の気持ちハッキリ言えるようになった方がいいですよ~
でないと、玲央先輩がいつもいつも負担じゃないですか
ご迷惑ですよ」
「……そ、そうだよね……」
「そういうとこ、あざといっていうか……
あ、あざと可愛いっていうか、男性には好まれるんですかね~
さすがですね椿先輩~」
「私、そんな……」
琴音は終始ニコニコしているが、刺さる。
笑顔の裏で「首をはねろ!」という殺気を感じるような。
「椿どうした? オーダーは……
加正寺さん、食券を」
「玲央先輩……!!
なんて可愛カッコイイんですかぁ~~!!」
麗音愛が来た途端に、輝く琴音の瞳。
もともとの衣装は梨里の取り巻き用なので
面白おかしくではなく、映えるイケメン用に作ってある。
ストレートの黒髪も今日は1日だけの塗料で茶色いメッシュが入れられワックスでクシャクシャ髪にセット。
垂れ耳を付けて赤いジャケット。スラリと細いパンツに先の尖った革靴。
有名美男子コスプレイヤーのようだ。
が、もちろん他の生徒は気付くはずもなかった……。
しかし琴音の声に皆が注目し視線が集まる。
「加正寺さん、しー!
あと、ごめん距離とって」
「えー酷いですぅ」
「ごめん、注目されたくないんだ」
「もう~玲央先輩がそういうなら静かにしますけど……
食べていってもいいですよね?」
「うん」
さすがに帰れとは言えない。
しかし急にチラチラと麗音愛を見る生徒が増えた。
さっき注文をとった女生徒が『ねぇあんな人いた?』と言っているのが聞こえる。
「さっきのダサい人と交代した?」
「うっそ、鹿義メンの1人?」
鹿義メンとは梨里の取り巻きイケメングループの事だ。
嬉しくない注目の声。
まだ椿と一緒にとった休憩時間まで30分ある。
「えっと注文は……?」
「あ、はぁーい
アイスコーヒー2つとサンドイッチとクッキーです。あと龍先輩も同席しまぁす」
「龍之介と……」
「椿ーーー!!
何臭そうな学ランなんか着せられてんだよ!!
その中、真っ裸か!?」
「きゃー!」
急に現れた龍之介が椿の学ランをめくった。
「龍之介!! 何してんだよ!!」
「せっかくのバニガが台無しじゃんか」
「いいから、部外者は黙ってろ」
「お前も部外者だろう」
「俺は……助っ人だ」
「サラー!」「咲楽紫千君!」
「麗音愛……ごめんね手伝って!」
皆からのSOSが集まる。
一時の指示は受け入れられ、助けは求められるのに明日にはきっと皆が忘れる。
それでも、麗音愛は頼られる今、この瞬間を大事にしようと生きてきた。
「あ、うん!」
パタパタと麗音愛と椿は仕事に戻る。
龍之介もその姿に助っ人発言は理解したようで、2人でテーブルに座る。
「椿はやっぱかわええなぁ……」
「龍先輩まだ諦めてないんですか?」
「んあ~……惚れたら、すぐにどうでもよくはならねぇよ」
「……ですよね」
「にしても、琴音の力ってなんなの?
確かに玲央のやつ、みんなに認識されてるよな」
「桃純家にもない、私だけの
王子様の呪いを解ける魔法ですよ」
「へぇ、運命じゃん」
「はい、うふふ」
真っ黒なブラックコーヒーに琴音はゆっくり口をつけた。
椿フレンズの加代や詩織達も時間になって応援に入る。
「あ、れ~?
玲央君だよね……? あの格好のせい? かっこいい……?」
加代が不思議そうに見る。
「玲央君は、昔からかっこいいんだよ……」
ボソッと詩織が呟いた。
「え? 詩織なんか言った?」
「あ、いや、忙しそうだね! 私達も頑張ろう!」
麗音愛が注目された事に気付いた佐伯ヶ原が調理の方へと機転を利かせてくれたので
何度かアイスコーヒーを注いでるうちに休憩時間になった。
いつの間にか昼も過ぎて、助っ人なのに頑張りすぎだ。
琴音と龍之介の姿はなく、ホッとしてしまう。
「麗音愛お疲れ様」
学ラン白うさぎさんが、嬉しそうに駆け寄ってきた。
これからのハッピータイムを思えば全て報われる。
いつもありがとうございます!
9月8日にカラレスに大変素敵なレビューを頂きましたm(_ _)m
最高の宝物でございます。
本当にありがとうございました!
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もう少し平和な日常回が続きます(#^.^#)