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大晦日結界修復作戦~最後の鐘がなる前に~

 

 麗音愛と椿は全ての地点の浄化も終え、指示を受けた街の真ん中にある電波塔に来た。

 電波塔は観光スポットにもなっており展望室もあり、そこに通された。

 本来ならば年越しイベントをやる予定だったらしいが、ハッピーニューイヤーの幕が虚しく降ろされている。


「こんな風になってたんだ……」


「うん、俺も久しぶり小学校の見学以来かな?

 前より綺麗になってる

 まさかこの電波塔に、大事な役目があったなんて」 


 以前に遊園地からの夜景にも見えた電波塔。

 ここがこの街の、そして国の菊華聖流きっかせいりゅう加護結界かごけっかいの中心

 要になる場所だ。


 2人で街を眺める。

 年が明ける喜びに、哀しみが怒りが混ざっていない事を願ってしまう。

 団員が展望室の一角に祭壇を用意していた。


「桃純様、こちらへ」


「はい、お願いします」


 式服へ着替えるために、椿は一度麗音愛と離れた。

 さすがに疲れたと麗音愛は展望室のベンチに座り込む。


 携帯電話が鳴った。


「……はい」


『玲央先輩~!! やっと出てくれましたね~』


「ごめん、飛んでたから」


 飛んでいても実際は出られるのだが、琴音だと知って出るのを後にしようと思ってしまったのだった。

 任務に重要な指示は本部や兄の剣一がくれるので琴音からの電話は私用だとわかる。


『今どこにいるんですか~!?』


「電波塔だよ」


『私も行きます!!』


「え? いや、本部の指示は」


『自分の意志で行動する許可もらって~……まーす』


「此処より街のなかは大丈夫なのかな

 歌の影響が出てると聞いたよ」


『大丈夫ですよ! 伊予奈さん達もいますし』


「兄さんに、特務部長に聞いてみよう」


『玲央先輩……遠回しに避けていません??』


「か、加正寺さんは強いし、力のバランスを考えてだよ!」


 麗音愛は自分が言い訳をする時は声が大きくなる事を知った。


『雪春さんが、先輩のところに行くようにって言ってた気がします』


「じゃあ確認とってから俺からまたかけるよ。大事な戦力だし」


『はーい……あの玲央先輩……』


「うん」


『私、婚約破棄しました』


「え?」


『詳しくは、会えたらお話しますね! じゃあ』


 電話を切ると、ため息が漏れる。

 衝撃の婚約発表から、すぐの婚約破棄。

 何があったのか、考えたくない。

 やはり琴音は苦手だし、黄蝶露と一緒に闘う時の感覚も苦手だ。


 剣一に電話しても出なかった。

 支給された濡れタオルで顔を拭き水を飲む。

 さすがにボロボロになった団服も着替えた。


「麗音愛」


 菊の華をイメージしてなのか、黄色の式服に着替えた椿が出てきた。

 さっきまで血やススにまみれていたのが嘘のように白粉と紅で化粧され、髪も結われている。


 綺麗だ。


 緊張した今と此の場所では何を言えばいいのかと少し考えたが

 団員に時間まで休むように言われ2人でベンチに座る。


「疲れたよね」


「麗音愛も……」


「少しでも休んで」


 身を寄せると、いつものように肩に椿が頭をもたれた。


「似合ってる」


「……へへ、ありがとう」


 不意にまた着信だ。

 龍之介からで、グループ通話になっている。

 剣一も通話に参加しているようだ。

 椿にも聞こえるようにして出た。


『おい! 椿はいるか!? 電話に出ないぞ』


「あ、電話忘れてた」


「ここにいるから話せる、そっちは終わったのか?」


『儀式をやめろ! 椿、お前死ぬ気か!?』


「え!?」


 龍之介の言葉に麗音愛が驚きの声を出す。


『剣兄も、知ってて椿に()めをさせるつもりなのか!?』


「釘差君」


『失敗すれば、死ぬんだぞ!! 首が飛ぶって!!』


「兄さん、どういうことだ」


 麗音愛の声は静かだが、重みがあった。


『おいおい、龍之介。俺が椿ちゃんを騙して過酷な事させるような言い方をするなよ』


 間に剣一の声が入る。


「釘差君、私は危険があるってわかってる」


