大晦日結界修復作戦~聖女は一体誰なのか~
雪春が発動させた超浄化結界の影響で通話にノイズが走る。
琴音は浄化結界の中には入らない方が良いので100メートル外にいた。
『お話ってなんですか? 雪春さん
私、移動しながら伺いますね』
「先程、加正寺家の潔氏から連絡があった……」
『はい、新しい加正寺家当主様からですね』
「崇さんの事聞いたよ。さっき君が持っていた刀は
加正寺本家の骨研丸だね?」
『えぇ、そうです』
先程との、やり取りはもう報告されていた。
同化継承する事なく、闘う事もなく潔は当主の名を手に入れたのだ。
大急ぎで当主を名乗る手続き、儀式の準備をしているだろう。
「そして婚約解消……無茶をするね」
『仕方ない事です』
そういえば、そんな事もあったと琴音は思う。
「家の中での話だ。僕が何か言える立場ではないけれど
君の無茶を僕の指示だ、なんて誤解されないようにしてくださいよ」
『えー?』
「今まで老人達の手前、活躍できなかった若い人に
明橙夜明集を持って士気を高めたいとは思っているが……革命を起こしたいわけじゃあない。
玲央君は僕への猜疑心も強いからね。誤解されたくはないんですよ」
『大丈夫ですよ
そんな風には思わないんじゃないですか~?
玲央先輩には言ってませんし』
ケラケラと琴音の軽い笑い声が、雪春の耳に入る。
「ならばいいのです
今後、その刀も使っての二刀流で?」
『もちろん。加正寺家の宝ですから
白夜団にはあげませんよ。
女子高生が二刀流で闘うのですもの! 団内でも素晴らしい鼓舞になりますよね?』
雪春が苦笑し、息が白く舞う。
「そうですね、今のこの不穏な状況では
希望の存在のようになって頂きたいものです」
『うふふ、白夜の聖女ってところでしょうか
じゃあ玲央先輩の援護に行ってもいいですか?』
「C地点に今いる頃だろうけど。本部での指示を仰いでください」
『はーい、それでは』
名残惜しさもなく、通話はすぐ切られた。
雪春はまだ苦笑したまま。
ジェラルミンケースから浄化に必要な道具を取り出していく。
「白夜の聖女……みんな誰を思い浮かべるかな」
雪春の長めの髪が、揺れる。
◇◇◇
麗音愛と椿のいるC地点。
避難が済んでいる大きな寺。
妖魔はいたが、ナイトはいなかった。
違う寺の108の鐘、除夜の鐘はまだ鳴り響いている。
寺が閉鎖されているのを知らされ本当の理由は知らずに帰っていく市民達。
麗音愛はできる限り椿の負担が減るように闘い守り、そして乱れた聖流に身を投じる――。
「はぁ……はぁ……ぐ……ぅ」
「麗音愛!」
整えが終わり、麗音愛は倒れ込んだ。
駆けつけた椿は麗音愛が止める間もなく紫の炎で包む。
「ダメ……だ」
そうは言っても、息がまともに吸えずに言葉にならない。
全身の痛みが引いていくが、椿の瞳から流れる涙も血の色だ。
「ダメ……麗音愛これ以上無理しないで」
「……無理するな」
「無理する!」
椿は炎をおさめようとはしない。
「……じゃああと3秒だけお願い……しようかな」
「うん……」
そう言って麗音愛3秒経ち、ボロボロのままだが起き上がった。
「麗音愛まだ」
「大丈夫、任務もあと少しだ」
自然にお互い支え合うように抱きしめ合う。
「……椿がいてくれるから、頑張れるよ」
自分がいなければ、こんな闘いに巻き込まれる事もなかったというのに
純粋なまでの優しさに椿の胸は切ないような愛しさでいっぱいになる。
「私も……」
お互いにもうボロボロだ。
それでも心は負けていない。
「さっきの聖流に、兄さんを感じたね」
「うん、その分麗音愛はしんどかったよね。
次からは私だけでやる!!
多分次のEに行くまでには聖流の流れがもっと強くなってると思う」
「着実に進んでる。全国でも皆頑張ってくれているね」
「うん……!!」
麗音愛の言った通り、本部から連絡が来て全国で破壊されたり穢された地脈や祠は
修復しつつあり、その他の団員で妖魔討伐も進んでいるようだ。
「紅夜会のいいようにはさせない」
静かだが、強い麗音愛の言葉。
「私の力でどこまでできるかわからないけど
前よりもっと強力な結界にしたい」
「絶対できるよ、椿なら」
肯定だけ――。
その言葉が勇気をくれる。
椿が抱きつくと、ぎゅうっと抱きしめられ呪怨の翼が開く。
「もう、飛べるの……?」
「うん。急ごう、次は浄化、そして最後の締め。
早く終わらせて、そして年明け一緒に過ごそう」
「うん……!!」
◇◇◇
梨里と龍之介も白夜団のワゴンに乗り込み倒れ込む。
「あ~~さすがに、もう無理ぃ……バカァ!! 腹立つぅ!!」
梨里の自慢のカールされた茶髪も汗と妖魔の体液と焼けた呪符などにまみれている。
車内なのに浴びるように水を口に含んだ龍之介は残りを梨里に渡し、梨里もそれを飲み干す。
「はぁ……はぁ……やべぇ……ねみぃ限界……」
「バカ龍!!
まだ姫も玲央ぴも闘ってるよ!」
「くっそ」
「でも、あたしももう無理なんすけどぉ……」
ワゴンが発車して座席からずり落ちそうになる2人。
梨里の携帯電話が鳴った。
「ばぁちゃん!? なしたの!?」
『これから桃純家の姫様が締めの作業に入る!!
お前らも此処へ来いぃ!』
かなりの距離を走り、妖魔を討伐し続けた。
祖母がいた場所に戻るにも時間がかかる。
「はぁああ!?
なんで綺麗にし終えた場所にわざわざ!!」
『桃純家の正式なる御当主様の菊華聖流加護結界の総締めじゃ!!
失敗されぬように、力を出さぬかこの釘差のバカ孫が! 命に関わる事だ!』
「失敗って命って……そんな危ない術なの!?
姫どうなっちゃうんさ!?」
『首が飛ぶ』
静かな言葉が余計に心臓に刺さる。
「……首、まじ言ってんの」
「おい!! 車を飛ばせ! 全速力だ!!」
龍之介が叫んだ。
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大晦日編もそろそろ終わりへ向かいます。
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