咲楽紫千直美
麗音愛の母、直美が梨里を招いての3人の奇妙な夕食会はまだ続いていた。
「うん! このチキン最高~玲央ママ」
「嬉しいわー男達はただ黙って食べるだけなのよ」
「え、うまいって言ってるよ」
「あら、そうかしら」
椿が咲楽紫千家でご飯を食べていた時にも直美は、椿が大喜びでご飯を食べるのを優しく微笑み喜んでいた。
あの時に、母が幸せを感じていたのを麗音愛も感じた。
椿がこの場所に自分の隣にいる事も認めてほしい。
そんなにも一族同士の壁は重く高いのか。
それとも紅夜の娘だという事を本当は気にしているのか。
「玲央ママって、咲楽紫千家に嫁に入ったんでしょ?」
「えぇ、そうね」
「それで団長になるなんてすっごい。
玲央ママは白夜団所属の家の人? 全然関係ない人?」
ズケズケと物怖じしないで、質問をする梨里。
少し直美も困った顔をする。
「……全然関係ない人よ」
「じゃあ一般人なんだ、武器もないの?」
「ないわねぇ」
「結界張ったりは?」
「習いはしたけれど……才能はなかったの。団長になれたのはただ押し付けられただけよ。
あなた達に頼り切りで申し訳ないわ」
「いいんだよ、そんな事」
「でも、玲央ママは
なんかやっぱオーラが違うよね」
「まぁそうかしら。咲楽紫千家に嫁いで20年以上経つしね
夫やお義父さんのおかげかしら」
「どこで出逢ったの??」
「いやね。おばさんの過去の話なんていいのよ
さぁデザート用意しましょう~梨里さん、切り分けてもらえる?」
さらりと直美は話を終わらせた。
「あ、はぁ~い」
「コーヒー淹れるわね」
笑顔で2人台所に行った。
コーヒーとケーキを食べる間には、もう何事もなかったように梨里達に学校での話を聞く。
直美の両親は麗音愛が物心ついた時にはもう亡くなっていて帰省もない。
親戚もいない。
幼い頃に聞いた事はあるような気はするが、特にそれ以上追求したことがなかった。
両親の出逢いなども考えた事もなかったが
七当主の一族の咲楽紫千家と母はどう出逢ったんだろうか。
「はい、珈琲」
思考は珈琲の香りと甘いケーキでストップさせられてしまった。
◇◇◇
「おじゃましましたぁ」
「とても楽しかったわ
白夜団は抜きにして、これからもどうぞよろしくね」
「もちでぇ~す」
パンプスを履くと更に自分より身長の高くなった梨里を見て、直美は微笑む。
「部屋まで送ってくる」
「ふふ仲良しね」
「ちょっと話してくるかも」
「玲央、リビングでお話するのよ
あの部屋で男女2人は禁止」
「わかってる。先に休んでて」
「えぇ。梨里さんおやすみなさい」
「はぁーい! グンナイでーす☆」
2人で無言で廊下を歩き、エレベーターに乗ってから口を開いた。
「今日は本当にありがとう。これで母さんも満足したと思うよ」
「いひひ。んじゃあ~欲しいブーツ買って」
「……了解」
梨里の欲しがるブーツ。
一体どれだけの値段かと思ったが約束だ。
「あはは! 了解言ったね~~ん、じゃあ仕方ないから許してあげる~
姫に悪いしぃ? でも、あたしベルゼホテルのアフタヌーンティー行きたい」
「アフタヌーンティー?
じゃあ、龍と椿と4人で行こう」
「いぇ~い!」
「ありがとう。感謝してる」
嘘は嘘だが、丸く収まったのは確かだ。
「身体で払ってもらっても、い~けど」
「女子がそういう事言うなよ」
「ふっふ~ん。想像した? 姫と進んだ?」
「ノーコメント」
梨里が玄関を開けると、すぐに椿が出迎えてくれた。
うさぎのパジャマだ。
「麗音愛ー!」
「椿!」
「うっわーバカップル~!」
さすがに抱き合う事はしないが、椿は駆け寄って麗音愛の腕に抱きついた。
こんな事は珍しい。
寂しさを感じていたのかもしれない。
少し驚いたが、当然嬉しい。
「えへへ、梨里ちゃん。ありがとう今日の事」
「いいよーアフタヌーンティーごちになるし
……でも団長って本当に一般人?」
「え? そう言ってたし、旧姓も木村でよくいる苗字だよ。
親戚もいないって言ってたけど……あまり考えた事なかった」
「なんかたまに感じるオーラがさ、どうもそうは見えないよね」
「団長だからな~……俺はずっとそんな事気付かなかったけど。
椿、少しだけお邪魔していってもいい?」
「少しじゃなくていいよ。一緒にゲームしたいな」
「おい、いつまで玄関で話してんだよ! 柿鉄やっぞ!!」
リビングから龍之介の叫び声が響く。
「なに柿鉄大会~?? ひっっひっひバカ龍にまた貧乏神くっつけてやる!」
「アホ梨里! 望むところだ」
「俺は12時くらいまでかな。いられるのは」
母親が家にいるとなると、さすがに帰らなければならない。
「じゃあ設定10年くらいで遊べば終わるかなぁ」
「うん、そうだね」
「麗音愛、ポテトチップも食べよう~!」
また嬉しそうに椿がぎゅっと腕に抱きついてくる。
やはり、色々思うところがあったんだろう。
何も言わないが、伝わってくる。
「もう、こんな事ないようにしよう」
「え?」
「次に機会があったら、椿を紹介する」
「……麗音愛……」
リビングまでの廊下で、麗音愛は椿を抱き締めた。
◇◇◇
23時48分
本部で雪春がパソコンで何かを調べている。
本日24時からシステムが変更され当主であっても情報を自由に見る事はできなくなるが
雪春は当主権限を使いアクセスをしていた。
「……白夜団団長、木村直美……もっと深い情報は……」
パソコンの画面には『蛇願直美』と情報が露出した。
「蛇願……まさかあの一族の生き残り……?
一体彼女は篝さんとどういう関係なんだ……」
しかしその名とセーラー服姿の証明写真のように映る少女の直美。
それ以外の情報は何も、画面に映らなかった。
いつもありがとうございます!
皆様の感想、ブクマ、評価☆、レビューを励みに頑張っております。
気に入って頂けましたら是非お願い致します。
次回は、また学園回です!