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デートアクシデントデート



 数日、お互いに思うところがありながらも仲良く登下校し約束していた土曜日になった。

 前日に待ち合わせを決める時、麗音愛は用事がある場所の近くに行こうかと

 提案したが椿は駅前を希望した。


 なんの用事でどこに行くのかは聞いていない。


 いい彼氏ぶりたいわけではなく

 椿の新生活は見張りが常にいたのだ。

 なので麗音愛は椿に対して詮索しないように心掛けている。

 束縛はしたくない。

 その距離感は恋人になっても変える気はなかった。


 夕方からのデート。

 門限を考えると、あまり時間はない。

 ゲームセンターで遊んで、夕飯を食べて終わりかなと色々考えていたが

 椿がすると言っていた話の内容が気になる。


 ソワソワして早めに家を出てしまい、落ち着かず本屋をウロウロしてしまう。

 遅れそうだとメールが来て買った本をカフェで読もうとするが集中できない。


 ふと、カフェのドアが開き椿の姿が見えた。立ち上がり手を上げるとすぐに駆け寄ってきた。


「麗音愛、ごめんね! 遅くなっちゃった」


「椿おつかれ」


「ごめんなさい、あんまり時間もないのに」


「いいよ、お疲れ様」


 走ってきたのか息のあがっている今日の椿はロングスカート。

 上はパーカーにダウンジャケットとカジュアルな格好だ。

 いつもカジュアルだがロングスカートは珍しい。


「はぁ~ごめんね。待ったよね……」


「気にしない、気にしない」


 目の前の席にとりあえず座った椿のお腹が盛大に鳴った。


「わっやだ!」


 照れ笑いする椿。


「お腹減ってる? 此処で何か食べよう」


「……で、でも」


「此処のスパゲティ美味しいって。なんかお腹空かせてきそうだなって思ったから

 予め評判いいとこ調べて待ってたんだ」


「えぇ! 嬉しい~

 朝から何も食べてなかったんだ!」


「朝から!? 大丈夫?」


「こんなに食べないでいたの久しぶりだよ」


「じゃあ此処でいっぱい食べよ」


「麗音愛は? まだ17時だけど……」


「俺も空いてる!」


「よかった」


 食欲が湧かずだったが、椿の笑顔を見たら食欲が湧いてきた。

 単純だ。


「わぁ、このクリームスパゲティ美味しそう~!!」


「俺はこのトマトかな。2人で大盛りにしよう。あ、あと俺ピザとサラダも食べたい」


「うん! 私も~!!」


 他愛のない話をしても、美味しい食事。

 初めてのすれ違いから2人で行った遊園地を思い出した。

 2人で食べるとなんでも美味しい。


「ひゃ~、寒い……!」


 温かな店を出ると、冷たい風が頬を撫でる。

 無意識にお互い寄り添った。

 次はゲーセンだ、と大通りに向かって歩こうとしたが、2人はふと歩みを止める。


「……よどみが……」


「うん、感じるな」


 椿が張り直した菊華聖流加護結界は以前よりも威力を増し

 街を浄化する作用は強まったが、それでも100%クリーンになるわけではない。

 いまだに『明けのない夜に』はネット世界で再生数は伸び続けている。

 その影響もあって、あちらこちらで穢れの澱みができてそれが妖魔の素になってしまうと言われている。


「行こう」


「うん」


 椿の察知能力も増している、かすかに澱みを感じる場所に2人は走った。

 大通りから外れ、怪しい飲み屋街。

 古いスナックなどは店を閉め、最近は若者達が集まる店が増えたと聞いた事がある。

 そこから更に裏道に入っていくと冬だというのに古ビルの玄関は開け放たれ

 クラブに改造されているのか大きな音楽が聴こえる。


「……あの曲か」


 やはり『明けのない夜に』だ。

 椿が麗音愛の腕を掴み、2人は手を繋ぐ。


「なんだぁ~? ガキども……」


 入り口でタバコをふかしていた男が古ビルの前に佇む2人に気付く。

 男はピアスだらけの耳に、ところどころ穴の開いたズボンを履いている。