「椿?」


「知ってるの。この前勉強して聞いてたから」


 不安の瞳を向ける麗音愛に、椿は頷いた。


「それでも誰かがやらなければいけない。

 危険がある以上、私が一番最任です」


「でも危険ってどういう事」


『膨大なエネルギーを束ねる仕事だ。束ねるバランスを誤れば暴発する』


「なんだって」


『だから、椿ちゃんに届くエネルギーが均等になるように、俺達で今できるだけ整えるんだ』


「そんな事ができるのか」


『やるんだよ』


『俺も今、梨里のばあちゃんとこでそうは言われたんだが……

『バカ龍がぁ!! 話をしている場合かぁ!?』

 ちょ! ばあちゃん待てや!!』


 梨里の祖母の絶叫の後ろで梨里の声も聞こえる。


『最終的にこの街に集まる6方向の聖流は今日俺達が回った6地点に集まってくる。

 その段階で更に調整し、椿ちゃんに託す』


「兄さんに負担はないのか?」


『あってもやるさ。それでも成功するか、わからないが今はそれに賭けるしかない』


 動揺している自分を自覚して、麗音愛は息を吸う。


「……椿、浄化をする時に椿にもダメージはあるだろう」


「……うん、多少は……。

 母様の血や舞意杖、同化してくれた武器達のおかげでそれなりに大丈夫だけど

 やっぱり邪魔な血が入ってるから……」


「さっきから血を流して、それで今回の大きな聖流を相手にして

 本当に大丈夫なのか……俺はそれも不安だった」


 一般的に聖流と呼ばれるものと今回の『聖流』は少し意味合いが違う。

 土地神や術者の力も混ざり合っているので

 紅夜会で何かしら邪に影響されているものは扱えないだろう。


 此処までのダメージも累積されている。

 椿は微笑むが、顔は白粉ではなく青白い。


『それは……俺も実際不安だ』


 正直に剣一が話す。


「一応、どの程度の負荷がかかるのか剣一さんとも調べてはいたの。

 怪我はすると思う。それでも、やらなきゃ。

 こんな危険な事他の人にやらせられないもの。私で良かった」


『椿ちゃん、すまない』


「何を言っているんですか。

 私でもできる事があって良かったと思います」


『くっそ……椿、死ぬなよ絶対に』


「うん、釘差君もお願いします」


『わかった、お前はすげー女だから絶対大丈夫だな!』


 後ろで梨里の祖母の怒声が聞こえ、龍之介は通話を切った。


「俺は、何もできないのか」


 聖流を扱う作業だ。

 先程までの聖流でも酷いダメージだった。

 麗音愛が干渉すれば身も精神も破壊されかねない。


『お前は椿ちゃんを守れ

 多分この一帯にいる妖魔全て、その電波塔に向かい術者を殺そうと向かってくる』


 妖魔に知恵はないが、自分達を滅する存在には本能なのか牙を剥き襲いかかるのだ。


「一匹たりとも、ここには近寄らせない」


 麗音愛の言葉に、椿がそっと手を握った。


『頼むぞ、もちろん俺だって初めての事だが全力を尽くす』


「私も全力を尽くします」


『零時丁度に始める。終わったら年明けパーティーしような』


「はい」「了解」


 通話は終わった。

 危険がある事を言わなかった椿が、申し訳なさそうな顔をしたので肩を抱き寄せた。


「2人とも危険は知っていたんだね」


「麗音愛ごめんなさい、勉強の過程で、こういう事態になった時の話もしていたの」


「ごめん、謝ってほしいわけじゃない」


 2人を責めるのは筋違いだ。

 情けないのは、椿の傍にいられない自分だ。


「離れて、力にもなれず、情けない。

 何もできないでいて、椿に何かあったら……」


「属性だもん、仕方ない……麗音愛はいつもその強い呪怨でみんなを守ってくれてるよ

 私だって……麗音愛が1人で妖魔と闘って何かあったら……って怖い」


 ぎゅうと椿が想いの強さのように、麗音愛の胸元にしがみつく。


「必ず戻る」


「うん……私も」


 それ以上はお互いに言わなかった。

 愛の言葉も、無事の祈りも、言えばそれが最後になるようで、それ以上は言わなかった。


 そして最後の除夜の鐘が響く時が、近づく――。







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