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真面目れおつばバカップル

 


「おじゃましまーす」


「は~い、ふふ。私の家は久しぶりだよね」


「うん」


 椿の家に2人で玄関から入る。

 確かに久しぶりだ。

 正月は終わったがそれを思わせるゴージャスな冬らしい、いけばなが玄関に飾られていた。

 梨里と龍之介みたいな匂いもしてくる。


「梨里ちゃんがいけたの、凄いよね」


「へぇ……うん、そうだね」


 よくはわからないが、綺麗なのはわかる。

 匂いがするのは棒の刺さったディフューザーか。


「美人でスタイルもいいし、なんでもできるんだよね。お料理もお花やお琴も」


「へー」


 麗音愛的には肉食女子的な追いかけられ方を最初からされたので

 逃げるのに必死で梨里を女子として見た事などなかった。


 男子やギャルからは絶大な人気もあるようだし

 気付いた頃には椿は梨里とすっかり仲良しになっていて料理を教えてもらったりしているようだ。

 まぁそれでも女子としての興味はない。


「私も、もう少し色々できるようになりたいな」


「椿は色々できてるよ」


「ん~お料理もまだ全然……」


「お弁当美味しかったよ?」


「あれは冷凍食品も使ったんだもの。

 今も当番の時は、炒めるだけの調味料とかそういうの使ってるし……」


「いいと思うけど」


 龍之介が実際羨ましい。

 たまに登校時、夕飯自慢をしてくる時があるのだ。


「麗音愛、優しい。また作るね」


 椿が微笑むと、あの甘い階段での弁当タイムを思い出した。


「じゃあおにぎりくらい俺が作ろうかな……」


「わぁ食べたい!」


 話をしながらダイニングテーブルに沢山買ったドーナツを置くと、椿は台所に向かう。


「コーヒー淹れるね! えっと~この機械で淹れられるはず……」


 椿だけが住んでいた時は、粉のインスタントだったが

 今では梨里の選んだ、なんとかのなんとかというお高いコーヒーマシンが置いてある。


「インスタントでいいよ」


「え~でもこれで淹れると美味しいって聞いたのに~でも……あれ?

 ん? ん~~あれ? あぁ~わかんない!!」


 ゲームは得意だが意外に椿は機械オンチな面もある。

 それでもほぼ電子機器に触れない生活をしてきたのだから十分に適応している方だ。


「俺はインスタントも好きだし、俺達はいつもの俺達でいいんだよ」


「麗音愛……うん」


 ダイニングテーブルで向かい合って座ってドーナツを食べる。


「やっぱり、堅いのにチョコかけたのが一番美味しい」


「でも黄色いつぶつぶのも美味しい」


「わかる!」


 3つ食べたところで椿が時計を見て、ふぅと一息ついた。

 話か、と麗音愛も思う。


「あの、するって言ってたお話なんだけど……」


「うん……先に俺からの確認なんだけど」


「え? なぁに?」


「椿がしたいのは、別れ話じゃ……ないよね」


「え!? わ、別れ話!?

 わ、別れたいの……?」


「別れたくないから、聞いたんだよ」


「別れ話なわけない……」


 椿の方が泣きそうになったので、麗音愛は慌てて笑顔を作って見せる。


「よかった」


「別れ話じゃないけど……麗音愛は、私の話聞いたらどう思うか

 私もちょっと怖い」


「話してくれないとわからないけど、大丈夫だよ」


「……わからないのに、大丈夫なの?」


「うん」


 麗音愛が見つめると、椿は少し恥ずかしそうに下を向く。


「……今日、病院に行ってたの」


「え? 病院? どこか具合が?」


「検査してもらったんだ」


「検査を?……なんの」


「うん……私って普通の女の子と同じなのかなって

 私はあの化け物の娘でしょ……それで私は普通の身体なのかなって

 もしかしたら普通とは全然違う、中身は化け物なのかもしれないって」


 まさか椿がそんな心配をしているとは全く思っていなかった。


「麗音愛は怖くなかった……?」


「全然」


 本心からの即答だ。


「そ、そっか……えっと身体は大丈夫だった! ……今のところ」


「うん、もしも……何か違ってても俺は怖いなんて思わないよ」


 正直、麗音愛自身の方が千切れた身体を何度も再生を繰り返し

 先程の男達が失神するような呪怨を纏っている不気味で穢れた存在だと自覚している。

 それを受け入れてくれる恋人を否定する感情など絶対に生まれない。


「……それと……心も気になっちゃって……」


「心……?」


「あの化け物……おかしいでしょ

 へ、変態で卑猥でわいせつで……気持ち悪くって……」


「あ、あぁ」


「私もそうだったら、どうしようって」


 椿は下を向いたまま、話す。

 ものすごく恥ずかしい話を、恥辱に耐えて頑張って話してくれているんだろうと思うと麗音愛は立ち上がって椿の手を掴んだ。


「あっちで話そう」


「……うん」


 向かい合って話すより、ソファで話そうとコーヒーとココアを持って

 でも一応椿には触れないように隣に座った。


「でも……心配になったのは俺のせいだよね」


「麗音愛の……?

