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あけましておめでとう、今年もよろしく

 

 大晦日が終わり、元旦。

 ふと、椿が目を覚ますと、そこは病室だった。

 いつもの白夜団専門病棟だろう。


 ベッドの脇の椅子に座って麗音愛がベッドにもたれて寝息をたてている。


「あ……」


 傍にいて、と言ってしまった事を思いだす。

 麗音愛も病院の寝間着で、点滴されたまま。

 椿にも点滴がされており、まだ頭も身体も重い。


「麗音愛……」


 ワガママを言ってしまった……と思いながらも

 愛しくて綺麗な黒髪に触れると、麗音愛の瞳がそっと開く。


「椿……、おはよう

 あけましておめでとう」


「あ、あけましておめでとう」


 また、初めて人に言う言葉だった。

『あけましておめでとう』と椿は初めて言った。


「うん、今年もよろしく」


「今年もよろしく……お願いします」


 静かにお互い微笑む。


 ◇◇◇


「あけましておっめでとー!!」


 半日検査入院をして、夜に剣一の乾杯で咲楽紫千家の半日遅れの正月祝い。

 テレビ電話で団長の直美と、雄剣も顔を出した。


『椿ちゃん、本当によく頑張ってくれてありがとう』


『剣一も玲央も、本当によくやったよ。ありがとう』


「椿が一番頑張ったよね」


「そんな……麗音愛や剣一さん、皆様のおかげです」


「俺や怪我人の治療もしてくれて

 みんな椿ちゃんの事、聖女だって言ってたぜ」


「な、何を言ってるんですか」


『すごい力よね……こんなにもすごい力を持った当主は歴代初めてだと思うわ』


 直美が目を細める。

 表彰を考えていると直美が言ったが、もちろん椿は焦って首を横に振った。


「母さん達はいつ休めそう?」


『当分、先かしらね……でも休み休みしてるから心配しないで

 もう白夜団だけでの話でもなくなってきたから、色んな人達と協力してやっていくわ』


『お前たちは気にせず、ゆっくり休みなさい』


「うん」


『椿ちゃん、セーター着てくれたのね、よく似合ってる』


「はい、ありがとうございます」


 大晦日に着ていたプレゼントされた服だ。

 数時間しか着ていなかったので直美達に見せるために椿はまた着たのだった。


『……そのブローチね。あなたのお母さんのものなの』


「え?」


 キラキラとビジューが輝く胸元のブローチ。


『昔ね、少しお母さんとお話した事があってプレゼントしてもらったのだけど』


「え……わ、私が頂いていいんでしょうか」


『お母さんの物、ほとんどないでしょう。椿ちゃんが持っていてくれた方がお母さん喜ぶわ』


「母様の……嬉しいです。ありがとうございます」


 直美が微笑み、椿がそっとブローチに触れる。


「母さんって篝さんと仲が良かったの? 知らなかった」


『少しお話した事があるっていうだけよ

 篝さんは桃純家のお姫様なんだから』


 また身分違いの話にされてしまうと、麗音愛はもう言わなかった。

 雄剣が優しく微笑み『じゃあ楽しんで』と言い通話は切れた。


「あ~本当、紅夜会のやつら散々な目に合わせやがって」


 剣一はガバガバとビールを飲み、刺し身を食べる。

 そう言いながらも片手は報告書類を読んでいる。


「剣一さんのおかげで菊華も成功させる事ができました」


「あの後、兄さんが倒れて意識不明だなんて焦ったよ」


「マジでな~俺も気付いたらICUでびびった。 結構やばかったらしいな。

 椿ちゃん、ありがとうね」


 朝2人で言葉を交わしてすぐ麗音愛は椿に剣一の状況を話し椿は紫の炎で昏睡状態の剣一を治療した。

 それから椿はその場にいる怪我人や疲弊した人を回って治療をし続けたのだった。

 そしてまた検査の後ぐっすり眠って夜になり今に至る。


「ん~可愛い椿嬢! お礼にほっぺにちゅー」


「やめろ! 椿に近づくな!」


「無事で良かったのぅ、立派だお前達は……」


 剣一の顔を思い切り手で遠ざける麗音愛。

 そんな兄弟を見ながら剣五郎は涙を拭う。


 椿が剣五郎にお茶を淹れると玄関のチャイムが鳴った。


「お、来たかな~」


 美子と佐伯ヶ原だ。

 新年の挨拶を口々にする。


「サラ、お疲れ様でした」


「佐伯ヶ原も美子もお疲れ様。

 無事で良かった。正月にうちに来て良かったの?」


「はい、どうせ両親は外国なんで」


「うちも私を心配しすぎて両親ともグッタリしちゃって

 ダラダラ過ごすから行っておいでって」


「おい、小猿

 あんなガキと俺のどこが似てるってー!? お前は本当に低能だな!」


「ひえ!?