 爪は真っ赤なマネキュアをして、首元には骸骨のタトゥーが見えた。


「ガキがいちゃつきに来る場所じゃねえぞ……

 それとも言えるか? 約束を……」


「約束……?」


「終曲の約束……知るわけねぇか」


 ビルからは異様な叫び声も聞こえてくる。

 泣き声のような、歓喜のような。


「新入りか? お、なんだよ……可愛いじゃん」


 麗音愛と椿の後ろから、またクラブに来たらしい男が数名。

 男達は椿に手を伸ばす。

 麗音愛は椿を守るように抱き締めた。


「おいこら、いちゃついてんじゃねーぞ」


「こんな弱っちそうなのが、俺らの集会にでも来てみろ。

 泣いてしょんべん漏らすぜ」


 爆笑する男達。


「お~い、女はこっち来い。いい事教えてやるぞ

 興味津々だろ? お前らの年代はよ」


「エロい事たくさんしようぜぇ。どうせ滅亡するんだ。 

 その前に楽しまねぇと」


 わざとに、舌を出して舐めるような仕草を見て気持ち悪さで椿は麗音愛にしがみついた。

 何かリミックスされたように、また『明けのない夜に』が聴こえてくる。


「こんなくだらない曲ありがたがっているのか……」


 麗音愛が静かに声を出した。


「あん?」


「本物の闇を見せてやる……苦しむ人の怨念を、血の叫びを……」


 麗音愛の足元から呪怨が吹き出す。

 それはまるで血飛沫のようだ。

 いや、実際に闇の黒に血も混ざり溶岩のように怨念達が

 手を伸ばし、牙を剥き、叫ぶ――。


 男達にしがみつく、地獄に来いと喚き狂う――。


「ぎゃああああああ!」


 その場にいた男達は全員、恐ろしさで白目を剥き失神した。

 崩れ落ちた男達を見て、すぐに椿は古ビルを見つめる。


「穢れよ……消えて――!」


 まるでビル火災のように、3階立ての古ビルは青い炎に包まれた。

 中で騒いでいる連中にはわからないかもしれないが確かに浄化はされている。

 

 男達が倒れている異変に気付く前に、麗音愛は椿を抱いて飛び上がった。

 青い炎はまだ燃えて、穢れを焼き尽くすだろう。


「……椿、大丈夫?」


「うん」


「ごめん、あんな場面を見させて嫌な思いをさせた」


「ううん」


「本当に……ごめん。あいつらが変な事を言う前にどうにかすべきだった」


 また男の嫌な面を椿に見せてしまった。


「麗音愛は悪くない。何も謝らないで任務内の事だよ、気にしないで

 浄化できて良かった」


 椿がそのまま抱きしめてくれる事で安心はしたが、ロングスカートが上空の風にひるがえる。


「きゃー!」


「わ! わわ!」


 椿のパンツ丸見え状態に慌ててお姫様抱っこする。


「……ふぅ……寒くない?」


「うん、ありがとう」


「本部に報告をして……どうしようか」


 ゲーセンに行く予定だったが、微量な澱みを探知する為に歩いて探したので時間も過ぎてしまった。


「2人で……お話したいな」


「……うん、どこ行こうか」


「私の部屋に帰ろう?

 今日は梨里ちゃん達は遊んで来るって言ってたの」

 

「……椿の……」


「……いや?」


「嫌じゃないけど、2人きり?」


「うん……2人っきり……」


「そ、そう……」


「誰にも聞かれたくなくて……」


「うん、じゃあそうしよう」


 一体なんの話なのか、それでも椿の願いはなんだって叶えたい。

 

「ドーナツ買って帰ろうか」


「うん……!」


 変化は誰にも止められない。



いつもありがとうございます!!

昨日更新でしたが、ワクチン接種の副反応が出たので1日遅れてしまいました。

れおつば回まだ続きます。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 真剣なシーンでパンツ! パンツはつよい…わかる… 麗音愛、冷静ぶってるけど脳内が一瞬で塗り替えられてるよねw どんなパンツだったのか気になる( ˘ω˘ ) あと麗音愛が買った本はどんなの…
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