平和な日常!平和な男女交際のふり麗音愛×梨里
麗音愛と椿。
色々あった誤解も解け、平和な朝。
雪は溶けたがまだまだ寒い。
お互いにあげたマフラーが温かく包んでくれる。
「俺の前歩くんじゃねぇよ、玲央」
「お前が勝手に後ろを歩いてるんだろう、龍」
「ねぇ麗音愛、クッキー持ってきたからお昼に一緒に食べようね」
「うん、楽しみ」
「ねぇねぇ玲央ぴ~このスマホケースまじ可愛さやばくない? イヴローの新作でさ」
「俺はそういうセンス、よくわからんよ……」
「おはよう、みんな」
「おはよう、美子」
ごちゃごちゃと騒ぎながらの登校。
学園内の有名人が集まっての登校で注目はされる。
なんだかんだで麗音愛が中心にいるのだが、それは誰も気付かない。
「おはようございます、サラ」
「佐伯ヶ原、おはよ。なんか久々だな」
玄関で偶然、佐伯ヶ原に会う。
見た目は女子と間違うようなマッシュショートがよく似合う可愛らしい顔。
麗音愛を見て天使のように微笑んだ。
「はい、日本画の勉強で休んでました」
「すごいな」
「……生きてて良かった」
「ん?」
「いえ」
「おはよう、佐伯ヶ原君」
「小猿!! 放課後アトリエに来いよ」
「ん? うんクッキー持ってくね」
「おう、チョコ八ツ橋をデッサン後にくれてやる」
「あ、なに~? 放課後作戦会議ぃ?
あたしらも行けるけど」
「お前らは呼んでねぇよ!! 来るな!!」
天使から悪魔への急変。
それもいつもの事になった。
それを見て梨里もケラケラ笑う。
「ミニ文化祭は来週よ、美術部の準備は大丈夫なの?」
「さぁ? 俺は展示の絵を仕上げるだけだ。
あとは副部長と他の部員に任せてる」
「呆れた部長ね」
美子がふうと溜め息をつく。
2人が並ぶと、そこそこの身長差でお姉さんと弟のようにも見えるが
そんな事を言えばどんな口撃をされることか。
「俺は雑用するためにいるわけじゃないからな
うるさい事を言うなら図書部へ寄贈してやった絵返せよ」
「いやよ、もう今年の広報誌の表紙で刷っちゃったし」
「ふん。サラのクラスは何を?」
「俺のところは……昔の町並み再現とかって小学生みたいな展示作ってる。
道場だった時の写真くれって言われたよ」
「サラの袴姿は大層素敵なんでしょうね。同化剥がしの時も
それはそれは美しい姿でした……」
思い出し恍惚の表情を浮かべたので、麗音愛は教室へ向かいながら一歩離れる。
「いやいや……」
「ふふ、みんな一緒で楽しいな」
嬉しそうに、ピョコピョコ歩く椿。
この普通な日常に幸せを噛み締める女子高生。
いつ壊れてしまいかもわからない――その想いが裏にある。
そっと手を握ると、椿はまた微笑んで握り返してくれた。
柔らかい、暖かい、ぬくもり。
◇◇◇
「あ~どもでぇす」
週末の夜
梨里が派手なオシャレをして、招かれた咲楽紫千家にやってきた。
大きめニットは片方の肩が出て胸の谷間がはっきり見えショートパンツに網タイツだ。
フープ状の金のピアスが揺れる。
「鹿義さん、いらっしゃい」
直美と麗音愛が出迎える。
「リリィでいいでぇす~! 玲央ママ!