 お正月から酷いよーー!!」


 そうは言いながらも、麗音愛に渡したお土産は有名店のチョコタルトだった。

 またキャーキャーと言い合いが始まりながら改めて宴会が始まる。


「玲央君の彼女がいないのが、残念じゃな」


「え? じいちゃん何…… あ、あ~……」


 大晦日のドタバタですっかり『恋人が梨里』設定を忘れていた麗音愛。

 無事だとは聞いたし、それ以降は連絡もしていなかった。


「テレビ電話でもしないのかい?

 会いたいだろうに。決死の戦闘の後だ」


「あ~……だ、大丈夫。心は通じ合ってるっていうかアハハハハ」


「へぇ~玲央、お前どこまでいったんだよ彼女と」


 ニヤニヤと笑う剣一。


「黙ってろよクソ兄貴……!」


「相変わらずね、2人とも」


「サラの自然な兄弟喧嘩、美しい」


「あ、あはは……」


 ワイワイとテレビを見ながらの正月パーティー。

 あの歌を流した放送局はかなり厳しい警告をされる事になるだろうという話だが

 世間では何故この大人気曲が放映されないのか、という事が話題になってしまっている。

 世の終局や世紀末、人々の恐怖を煽るような動画も増えてきた。


 大晦日の騒動も、どうにか誤魔化してはいるようだが

 これから激化するであろう紅夜会との闘い……どこまで誤魔化しが通用するのか。

 そこは自分達が考えても仕方ない、と麗音愛は椿に言った。


「あ、ちょっと椿」


 麗音愛が伊達巻を頬張る椿を呼んで、部屋に来た。


「麗音愛どうしたの??」


 クローゼットを開けると、そこから学ランを取り出す麗音愛。


「あ……」


「ボタン、潰れちゃったから」


 ネックレスに付け、下げていた第二ボタンは衝撃のせいか潰れてしまっていた。

 2つに割れてしまい、もう首からは下げられない。

 それでも椿は大事にすると、椿模様のハンカチに包んでいた。


「あれがいいとは思うんだけど……新しいのいる?」


「う、うん……いいの? 首元が寂しいなって思ってた」


「じゃあもらってくれる?」


「……うん。すごく嬉しい!

 最後はボタンと麗音愛のおかげで成功したって思ってる」


「椿の頑張りだよ」


「ううん、麗音愛が来てくれて

 それですごく力が湧いたんだもん」


「椿の力だよ」


 ぶつっと取って、椿に渡す。


「わぁ、ありがとう……2つとも、大事にする!」


 両手で愛しそうに包んで微笑む。


「卒業式にも貰ってね」


「……う、うん!」


 今まで未来が黒い闇で、考える事ができなかった椿。

 でも少しずつ、その未来を手に入れていきたいと思ってほしい――麗音愛はそう思っていた。

 

 死にたくないと思ってくれた事が嬉しかった。

 自分が椿を好きな気持ちが伝わって、椿も自分をもっと大事に甘やかすくらいしてほしいと思う。


 優しく椿の両手を包んだ。

 今日はもちろん、手は溶けない。


 かがんで、顔を寄せた。

 いつもは椿も上を向いてくれるのだが、仕草に気付いたのに下を向く。


「椿……?」


「み、みんないるんだもん……ダメ」


「え」


「恥ずかしい……すぐそこにみんないるのに」


 居間の方から盛り上がった笑い声が聞こえてきた。

 もちろん麗音愛の部屋のドアは閉まってる。


 それなのに、困った頬が赤い椿。


「……可愛い」


「……えぇ!?」


 声に出てた。




いつもありがとうございます。


バトル回も終わり

やっと新年も明けました!(夏真っ盛り)

しばらく、れおつばラブラブ回を書けたらいいなと思っております。


皆様の感想、ブクマ、評価、レビューをいつも励みに頑張っております。

気に入って頂きましたら是非お願いします。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 自然と口に出ちゃった( ˘ω˘ )b 大変だったからちゃんと休んでゆっくりしてほしいよ〜 みんなまだまだ高校生なのに、早く安心して生活できるといいなぁ 私も参加して刺身食べたい(*´﹃`*…
[良い点] 大晦日の結界修復バトルお疲れ様〜! 全員必至になって 出来ることを最大限頑張って 最後は2人の絆の力で乗り越えた! どうなるかと思ったけど、 良い年明けを迎えられて良かった!! [一言]…
[良い点] 激しい戦闘も済んで一息……紅夜の動きもまだまだ本気じゃない感じで不安だけど、こういう空気はいいですね。 れおんぬはすぐに声に出ちゃうな
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