カノジョとカレシのナヤミ
「はぁ……」
椿は本部の待機部屋兼休憩部屋でため息をつく。
先日、琴音が提案しココアやハーブティーなども用意されていたので
ココアを入れて椅子に座った。
「……はぁ……」
「どうしたんです? ため息なんて」
丁度部屋に入ってきた雪春。
団服ではなく、スーツを着ている。
整った顔立ちに長身。
長い髪を結び、眼鏡の彼は今時ではコスプレイヤーにも思われるかもしれない。
「あっ雪春さん」
「こんばんは。制服でこんな時間に……一体どうしたんだい?」
「伊予奈さんを待っているんです」
「伊予奈さんを……何か相談かな?」
「は、はい……そんな感じです」
雪春はコーヒーメーカーでコーヒーを注ぐと椿の座っているパイプ椅子から
2つ離れた椅子に座った。
「交際をすると、色々とわかってくる事があるよね」
「……え」
「恋をしてた時とは、また違う悩みが出てくる」
「そう……かも、そうですね」
「自分の中にも新しい自分を見つけたり」
「……はい」
「相手の違う面が見えたりしてね……ってやっぱり恋の悩みだったかな」
「え! あ、えっと……」
「大丈夫?
悩んでいる時が多い気がしてね」
「そ、そうかな……えへへ大丈夫です」
椿は慌てて笑顔をつくる。
「玲央君に酷い事されたら僕に言うんだよ」
「れ、麗音愛は、いつも優しいです!」
「ごめんごめん、冗談だよ。玲央君は優しいよね」
「はい……私が……」
その時、ドアが開いて伊予奈が入ってきた。
伊予奈もスーツ姿だ。
ショートボブだった髪が、結婚式に向けて少し伸びている。
「ごめんね~待たせてしまって!
……ってあら、雪春さん」
「お疲れ様です」
「お疲れ様です~雪春さんも夕飯ご一緒にと言いたいところなんですが
今日は女同士で」
「えぇ、女子会に混ざるほど野暮じゃありませんよ。いってらっしゃい」
「えぇ、じゃあ行きましょう」
「はい。雪春さん、それではまた」
「うん、またね」
にっこり微笑み、手を振る雪春に椿も微笑んで礼をした。
重たいドアが閉まる。
伊予奈と2人廊下を歩く。
「個室の美味しいレストラン予約したのよ。
沢山食べてね、御礼ができて嬉しいんだから」
「あの時の事はもう気にしないでください~私の方が急に連絡してしまって……」
椿が伊予奈を救った時の事だ。
多忙な2人は予定が合わず、椿は気にしていなかったが
伊予奈はずっと御礼がしたいと言っていた。
「すごく嬉しいわよ私に連絡くれて……」
「あら、椿ちゃん」
廊下で直美に会う。秘書の佐野には先に行くように告げ、立ち話が始まった。
「団長お疲れ様です」
「お、お疲れ様です団長」
椿も頭を下げた。
「もう、椿ちゃん。堅苦しい挨拶なんていいのよ。
合波さん、今日は……?」
「えぇ、椿ちゃんと健康診断の事で相談を」
「健康診断……?」
「あ……あの」
「桃純家の当主も健康診断しないとですよね
団長、私からしっかり報告致しますから」
「合波さんは若い子達の相談員として信頼しているわ。
私には言えない事や役に立たない事も多いでしょうから
合波さんになんでも相談してね。プライバシーは守るから」
「は、はい」
「会議室を使うの? 夕飯届けさせましょうか?」
「いえ、せっかくなので美味しいものを食べに……
もちろん経費にはしませんよ!」
「ふふ、わかってるわ。じゃあ楽しんでね」
にこやかな笑みを浮かべたまま直美は去っていく。
こんな優しい言葉をかけてくれる女性に一方的に緊張してしまう椿は
自己嫌悪の気持ちになってしまった。
それはもちろん、彼女の息子の麗音愛と秘密に交際している負い目のせいだ。
「さ~行きましょう!
健康診断は病院使うから報告はするけど、個人的な話として団には報告はしないし」
「はい、すみません。少し不安があって……」
「うんうん。いいのよ。全部話さなくていいの」
椿の性格を把握している伊予奈は、何も聞こうとはせず優しく椿を車に乗せた。
◇◇◇
「そっち行ったぞ!」
「うぉおお!」
麗音愛の一閃で切り刻まれた妖魔。
剣一が一帯を浄化する。
「よーし完了~!
塾での勉強の後だってのに、気迫がすげーなぁ」
「はぁ……」
「にしては辛気臭いな……どうしたんだよ
急になんでもいいから任務させてくれとか連絡してきたと思えば
ため息かよ」
「……はぁ……」
「なんだよ、さ、早く終わったし俺は行きたいとこあるから帰ろうぜ」
早く終わったと言ってももう真夜中だ。
剣一は携帯電話で話し『行くよ』とだけ聞こえてきた。
「女の子のとこ?」
「お友達だよ、お友達!」
「なんのお友達なんだか……」
「なんだよ、もしかして性欲持て余してんの? 玲央君」
剣一の大きな車の後ろで団服を脱ぎ、浄化袋に入れ私服に着替える。
「うるさい……俺はもう性欲なんてもんはいらないんだ」
「え? 高校生男子が?
お前せっかく性欲取り戻すために修行までしたのに……」
「変な言い方するなよ、修行は呪怨コントロールのためだ」
「椿ちゃんに無理強いして嫌われちゃったの?」
「……」
「え?」
「……家まで寝る」
「えー!? まじなの玲央君……」
着替えのあと、2人で運転席と助手席に乗り車が動き出す。
兄の声を無視して携帯電話を見ると、椿からメールがあった。
『帰ってきたよ、麗音愛も塾お疲れ様でした
明日も一緒に学校へ行こうね』
任務に来た事は言ってなかった。
いつもどおりのメールだ。
まさかこれで土曜日に別れ話なんて事はないと思いたい。
とりあえず今日はヘトヘトに身体を疲れさせて何も考えないようにしようと思ってた。
交際している女の子はいなくとも、うまくやっている兄。
兄だったら、こんな状況でもうまく……
そう考えると一層に負のループに落ちそうだったので麗音愛は目を閉じた。
いつもありがとうございます!
れおつば回続きます!
日曜日にコロナワクチンを打つので更新が遅れるかもしれませんm(_ _)m
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