これ食後のデザートにキャラメルチーズケーキとレモンパイ
あたしのスペシャルバズレシピのね」
ギラギラのネイルでお菓子の箱を直美に渡す。
「れ、玲央ママ……ほほ。
ありがとう。これ梨里さんが? すごいわね!!」
「さりげ簡単なんですよ。玲央ぴぃー! 昨日ぶりぃ!」
玄関に入ってきた瞬間から、咲楽紫千家の空気とは全く違うギラギラの華やかさに
麗音愛は引いていたが、お構いなしに抱きつきにきたので肩を掴み、すんででかわす。
「鹿義、お前……」
「なぁにぃ付き合ってるんだからぁ」
梨里が面白がっているのが、顔に出ている。
「親の前だから……!」
「おほほ、玲央が照れているわ~こんな魅力的なお嬢さんとお付き合いできるなんて幸せね。
さぁ梨里さんの料理ほどではないんだけど夕飯にしましょう」
「あれ? パピィは? 剣兄は? じーさまは?」
「父さんは仕事。今の状況で2人とも休みは無理だってさ。
兄さんは仕事? わかんない。じいちゃんは出かけてる。
というか、こんな夕食会しなくてもいいのに……」
「なにを言っているの玲央。
こんなに挨拶が遅くなってしまって申し訳ないのよ。
あ、いいの2人とも座ってて」
直美に言われ、2人ともテーブルについた。
ヒソヒソ声で麗音愛が梨里に話す。
「あまり暴走しないでくれ、頼む」
「だってぇ下手によそよそしくしてたら怪しまれちゃうじゃん?」
梨里は、2人が隠れて交際するには自分と麗音愛が付き合っていると思わせておいた方がいいと、ずっと主張している。
確かに今までの直美の行動を考えると、琴音や新たな女子との仲をお膳立てされても困るので椿とも話して恋人のフリを続けてもらっていた。
「ここにいるんだから、怪しまれないよ。
週末の時間を割いてもらって感謝はしてる。御礼はしっかりするから……だから」
「え~なんでも買ってくれるのぉ??」
「どうぞ、ミネストローネのスープよ
なぁに? プレゼントのお話?」
温かなスープが置かれる。
「あたし、指輪が欲しいぃ~!! 今ガッコでハヤってるんだよ」
「へぇ~今の子っておませねぇ」
「おませって! ウケる!
指輪してたら、恋人ありって印で
言い寄る男はダッサイって感じだから~ラブラブの証拠なんですよ」
「そうなんだ……」
学園内で、今は指輪にそんな効果が!
だとすると、椿が指輪をすれば告白する男も消えるという事か。
フリーでメンズ達の女王の梨里が欲しがるわけはないのでからかっているのだろう。
「梨里さんなら、玲央と付き合っててもやっぱり告白されちゃうのかしら……しっかりしないと~玲央」
「う、うん……さ、ご飯食べようよ」
昨日から下準備をしていただろう豪華な食事。
母の直美は上機嫌で、梨里と話をしている。
どうしても梨里と話がしたいと前々から言われていた。
「息子の彼女とね、ご飯食べたりするのって憧れがあるじゃない。
剣一はあの通りでもう……」
最後の剣一のくだりは心底疲れたような溜め息が漏れた。
実際に剣一が女の子を傷つけトラブルになった事はない。
しかし巻き込まれる形のトラブルは無数にあったし、彼女も作らずにいる剣一を見ると母親としては心配の方が大きいのだろう。
「玲央ママって案外可愛いとこある~!!
ほらワインもっと飲んで飲んで!」
「ほほ……楽しいわね」
「飲んで飲んで!」
「あんまり飲ませるなって」
親に対して嘘をついている事実。
罪悪感がないわけではない。
しかし家柄だのうるさい母親に対しての反抗心も少なからずある。
もちろんこの夕食会は椿も承知だ。
椿こそ、麗音愛の両親に嘘をつく事に罪悪感を抱いているのがわかる。
いや、咲楽紫千家の事を思い出すと、麗音愛との交際にも罪悪感を抱いているのがわかる。
「そうなの……修行旅行では、カツカレーをね。報告書で読んだわ」
「めっちゃ美味しくて~! ねぇ玲央ぴ」
「うん、美味しかった」
協力してくれている梨里には申し訳ないが、すごく椿に会いたくなってくる。
この奇妙な夕食会はまだ続く。
いつもありがとうございます!
平和回が続きます。
皆様のおかげでこの長い連載を続けるモチベーションを頂いて
ありがたいです!!
いつもありがとうございます。
次回はギャル梨里の無神経発言が?
お読み頂けると嬉しいです。