 私が、自分が変だから不安になったの」


「変って?」


「えっと……キスしたりしていたら……なんだか……」


「うん」


「最初は幸せな気持ちだったのが……その……最近変で」


「あぁ……」


「この前……あの……」


「……うん、わかった」


 男なら普通に感じる欲情が、椿には初めてで戸惑ったんだろう。

 説明を詳しく聞きたい気持ちにもなったが、あんまりに不安で恥ずかしそうなので理解した事を伝える。


「椿は全然変じゃないよ」


「……そうなの?」


「うん、この前のキスは俺がしたわけだし、俺も同じだったから……してしまって

 だから、俺の方が変と言うなら変。

 男はそれを言ったら、みんな変なんだよね。

 あ、でも変なわけではないんだよ。正常なはずで……

 いや、俺達は正常なはずだ。えっと……どう言えばいいか」


 説明の仕方がとても難しい。

 なんでも大丈夫だよ、とクールにいくつもりが全然説明できない。

 男は皆あなたよりスケベだから心配するなと言えばいいのか。

 心配するなって言えるのか、それは。


「だって、私がもし変態でスケベだったら怖いし、嫌でしょ……?」


「……椿が……スケベ……」


『いえ、最高です』とは言えるわけはないが……『やっぱり最高です』と心で答える。


「うん……嫌われちゃうと思って」


「嫌うわけないよ」


「……やっぱり自信なくって……」


泣きそうになりながら言う椿。


「俺は何があっても、ずっと大好きなままだよ」


 不謹慎ながら可愛さで胸が高鳴り、麗音愛はマイ呪怨統制パワーを最大限発揮して椿を抱きしめた。


「麗音愛……本当?」


「もちろん本気の本当だよ。椿も俺が怖くない……?」


 その言葉に答えるように、椿も麗音愛を抱き締める。


「もちろん麗音愛は怖くない……大好き。

 ……でも、それとは別で怖いと思う事もある……」


「うん、そうだよね」


 椿が今までされてきた事を思えば嫌悪や恐怖は当然だ。


「どうなっちゃうか……わからないし怖い」


「うん」


「でもきっとみんなは違うんだよね。

 ……こんな私でも……いい?」


「うん、椿が嫌がることは絶対にしない

 俺達は俺達の2人のスピードでゆっくり進んでいけたらいいなって思う」


「うん……よかった」


「……でも今キスしたいなって思うんだけど」


「うん、私も……」


 できるだけ優しく、口づけた。

 触れただけですぐ抱き締める。

 椿も安心したように、胸元で微笑んだ。


「誰に相談したの?」


「伊予奈さんに……普通の人間なのか調べたいって言っただけだけどね」


「今まではなんでも俺に相談してたのに」


 雪春ではなかった事に安堵はしたが、今までの親友という立場とはやっぱり変化してきたと思う。


「でも今回の事は、麗音愛に相談できないもん」


「うん……まぁ」


『普通の女の子の身体か』どうかの検査……。

 それをもしも相談されたら。


『麗音愛、私が普通の女の子かどうか、私の身体……調べてほしいの……』


 妄想してしまった。


「うっ」


「麗音愛?」


「ごめん、ちょっと……トイレ」


「うん」


 そっと、そっと椿から離れる……。

 見せないようにしたのだが、不思議そうに見た椿が叫んだ。


「きゃー! 麗音愛!! 背中が血まみれ!!」


 死にかけたのがバレてしまった。




いつもありがとうございます!!

今回はラブコメ感が強い回でした。苦手な方にはすみません

それでも2人特有の事情という事で楽しんで頂ければ嬉しいです!

次回も珍しく楽しい学園篇が続きます。

読んで頂けると嬉しいです!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 死にかけた!! そりゃ椿ちゃんも悲鳴あげるよꉂꉂ(๑ノ∀˂)ʷʷʷ ムーン脳だからすぐにそっち方面を妄想しちゃう( ˘ω˘ ) 奴を化け物と呼び、めっちゃくちゃに嫌悪する椿ちゃん最高ww
[良い点] 「最高です」とか血まみれとかわろた 命がけラブコメ回/(^o^)\
[良い点] あの化け物って紅夜のことか/(^o^)\ だから純粋な恋愛感情までは平気でも、それ以上のことを考えるとどうしても抵抗があるんだなあ… 身体が普通の人間かどうかを気にしていたのも無理のない…
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